side B 〜ひとのこころ〜
ーーー今の大きな声はだれ?
こんなに暗いのに、まだ夜なのに、うるさくって起きちゃった。
かか様どこ?
とと様もいない。
『咲華…』
突然さっきと違うキレイな声が、直接頭の中に飛び込んできてびっくりした。
サイカって、だれかの名前かな?
どうしてそんな悲しい声でよぶの?
なんでだろう。
なんでだろう…
サキは広い家の中を、キョロキョロと見渡しながら歩き回った。
少しだけ暗さに目が慣れてきた。
ーーーだれ?
遠目にも大きな人がいて思わず立ち止まる。
ーーーとってもキレイな人…
でもあれはなんだろう?頭にふたつのとんがりがある。
長い髪もキラキラしてキレイだけど、なんかグチャグチャしたものを持ってて、それだけが汚い。
近づきたいのに、体中がゾワゾワして動けない。
声も出ない。
何にもできないでいると、ブワッと辺りが火でいっぱいになった。
ーーーあつい!
逃げなくちゃ!
かか様は?
とと様は?
あのキレイな人は?
あついよ。
あついーーー
必死に走って外に出た。
けむりがたくさんで苦しいから、いっぱい走ったらうちが遠くなった。
大人たちが集まって、わいわい騒いでる。
かか様を探さなくちゃいけないのに、足がそっちを向かないの。
なんとなくだけど、わかっちゃった。
ーーーもうかか様もとと様も、いない。
ひっぱられるみたいに、反対の山の方を見たら、あのキラキラした髪が見えた。
すぐに足が動いた。
うちの方には行けないのに、あの人の方になら走って行ける。
不思議だな。
早く早く。もっと早く走れたらいいのに。
あとちょっと。あとちょっとであの人に会える。
あとちょっと。
あとちょっと…
ーーーあれ?
近くで見たキレイな人は、体中のあちこちがあの汚いグチャグチャしたものの色に染まってた。
着物や手や顔。汚い赤色がついてる。
そっと覗き込んでみた。
「おじちゃん、どうして泣いてるの?」
大人なのに泣いてるの。
こんなに大きくて、強そうで頭にはとんがりもついてるのに。
どこか痛いのかな?ケガしてるのかな?
あれ?この汚い赤色って、血の色なのかな?
「何奴だ」
キッて睨まれた。
怒ってるみたいなのに、そのキレイな顔から目が離せなくなった。
紫の目をはじめて見た。
銀色の髪の毛だって見たことない。
あの頭のとんがりはなんのためについてるのかな?
何を食べたらそんなに大きくなれるんだろう?
あっ!
お口の中にもとんがりみ〜つけた!
ーーーあれあれ?
こんなお話、かか様から聞いたことがあるような…
「あたしね、サキっていうの。おじちゃんは?」
お名前聞いたら思い出せるかな?
えぇと…
かか様はなんて言ってたっけ?
『昔々あるところに…』
そうだ。寝る前にしてもらった、おとぎ話に出てくるあれだ。
『大きな体で人を襲って食べてしまう恐ろしい鬼には、長い2本の角と大きな牙が生えているのです』
長い2本の角と大きな牙。
また体がゾワゾワした。
だけどこの手は離したくないの。
「去ね」
おじちゃんがくるりと体の向きを変えたから、掴んでた着物が手から離れちゃった。
「行っちゃやだ!」
慌ててその手を掴んだのに…
「おじちゃん⁉︎どこっ⁉︎おじちゃん‼︎」
おじちゃんは消えちゃった。
あっという間に見えなくなっちゃった。
キレイなキレイなあの人の手についてた汚い赤色が、あたしの手にもついてる。
もしもおじちゃんがホントに【鬼】だったら、この汚い赤色は、かか様ととと様の血の色かもしれない。
「おじちゃん!おじちゃん!」
あたしは何度も何度も呼び続けた。
あたしも泣いてた。
あたしね、あんまり泣いたことないんだよ。
本当のとと様が死んじゃった時にはいっぱいいっぱい泣いたけど、新しいとと様がいじわるしても、かか様があたしにかまってくれなくなっても、泣かなかったんだよ。
だけどね。
このままひとりぼっちになるのはやだよ。
鬼でもいいよ。
優しくなくてもいいから。
「おじちゃん、どこにいるのっ⁉︎」
あたしが邪魔だったら、
かか様ととと様みたいに、あたしを食べちゃってよ。
ひとりぼっちにしないで。
ひとりぼっちにしないでーーー




