4、神子の素養
「良かったのですか、紫子さん」
「赤堀くん。来ていたのね」
紫子は欄干に寄りかかりながらみどりと我妻の2人の背中を見送る。そうしながら自分の背後で膝をついているだろう青年に声をかけた。
じゃくじゃくと境内の玉砂利を踏み締める音が2人分耳に届いた。
「我ら赤堀と我妻は古くからこちらに仕える家。好きに使えばよろしいが……御令姪様は、何も前線に立たせなくとも……」
「そうね、私も迷ったんだけど。でもいつかは向き合うものだし、早いか遅いかの違いよ。それに何よりもあの子にはね……才能があるのよ」
「才能……」
「異能の……神子の力というのかしら?私よりもとびきり強いんだから」
紫子はどこか誇らしげだ。
「さすが真白姉さんの子だわ。私、あの子が生まれ落ちた瞬間に悟ったのよ。これは神が特別にこしらえたむすめなんだわ、って」
じゃくじゃくじゃく……玉砂利の音がどんどんと遠のいていく。
神を語る時の紫子はまさしく神子だ。
妖しくも美しいーーまるで天上にのみ咲き香り立つ花のような。天界人のみに手折ることが許される……そんな高嶺の花。
赤堀は一度だけ頭を軽く振る。
いかん、あてられていたようだ、と天上に行きっぱなしの自分の意識を現世に戻すように。
「それにね、いくら言っても無駄なのよ。あの子がしたい事でもあるから」
「しかし……」
「そうよね。ほんと赤堀くんには苦労かける!上司の身内とはいえ、気を遣わなくていいから!ね?」
「気を使う使わない」ではなく。問題はそこではないのだが……、しかし紫子はパンっと顔前で拝むように両手を合わせている。
「はぁ」と赤堀はため息をついた。
そこまで主人に頼まれたとあっては否やはない。自分は紫子の願いを叶える為に在るのだから。
「さっきも言ったけどみどりは。あの子の母親の実家でもあるこの神社と街を守りたい気持ちが強いのよ。そして才もある。すぐに戦力になるわ。あなたの戦いもきっと楽になる」
「先ほどもおっしゃってましたね。神子の才能だとか。自分にはよく分からないのですが具体的にはどのような……?」
赤堀の問いに、紫子の赤い唇が弧を描くように引き上げられる。
「虜になってしまうのよ。神もそれ以外も」
「虜に……?それが神子の……」
「そうよ。助力を乞う相手方に好かれやすいなんて、素晴らしい体質だわ。だってそうでしょう?私たち、神様の力を借りないと戦うことすらできない……」
ーー例えば洞穴の奥に引きこもってしまって力を貸してくれない神がいたとするでしょう?引き摺り出すの。ううん引き摺り出されてしまうのよ。みどりにはそれができる。
内緒話をするように唇に人差し指を当てた。
上機嫌な猫のように目を細めて。
「たらしこむ、夢中にさせる……それがあの子なの。真白姉さんもそうだったわ。とてもみだらで淫靡でそれがここでは正しく神子なのよ」
赤堀が知っているみどりは、無邪気で元気な女の子だ。
それこそ10代女子の若々しさや瑞々しい美しさ、可愛さはあっても、『みだら』だとか『淫靡』だとかと言う女性像とは正反対な感じがした。
だから紫子の言うことがいまいちピンと来ないでいた。
「それは……、紫子さん御身にこそ……」
「ん?何か言った?赤堀くん」
「んん゛、いえ何も……」
才能があるのでは?という言葉が喉元まで出かかったがかろうじて飲み込んだ赤堀であった。
紫子は欄干に肘をつけながら「もっとも……」と憂い顔で嘆息をつく。
「あいつとは私が決着をつけないとね……」
ちょっと短くなってしまったので今夜もう1話更新予定




