第2章-第6社 交流会(前編)
自己紹介とオリエンテーションが終わり、放課後。教室では秋葉とエルへの質問も兼ねた、一年A組総勢十四名による交流会が行われることになった。
手始めにローテーション形式雑談タイムが設けられ、秋葉たちはくじ引きで四、五人のグループに分かれ出す。
教室の一角に固められた机の周りに集合すると、偶然にもそこには熾蓮と悠がいた。知り合いがいて助かったと安心したのも束の間、栗色のショートカットに緑の瞳の男子生徒がやってきた。
彼の名前は神城樹。自己紹介の時に聞いた話だと、茨城県にある息栖神社の神職で、中学卒業と同時に京都へ引っ越してきたらしい。
「お、熾蓮もここか」
「そうやで。よろしゅうな」
熾蓮を見た途端、そう呟く樹に熾蓮は笑いかける。その様子を見ていた秋葉は彼らにこう問いかけた。
「あれ? 二人って面識あったっけ?」
「面識も何も寮室が一緒だからな」
「へぇ、そうなんだ! ちなみにあたしと秋葉も一緒だよ!」
樹が応えると、悠は秋葉に腕組みをしながら言った。彼女の距離の近さには驚かされるが、別段悪い気はしないのでここは流れに乗っておく。
「最後は……なんだ薫か」
「どうも。わたしで悪かったね」
残り一人は誰かと辺りを見回していた樹が呟けば、やってきた茶髪ショートウルフに金眼の女子生徒が不貞腐れたように返事をした。
彼女は龍月薫。奈良にある春日大社の神職だ。自己紹介の時に一瞬、声の低さとその容姿で男と勘違いしてしまったことは記憶に新しい。
そんなこんなでメンバーが揃い、秋葉たち五人は着席したところで十五分間の雑談タイムがスタートした。
「始まって早々なんだけど、薫と……」
「――神城樹だ」
話を切り出した悠が薫の次に樹へ視線を向けるものの、名前がすっぽり抜けたのか言い淀む。と、状況を察したのか彼は改めて自分の名前を口にした。
「あ、そうそう。樹って知り合いなの?」
熾蓮と樹が「樹お前、影薄いんとちゃう?」「うっさいな」などと小声でやり取りをする中、悠が問いかける。すると、首を縦に振った薫が応え始めた。
「所属してた道場自体は違うけど、お互い小さい頃から同じ流派の剣術やっててね。初めて会ったのって小四の合同稽古の時だっけ?」
「だな。対戦早々コテンパンにやられたのが懐かしい……」
頷きつつ、樹は感慨深そうに語る。出会いが対戦相手同士とはまるで少年漫画にでもありそうな展開だなと思っていると、まさしく悠が同じことを呟いて一人盛り上がっていた。
「じゃあ、薫って強いの?」
「幼馴染……。良いな」と二人の話を聞いて、少女漫画に毒されたのだろう一人ゴチる悠を他所に、秋葉が尋ねる。
「男所帯の春日道場でもトップクラスの実力を持つぐらいにはな」
「何それ凄っ!」
樹の話に秋葉と熾蓮、悠の食いつくようにして一斉に声を上げた。そんなことないと薫本人は謙遜しているが、剣術未経験の秋葉からしたら、刀を縦横無尽に振れるというだけでも凄いものだ。
「ちなみに男装してんのって剣術と関係あったりするん?」
「そうだね。刀差すとき一々帯を腰に結び直すのが面倒だし、何より抜刀の時に抜きにくいからさ。後は家が男系で男兄弟しかいないから昔からお下がりで男物の服着ることが多かったりして、男装の方が楽だからってのもある」
饒舌に語る薫へ、秋葉、熾蓮、悠の三人は興味深そうに相槌を打つ。
ズボン式の馬乗り袴を履く際に巻く角帯は、現代では男性の場合は腰骨、女性の場合はウエストの位置で締めるのが一般化している。
だが、薫の場合は抜刀しやすさという実用性を重視した結果、男装しているようで、帯が腰の位置で巻かれていた。幼少から剣術一筋でやってきた彼女らしいなと秋葉は感心する。
「それで樹。こっちに来るなら来るで一言ぐらい連絡くれても良かったんじゃない?」
そう話す薫の声色には微かに怒りが込められていた。それに気づいた樹も気づいたようで、気まずそうに一瞬目を逸らした後、こう続けた。
「引っ越し準備で忙しくて連絡する暇がなくてな……。悪かった」
「いいよ。そういうことなら仕方ない」
てっきり薫は知っているものと思っていたが、生憎とそうではなかったらしい。
「樹って茨木から来たんだよね? どうしてまた京都に? 関東にも大神学園はあるはずだけど……」
そういえば、何故樹がこっちに引っ越してきたのか理由を知らないなと思った矢先、悠が質問を投げかける。
「実は両親が代報者兼結界師で、三年間の京都での長期任務に呼ばれてな。俺も手伝うことになったから中学卒業と同時に家族総出でこっちに引っ越してきたんだ」
結界師とはその名の通り、結界術を専門とする代報者のことでその名家の一つに神城家が該当する。
忍びに剣術の達人、果ては結界師の家系とこのクラスって実は凄い人たちの集まりなのではないかと思わずにはいられない。
「それにしても、秋葉と熾蓮もだいぶ仲良さげだが、どういう関係なんだ?」
「確かに。オリエンテーション中もよく喋ってたもんね」
樹の問いに薫が同意する。
「悠の言葉を借りるなら幼馴染かな」
「そうやな」
「また幼馴染っ……⁉」と動転する悠を尻目に、熾蓮が喋り出す。
「初めて会うたんは七歳やっけ?」
「そうそう。熾蓮の他に結奈と舞衣って子も幼馴染なんだけど、三人とも親の付き添いでうちの神社に来ててね。親がみんな仕事のことで話し込んでたんだけど、私らは暇でさ。熾蓮が待ってるだけじゃ退屈だから遊ぼうって言ったのが始まりだったかな」
秋葉はどこか懐かしそうに語る。その出会い以来、熾蓮たち三人が学校帰りや休日などの時間のある際には、神社へ集まっては遊んで、時折手伝いをしてもらったりで、北桜神社が半ば四人の溜まり場のような扱いになったのだ。
「ようそこまで覚えとるな」
熾蓮は感心した表情を浮かべる。
「当時は神社の手伝いばっかで遊ぶ友達とかいなかったから、尚更だろうね。でも、そのおかげで今ではおばあちゃんの跡継いで無事に宮司やれてるし」
「ちょっと待て。その歳で宮司ってどういうことだ?」
「あー……えっとね……」
話を聞いていた樹からストップがかかり、秋葉は肉親が亡くなり、跡継ぎが自分一人しかいなかったことを説明する。
通常、宮司というのは、秋葉のような特殊な環境下でない限り、長年経験を積んできた神職がなるものなのだが、中学生の時点で家族全員を亡くした秋葉は家を継ぐという意味でも、半ばならざるおえなかったのだ。
「秋葉、言ってくれたらいつでも手伝いに行くからね」
「幸いこっちに来てから神社の業務がない分、手は空いてるから困ったら遠慮なく頼ってくれ」
「そうやで。これからは代報者も兼任する分更に忙しなるやろうしな」
「あ、三人ともずるい! あたしも!」
「みんなありがとう。エルと二人だけで大変だから助かるよ」
事情を把握した薫と樹は勿論、熾蓮と悠からもそう言われ、秋葉は胸がいっぱいになる。実際のところ、小規模の北桜神社でも二人での運営はかなり負担がかかる。エルがいるのでギリギリ何とかなっているが、手伝ってくれる人がいるのは有り難いというものだ。
「にしても幼馴染多いな~! 五人中四人とかどんな比率かっての!」
「まあ、代報者自体かなり狭い界隈だからね。そういう悠はいないの? 幼馴染」
薫に問われ、悠は険しい顔つきで唸った。
「小さい頃から時々遊んでた同い年の男子ならいるよ。松尾大社の神職でちょうどB組だったはず。でも、あいつ何かとお節介だから幼馴染っていうよりお兄ちゃんみたいな感じなんだよね」
悠は否定しているが世はそれを幼馴染というのではなかろうか。
(というか、その人見るからに悠に振り回されてそうだな……)
恐らく悠の言うお節介というのは、自由奔放な悠を心配してのことだろう。B組にいるのであれば、近いうちに会えるかもしれない。
「いいね~。こう見えてボク長生きだから、若人のそういう話好きだよ~」
「若人ってな……。というか、いつからおったんや」
急に現れたエルに熾蓮がジト目を向ければ、「ついさっき。だけどみんなの会話は全部耳に入ってるよ」と返答が来た。エルの話に聖徳太子か何かかと秋葉は呆れる。
すると、やり取りを耳にしていた樹が思い出したように話し出す。
「そういや北桜神社の神様だったか。そのなりだからエルが神様ってこと忘れるんだよな」
「そんなぁ、忘れないでくれたまえよ……」
エルの嘆きを最後に時間が来てしまい、このグループでの雑談タイムは終了となった。




