2、ゴットネス⭐︎ファイブと新たなヴィラン2
――敵に低俗ヒーロー呼ばわりされてしまった。しかも盛大な溜息というオマケ付きだ。
「どうしようピンク。めっちゃめちゃショックだよ」
「ショックを受けるくらいなら俺……いえ失礼。私のお胸をもう触らないでく……く?くー……ださいませんこと?」
ピンクは誤魔化すためか。口許に手を当て「オホホ」とわざとらしい笑い声をあげた。
「ピンクちゃん?さっきは同僚が決め台詞噛んだ事に注意しておきながら。君の方こそキャラが迷走しているんじゃない?普通の女の子はオホホなんて笑い方しないんだぞー?」
「そ・れ・はっ!仕方がありません、わ! 近くに参考になるような普通の女の子がおりませんでしたのでね!」
『普通の女の子』という部分をえらく強調してくる。記号で表すのならばスタッカートが添えられていることだろう。
「グリーンは楽で良いですわね。第一人称変えるだけでほぼ地でいけますでしょ?」
「うっ!?た、確かに。その通りかも……?」
何ともはや。ぐうの音も出ない。
幼馴染の、このチクチクした嫌味は毎度の事なので。これが始まってしまったからには何も反論しない方が良いだろう。下手な反抗は時間をただ無駄にするだけだ。……もっとも反論する材料も無いのだが。
遠くで行われている低俗ヒーロー達の内輪揉めに飽き飽きしたのだろう。
エメが「ところで……」と我々の会話を遮る。
「どうして3人しかいないのでしょうか?」
エメの後ろでアメが前任者からの引き継ぎ書だろうか?資料をペラペラとめくっている。
「そうそう『ゴットネス☆ファイブ』だよね? あとブルーとイエローがいるって聞いていたんだけど?」
「……ブルーは『気分がブルー』で長期療養中だ。イエローは作り置きのカレーを食べて『ウェルシュ怪人』にやられてしまった。……こちらも欠勤中だ」
リーダー・レッドの言を聞いて、怪人ふたりは顔を見合わせる。微妙な顔をしながら。
「ええとお見舞い申し上げます……って言うのもおかしいんだけど。まぁ、僕らにとっては都合は良いのかな?ねぇ、エメ様」
「そうですね……」
エメなる怪人は少々疲れた顔をしている。
戦う前からそんな顔をしている敵に何故だかグリーンは猛烈に腹が立ってきた。
「あ、バカ!待てグリーン!」
思わず素で叫ぶピンクの静止を振り切り、レッドの横に並び立つ。
「グリーン……?どうしたんだ?」
レッドがキョトンとした顔でグリーンを見下ろす。
レッドの疑問を無視し、目の前にいる怪人2人を指差すグリーン。
高らかに宣言する。
「ヒーロー協連登録No.154649、ゴットネス⭐︎グリーンだ、この侵略者共!」
ぐっと口を引き締める。息を大きく吸い込む。吸い込んだソレと一緒に言葉も一気に吐き出す。
「あんた達を倒すヒーローの名前なんだからな!」
ここで馬鹿にされてばかりではいけないのだろう。ヒーローの沽券に関わる。何事もはじめが肝心なのだ。
「メンバー2人がいなくたって関係ない。このグリーンがおまえらを倒してやるんだから!!」
瞬間、ぞくりと寒気がした。
産毛がぶわぁっと総毛立つような。
エメが「へぇ?」とこちらに向かい微笑んだのだ。
アメに関しては、先程までの人懐こい笑顔を消して「君が?」と片眉を上げる。
「……君が僕達を?」
「そうだぞ!」
「さっき同僚の女の子に無体を強いていたの、君だよね?」
「それは仕方がないよ。あの子のおっぱいが柔らかくて魅力的なのが悪いんだから」
「……」
ーー偽乳とはいえ。私より大きいんだもの。
「自分とボスとであの子のおっぱいを良い感じに開発してやったんだぞ。触る位許されるはずだ。何だまさか羨ましい、のかな?」
「……っ、下衆が!」
両手でワキワキと何かを揉む仕草をするグリーンの煽りに、アメはやはり分かりやすい位の反応を示した。
ちなみにだがこれらの言葉のどれにも嘘はない。
ゴットネス☆ピンクの偽乳にリアルティを出す為、グリーンとボスは日々素材を探し研究を重ね……開発(物理)したのだから。
勝手にイヤラシイ妄想をしているのは敵方である。
「アメ、冷静になりなさい」
「……っ!申し訳、ありません。エメ様」
感情家でプライドが高いのはアメの方だけなのか?
しかも上司に諭されればすぐに冷静になる。
「これは手強い相手になりそうだなぁ〜」
グリーンの心の内をレッドは的確に代弁した。
「でもレッド。自分達がせめて敵を退けないと」
「そう。俺、いや……私は勝たなくても良い、ですわ」
「ピンク?」
いつのまにかピンクに後ろから抱き締められる形になっていた。
「無茶なことを。あまり敵を刺激しないこと。肝が冷えました、わ」
「……ごめんね?」
「勝たなくても良いです。あなたの言うように敵を退けれることが出来ればそれで……あなたが怪我をしなければそれで良い……ですわ」
「ピンクちゃん……」
ーー唐突のデレが来た!
この幼馴染は普段ツンケンしている癖に、時々とても過保護だ。胸がじんと熱くなるようで、それでいてくすぐったい気持ちになる。
「んふふ、んもぅピンクちゃんかわゆいなぁ〜。うりうり」
「ちょっ、ばかグリーン!こんなっところでっ!やめっっ」
グリーンはピンクにひしっと抱きつき、胸(偽)の谷間に顔を埋めてすりすりする。
「ピンクちゃん大好き。一生推せる……」
「グリーン、そろそろ離れて下さいまし」
ピンクちゃんは私の頭に手を置いてぐいぐいぐい〜っと。力を入れて引き離そうとする。
「茶番ですね」
本日何回目ですか?っていう盛大なため息をエメは漏らした。
「んふふ。羨ましい?」
グリーンは認識阻害効果が施されているアイシールド越しに、エメに笑いかけた。ちなみに視線だけ寄越して顔はピンクの谷間に埋もれたままだ。
「全く?」とエメは薄く笑う。
「本日は我ら新任の挨拶に来たまで、ですから。さて明晩から本格的に宜しくお願いしますね」
エメとアメの丁寧なお辞儀に、ヒーロー達も居住まいを正す。
「ああ、ご丁寧にどうも。互いに熱き良き戦いを」とレッド。昔の友に会ったかのようにいっそ気さくに彼らに笑いかけた。ピンクはグリーンを抱きしめる姿勢のまま、雑な会釈だけを返して。
そんなグリーンはといえば、ピンクのお胸から顔を離し、ことさら礼節を重んじるように、深く深く礼拝をした。
「どうか我ら憎き仇同士なれば、泡沫のように儚く短命な縁でありますように」
ーーかけまくもかしこき縁を定める神よ、大御神よ。どうかこの願いを聞き届けて。
祈りを込めて。一言一句を噛み締めるように諳んじた。
ゆるゆると顔を上げた瞬間、グリーンはばちんと雷流のような。何かが音を立てて交差する錯覚すら覚えた。
エメと視線が激しくぶつかったのだ。
彼は「まさか」と呟いていた。
ーー何が「まさか」?
あぁ、自分がこんな丁寧な言葉遣いや所作をしたからか。それに驚いたのだろう、と、そうグリーンは解釈した。
その証拠にやっぱりアメが「意外な」と呟き、少し後方によろめいていたのを視界の隅で確認した。
ーーどれだけ私は敵から野蛮だと思われているのかな?
グリーンは苦笑した。
「いや、違うよ。礼節はあんたたち宛じゃないから」
重んじた折屈の行く先は、神へと。
そう神へと続くものだ。
祈りの言葉と作法は生まれた時からこの身体に馴染んでいる。
「つまりさ、あんた達には何が言いたいかっていうとね」
「末永くよろしく」の反対言葉だよってグリーンは暗く嗤う。
「地獄に堕ちろ、くそったれ」




