第2章-第2社 寮室での一幕
「着いたー! ここがあたしたちの部屋だよ!」
「へぇ、思ったより広いね」
気を取り直してやってきた寮室は二人で住むにしては広く、入ってすぐのところにはキッチンが設置されており、その向かいにはバストイレ、扉を挟んだ奥の両脇には二人分のベッドに勉強机、その手前には高さの低い長方形のテーブル、壁際にはテレビがセットされていた。
なかなか良さそうな雰囲気だと感じつつ、秋葉は手早く台車に積まれたダンボールを空いたスペースに降ろす。邪魔にならないようにと手の空いている悠にスーツケースを壁際の方に寄せてもらう。
「荷物降せたことだし、台車返しに行ってくるね」
「だったらもうすぐあたしらの制服が届く時間だし、着いてくよ」
「お、了解」
二人は下に降りて台車を返しに行くと、代わりに制服の入ったダンボール箱を持って部屋へと戻ってきた。
「では、いざ開封の儀といきますか!」
制服の入ったダンボールを前に気分を高揚させる悠へ、秋葉は恐る恐る口を開く。
「あのさ、悠ってもしかして……漫画とかアニメ好きだったりする?」
「お、よく分かったね」
「悠の机の周りに大量のグッズが置いてあるし、本棚も漫画で溢れかえってるから」
秋葉は悠の机と本棚に視線を向けて言った。本棚にはこれでもかというほどに少女漫画や恋愛小説、それらに関する特集雑誌が並んでおり、悠の勉強机はそれに付属するグッズでいっぱいになっていた。
それらの中には秋葉が知っているものもちらほら見受けられる。
「ってことは秋葉も?」
「うん。二次元コンテンツはかなり漁ってるよ」
「いいね~! これは趣味が合いそう!」
「そうだね」
悠につられて、秋葉も微笑む。これから共に暮していくにあたって価値観が合わなかったり、趣味が合わなかったりしたらどうしようと思っていたが、それらは杞憂に終わったようだ。
最も多少違っていようが、人の良さそうな悠なら受け入れてくれることだろう。
ダンボールを開封して制服に着替えること十分。
上はカラー襦袢に白の着物、校章の刺繍付きの小振袖の紺羽織、下はトレンカタイツに紺色の袴を履き、最後にズリ防止用の茶色のベルトを身に纏ったところで、秋葉と悠は室内に設置されている全身鏡の前に立って姿を確認する。
「お、秋葉似合ってるじゃん!」
「悠もね。和服着慣れてる側からしたらこの制服はありがたいな~」
「確かに! ってことは、秋葉も神職だったり?」
「そうだよ。北桜神社っていう右京区の嵐山にある神社のね」
「え、凄っ! 嵐山に住んでるんだ!」
嵐山と聞いた途端、悠はキラキラと目を輝かせてはしゃぐ。
「まぁね。てか、そういう悠も神職なの?」
「うん! あたしは西京区にある千草神社の神職だよ。あたしんとこは周りに何もないから、羨ましい……!」
「いやいや、こっちはこっちでどこ行っても観光客ばっかだから、結構大変だよ」
通学路の道中にある渡月橋周辺は観光客で溢れているため、学校の行き来でひと苦労し、近所にはまともにスーパーがなく買い物に困り、嵐山は観光に特化してしまったが故のデバフ効果がある街でもある。
それはそうと自分や熾蓮に加えて悠も神職となれば、やはりここは神道系の学校だけあって同業者が多いのだろう。秋葉がそう思う傍ら、悠はダンボール箱の底に入っていた紙を拾って読み始める。
「えーっと、今着てる制服にプラスして、茶色のブーツと任務のときには革製の黒手甲とウエストポーチが着いてくるみたい。イヤリングの着用は自由らしいけど、どうする?」
「んー、物には力が宿るって言われてるし、せっかくならつけようかな」
「だよね。女子にとってはおしゃれにもなるし」
その他付属品は入学式当日となる明日に配布されるようだ。秋葉と悠は一通り確認できたところで制服を脱ぎ、引っ越しの荷物の開封作業へと移った。
ひたすらダンボールの中身を開封して収納配置していくこと二時間。
悠にも手伝ってもらい粗方整理が完了したところで、作業の邪魔にならないようベッド脇に置いてあった黒い蝶のマークが入ったダンボール箱を開封しに移動する。
「後はこれか……」
秋葉はダンボールの封を切るべくその場にしゃがむ。
(……あれ?)
ダンボール箱の側面へ視線を移すと、ここに置くまであった黒い蝶のマークが何故か消えていた。一体どういうことだ……。そう首を傾げた瞬間、目の前に白い光が現れた。
「うわっ! 眩しっ!」
あまりの光の強さに秋葉は腕で視界を遮ると同時に目を瞑る。数秒の後、光が収まるのを感じて瞼を開けると、そこには体長七十センチほどの白狼の図体に烏の翼を生やしたマスコット姿のエルがいた。
「って、エル⁉ どうしてここに……」
突然のエルの登場に秋葉は呆然とするのだった。




