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少年呪術師  作者: 森新児
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第61話 選ばれし者ども

 祭りには祭司や勢子やイケニエのほかに()がいる。

 日本呪術の重鎮榊家の跡継ぎである嘉子と美津子さんは、その血筋のよさから秘儀ブリガドーンの客として遇されることになったようだ。

 相撲勝負を宣告してから嘉子も美津子さんも能面のように顔から表情が消えた。

 神事の神聖な力が働いて、二人とも今は完璧に行司とその補佐という()になりきっている。

 相撲勝負の決着がつくまで、二人が本来の自分にもどることはない。


「これより行う相撲勝負はいわゆる伝統相撲とはルールが異なる」


 嘉子の発言を淡島をはじめとする帝国呪術班の面々、および黄泉醜女も神妙な面もちで聞いた。

 相撲は神事である。

 いったん勝負がはじまると神聖な力が働き、地獄の鬼といえどもこれをおかすことはできない。


「勝負は頭が地面についた者、負傷により戦えなくなった者、また戦意を喪失した者の負けである。

 むろん勝負の途中で命を落とした者も負けだ。戦いかたは自由である。

 殴ってよし、蹴ってよし、投げてよし、絞めてよし、目つぶしもよし。得物も自由である。銃器は禁止だが、それ以外のものなら刀でも槍でも好きに使うがよい。もちろん術を使ってもよい。質問はあるか」


「噛みついてもよろしくて?」


「かまわん」


「あら白人のお嬢さん、あんた相撲とる気かい? やめときなよ、きれいなお乳をさらして泣くのが関の山だよ」


 お腹の大きな卑弥呼がからかうと黄泉醜女がドッと笑った。

 するとカラミルはそばにいたユイを抱き寄せ、彼女の頬にキスした。


「わたしほんとはこういううぶでかわいい女の子が好きなの」


 カラミルは頬を真っ赤に染めたユイをだきしめた。


「でもあなたのように面の皮がお尻の肉みたいにぶあつい熟女も好きよ。相撲の相手があなたならうれしいわ」


 ユイの肩にそっと手を置き、カラミルは不敵に笑った。

 卑弥呼の目つきがたちまちとがる。

 とがったがしかしなにもいい返さないのはお腹の子を気にしているからだろうか?


「静粛に。双方選抜した力士の名前を紙にしたため提出せよ。まず対戦を希望した早川一党、紙を出せ」


「はい」


 ぼくはぺんてるの筆ペンで書いたメンバー表を提出し、ついでにそばにいた淡島に「テント小屋の観客はどうなったの?」と尋ねた。


「心配ご無用。彼らは今もあそこにいて、丸盆で繰り広げられるサーカスの幻を見てニコニコ笑ってます。ブリガドーンが終われば彼らは目覚め解放されます」


「そう」


「早川三郎一党、

 先鋒、薩摩の氏長(うじなが)


 美津子さんがメンバー表を読みあげた。


「次鋒、不破善鬼

 中堅、高森健一

 副将、平井カラミル」


 ここでおお! とどよめきが起きた。


「あの子ほんとに出るのかい?」


 と卑弥呼があきれている。


「あいつらたまげてやすぜ、へへ」


 と才蔵が楽しそうに笑った。


「にしても三郎さん、あのお嬢さんほんとに大丈夫なんですか?」


「才蔵さん、さっきのやりとり見たでしょ? うちのチームでいちばん強いのはあの子だよ」


「ちげえねえ」


「大将、早川三郎」


「え?」


「ちびGが大将?」


 こんどはぼくの名前を聞いたクラスメートがうろたえた。


「三郎まじかよ!」


 そう叫んだのは五年A組の番長オサムだ。


「おれが代わりにやってもいいぜ!」


「大丈夫、みんなはゆっくりしてて」


 うちのメンバーを聞いた淡島と水島は顔を寄せあい、なにやらひそひそ話し合いをはじめた。


「では淡島一党、紙を出せ」


「は」


 美津子さんは淡島から受け取ったメンバー表を読みあげた。


「淡島一党。

 先鋒、関樽吉」


(ふん、やっぱ相撲がデスマッチだった時代の最強力士氏長にはアマ横綱の関をぶつけてきたな)


 ぼくは腕組みして考えた。


(予想通りだ。いずれにせよ水島功児は大将戦に出てくる。とすると次鋒は……)


 と考えていたら美津子さんが二人目の名前を告げた。


「次鋒、水島功児」


(え?)


 おお! とこんどは天草傀儡衆がどよめいた。


「善鬼殿の相手が帝国呪術班の班長とな?」


「剣豪対呪術師か。おもしれえ! ところで水島はどんな技を使うんだ?」


「さあて……」


 水島はこっちを見て笑ってる。

 ぼくは思わず舌打ちした。


(ちくしょう! あえてぼくとの対戦をさけて勝ちを拾いにきたな。でも善鬼は狙って勝てるような甘い相手じゃないぞ!)


「中堅、有明(ありあけ)一機(かずき)


「オオッ!」


 雄叫びとともに一人の黄泉醜女が人の壁を軽々飛び越え、前方回転しながら体をひねって着地した。

 醜女が着地したとき、ぼくがはいているスニーカーの靴底にずしんと衝撃が走った。

 着地と同時に、裸だった黄泉醜女は白い空手着を着た若者に変身した。

 腰に巻いた黒帯はぼろぼろで、白黒まだらになっている。

 体格は身長一八〇センチのミドル級といったところ。

 短い髪を金色に染めたその顔はラッパーのエミネムにちょっと似ていた。


「なんで黄泉醜女が出てくるんだ!」


 才蔵が抗議の声をあげた。


「黄泉醜女はわたしの部下です」


と答えたのは淡島だ。


「正確にはわが母イザナミの部下ですが、イザナミの次男であるわたしにも彼らは忠実につかえてくれます。つまり黄泉醜女は淡島一党の一員といえるのです。嘉子さま、有明をメンバーにみとめていただけますか?」


「みとめる」


「ありがとうございます。ケンイチくん気をつけたまえ、有明は黄泉醜女の中でも最強のソルジャーだよ。人間だったころは空手家で、やはり有名な空手家だった自分の父親と道場で対決し、正拳突きで死にいたらしめた」


「おっかねえ」


 といいながら、ケンイチはむしろ楽しそうに笑った。


「ケンイチ大丈夫か?」


 左目を眼帯で覆った千葉公平がボクサーに声をかけた。


「平気さ。あいつの体格おれとそんな変わんないし」


「おまえ今体重は?」


「六十五キロ」


「ふーむ、相手が七~八キロ重そうだな。身長はケンイチが一七六センチで有明が一八〇ってとこか……おまえムエタイの選手とスパーリングやったことは?」


「あるよ。だから相手の技の見当もつく。似てんだろ? 空手とムエタイって」


「似てるけど空手は素手だ」


「グローブつけてるほうが危ねえよ」


「副将」


 美津子さんが声をあげると、また一人黄泉醜女が人の壁を飛び越えた。


「紹介しよう、さいきん仲間入りしたわれらがニューフェイス!」


 誇らしげに淡島が叫んだ。


「有明一機とならぶ黄泉醜女最強のソルジャー!」

 

 黒い影がぼくらと淡島のあいだの空き地にふわりと着地した。

 こんどはスニーカーの靴底に衝撃は走らなかった。

 美津子さんはよく通る声で、黄泉醜女らしからぬ小柄できゃしゃな人物の名を告げた。


「淡島一党、副将

 フランチェスコ・レオーネ」


「え?」


 その名前を聞いて、ぼくの頭の中は真っ白になった。


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