30、ヒミツ
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「秘密です」
グリーンはガクッと肩を落とした。
さんざん勿体ぶっておいて……と、エメのその回答に大いに不満を抱くのも仕方がない。
「何なりと、ってさっき言ったくせに」
「ご質問は何なりと。ですが、全てにお答えするとは言っていませんよ」
ぶぅ〜と頬を膨らませて不満げな顔を作るグリーンに、エメは苦笑を漏らす。
「敵の事情を聞いたとて栓無きこと。あなた方にとってどんな理由や背景があろうと、我々は侵略者で悪なのだから。そうでしょう?」
「そ、れは、そうだけど……」
「ならば今後は討つべき敵の事情を知ろうとするのはおよしなさい。地獄に落とすと言いながら足元を掬われますよ。……あなたは少々情け深い所があるようだから」
「う……」
何故か敵からアドバイスまでされてしまった。
——何でそんな、本当に心配するような……気遣うような声音なの。
グリーンは思わず言葉に詰まる。
これでは、彼は本当に自分を想ってくれているんじゃないかって。そう錯覚してしまうじゃないか。そんなのおかしいのに。彼は敵なんだから。
グリーンはそんな考えを頭から追い出すように、頭を激しく横に振った。
エメはそんな彼女の様子に首を傾げながら、「大体……」とひとつため息をして、
「先程の話の流れから、てっきり私に恋人はいるのかとか好きな女性のタイプはどんなものだとか。そういう類の質問が来るのかと思いました。……そちらならお答えする準備はありましたけど」
「えっ?!えー?えーと……」
正直敵のそういった事情にはそんなに興味が無い……。
——ていうか前に、好きな人が出来たとか言ってたから?恋バナでもしたいのかな。
何か聞いてあげなくちゃ失礼だろうか?グリーンは悩み、結局、
「えーとぉ。その後好きな人と何か進展あった?」
「特に何も。恋人がいない事が分かったので早々に攻め落とさなければと決意を新たにしたところですね」
「えっ!そうなんだぁ。良かったね。うーんと、頑張ってね?」
「……」
侵略行為は絶許であるが、恋活の方は大いに頑張ってもらって構わないので、とりあえずグリーンは彼を応援することとする。
——お相手の女性と両思いになって、人族への愛に目覚めれば侵略もやめるかもだし?
などと呑気で甘っちょろい。そして透けて見えるような願望。エメは見透かしているのだろうか、不敵に笑う。
「ええ。私は私で励みます」
「うんうん」
「ですので、公私共にご覚悟を」
「うんうん……うん?」
何か不穏なことを言われたような、と。
もう一度言われた内容を咀嚼しようとした、その時。
「グリーン!!」と自分を呼ぶピンクの声が後方から聞こえた。
「グリーン、無事でしたか!?」
「お仲間が来たようですね。おや、アメは負けてしまいましたか」
ピンク1人が走り寄って来た光景に、エメはアメの敗北を悟ったようだ。やれやれ回収せねばなりませんね、と肩を揉みながら嘆息をついている。
そのまま踵を返す背中に対し、
「あ、ちょっと待って!この仮面どうすれば?!」
返せと言われても今は難しいのだが……と装着している仮面を押さえながら、もだつくグリーン。
エメは地面に散らばっていたグリーンのヘルメットのカケラをひとつ拾い上げながら、「差し上げますよ」と、くすりと笑う。
「ご存じですか?仮面舞踏会では一夜を過ごした男女が情事の記念にと互いの仮面を交換し合うんだとか。……それに倣って今宵、特に情熱的だったあなたへそれを差し上げますから……」
エメは自身の首筋……グリーンがつけた歯形を愛おしそうに撫でながら、
「仮面を見るたびに私のことで頭をいっぱいにして下さい」
***
グリーンがポカンとしたまま突っ立っていると、その肩をトントンと叩く手があった。
「グリーン?大丈夫だったか?」
「ピンクちゃん……。ってええっ!サクヤ!?」
ピンクの手には半冷凍の触手——サクヤの姿があった。
「敵の攻撃にやられたんだ。前はパリパリに乾燥した状態で敵に携帯されていたし。ぬるま湯で解凍すれば多分大丈夫じゃないか?」
付近に敵の気配が無いからだろう。ピンクは完全に女言葉を取っ払ってグリーンと接している。
「うん……」
グリーンはピンクからサクヤを受け取り、サクヤを抱いたままピンクの豊かな(偽)胸に飛び込んだ。
「どっと疲れたよ、ピンクちゃん……」
「……遅くなって悪かった」
ピンクは労うかのようにグリーンの背中を優しく撫でる。「あのな、お疲れのところ悪いんだけど」と視線を横にずらしながら、
「何で脇にベッドが生成されているんだ?」
「……何でだろうね」
私にも意味がわからないよ、とグリーンはぐりぐりとピンクの胸に頭を押し付ける。
花が散らされた褥。色とりどりであったが、その中でも赤や濃桃や紫などが目に鮮やかだ。
——ううぅ。なんか!なんかもうもう!すっっごく、エッチな仕上がりなんですけどぉっ!
顔をぼんっと赤らめたグリーン。
長年の幼馴染にこのベッドを目撃されたのも、何だかすごく居た堪れない気持ちでいっぱいだ。
——べ、別にこのベッドで何かあったわけじゃないんだけどっ!でもっ!
家族との団欒で観ていたドラマにエッチなワンシーンが映っちゃった!みたいな雰囲気というか。
「敵に女バレするの、早まっちゃったかなぁ」
バレているのは性別どころでは無いことを、当の本人は知る由もなかったのだった。
「うー」と自分の胸の中で唸っているグリーンに、ピンクはふぅと嘆息を漏らす。
「グリーン」
「ん、なぁに?」
「……怖いことはされてないか?」
「ん。大丈夫。痛いことは何もなくて最後はちゃんと優しかっ……」
「待て待て待て」
ピンクは食い気味にグリーンの肩を揺さぶった。
「今の言い方、ものすごく誤解を招くぞ!?」
「え?」
「いや『最後はちゃんと優しかった』って何だ!? 途中は!?」
「えっ、途中!?」
グリーンは目をぱちくりさせる。
「途中は…… 誘惑しろって言われたり……」
「…………」
「あと、ヘルメット割られたり……」
「…………」
「それから、ちょっと押し倒されたり……」
「…………」
「でも最後はちゃんと優しかったよ?」
「それを聞いて俺が安心できると思うか!?」
「えぇ!?」
グリーンは慌てて両手を振った。
「ち、違うの! 本当に何もされてないから!」
「本当だな?」
「本当!」
敵からは何も「されていない」と言っても良いだろう。嘘では無い。
グリーンは冷や汗をかきながら首をぶんぶんと縦に振る。
——私の方が彼に「噛みついちゃった」し。
何かしたというのならむしろ今回は自分の方だと、グリーンは思う。
——けど賢いグリーンちゃんは、この過保護状態のピンクちゃんには黙っているのが吉、っていうのがもう分かっちゃってるんだからね!
「このベッドは?」
やはりピンクとしても気になるのはそこらしい。
「そ、それは神様が勝手に……」
「神様?」
「うん。私が助けてってお願いしたら出てきた」
「…………」
ピンクはゆっくりと、脇にある花の褥へ視線を向ける。
「……神様、何を助けるつもりだったんだ?」
「私も知らないよぉ!」
グリーンは泣きそうな顔で訴える。
神のみぞ知るってやつだ。でも後で絶対問い詰めてやるんだから、とグリーンは決意を新たにする。
「……まぁ、いいか」
「分かってくれた?」
「ああ。分かった」
「よかったぁ」
ほっと胸を撫で下ろすグリーン。
対するピンクは重々しいため息をついている。
「分かったわ、ほんとーにな」
「?」
「後で詳しく聞かないとこれはダメだってことがな」
「えっ!?えぇー……」
——これは根掘り葉掘り洗いざらいゲロるまで逃してくれないやつぅ……
グリーンがしょんぼりと俯いた、その時だった。
——ドゴォォォン!!
二人の足元まで震わせるような轟音が響き渡った。
「「!?」」
グリーンとピンクは、同時に顔を上げる。
「……今の」
「パープルだ!」
ピンクが駆け出す。
「行くぞ、グリーン!」
「う、うん!」
二人は弾かれたように、轟音のした方へ走り出した。
エメの「仮面舞踏会では〜」のくだりは、あくまでこの作中での設定です。




