1、ゴットネス☆ファイブと新たなヴィラン
怪人、怪物、怪獣、宇宙からの侵略者……なんてものが日常にすっかりお馴染みとなってしまった2xxx年。
この国は今――各地で正義の味方と悪の組織との侵略を賭けた激しい攻防が日々起きたり起きなかったり……している異常事態である。
それは『ゴットネス⭐︎ファイブ』が担当するここA都市も同じだ。
「正義の炎が心を燃やす――ゴットネス☆レッド!」
「愛と平和を胸に抱いて――ゴットネス☆ピンク!」
レッドが拳を突き出し、ピンクが手でハートを作る様な形で各々ポージングを終えた。
グリーンもふたりに倣い手を顔の横でクロスさせ中指同士をくっつけポージングする。この中指同士をくっつけ出来た空間で葉っぱの形を表しているつもりだ。
「父なる大地の力を借りて――ゴットネしゅ、ぐり……グリーン!」
ーーやば。ちょっと噛んじゃった。
「悪に正義の鉄槌を! 我ら、『ゴットネス☆ファイブ』ここに参上!」
全員で最後の締めまでこなしたところで、グリーンはそっと息をつく。どうやら誤魔化せたようだと安堵した。
「ちょっと、グリーン。自分のセリフ噛み……ましたわね?」
「あ、えへへ。……バレた?」
やっぱり誤魔化せていなかった。ピンクが独特の……どこか機械めいた可愛らしいアニメ声で非難する。
「バレるに決まっており……ます、ですわ。もう決まり悪くて……らっしゃいますわよ」
でもこの口調は恐らく怒ってはいないのだろう。『ピンクの中の子』を知っているグリーンは、彼がそういった些事で怒る性格ではないと確信している。
怒るというよりは呆れられている、という所か。それもどうかと思うが。
とりあえずふたりに謝ろうかグリーンが迷っていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
「仕方ない。大体『ゴットネス』ってちょっと言いにくいよな」
「……レッド、他のセリフは変えれても『ゴットネス』は変えられませんことよ。このヒーロー達の名前なんですから」
レッドからのフォローまで頂いてしまった。
「レッド、ピンク、ごめんね。次は気を付けるね」
「いいって事よ。それより俺が気になったのはグリーン、おまえの単独ポーズの件だが……」
レッドがグリーンに何か指導をしかけたところで、
――パンパン
割って入るかのような乾いた音がした。
手を打ち合わせる白い手袋が闇の中に浮かんで見えた。そこから現れたのはふたつの大きな影。
「こんばんは。良い闇夜だ」
鈴を転がしたような涼し気な声が響いた。
でもその声音は明らかに男性のもの。
街灯の白灯火が男達の全身を徐々に晒す。長身の男二人の姿を。
スーツをきっちりカッチリ着こなしているが、ただのビジネスマン……ではないだろう。何故なら2人の男達の顔上半分は仮面に覆われてその素顔が見えないからだ。
仮面舞踏会にそのまま参加出来そうな豪奢な作りのヴェネチアンマスクも異彩を放っているが、何より2人の男から醸し出されるオーラもそんじょそこらの一般男性と言うには無理があり過ぎた。
ーー敵だ。
しかも普段戦っている下級怪人ではない。もっと上階級に属している――大物だ。
「初めまして?『ゴットネス☆ファイブ』の皆さん。お会いできて光栄です」
先ほど手を叩きながら登場した男――濃緑の羽飾りがあしらわれた仮面を被った奇人が一歩前に出てゆっくりと腰を折る。優雅な貴族の礼のように。
頭を下げた際に零れた少し癖のある金の髪が月光に怪しく反射した。うっかり見惚れてしまう位には所作の一々に品がある男だ。
しかし。
「光栄です」なんて言いながら、その声音は会えて嬉しそうな感じは全くしない。
聞く者を凍らせるような。ひどく冷徹で血が通っていないものに聞こえた。
その証拠に仮面の隙間から覗くエメラルドグリーンの瞳はこちらを値踏みするような、無遠慮で敬意の欠片もない。侮蔑の色がありありと見て取れた。
未知なる敵との邂逅に、ピンクはじりじりとグリーンをその背に隠すようにして後退した。
そんなふたりの前にレッドは進み出る。頭をポリポリと掻きながら。
「あんたらは……?」
「私の名前は『エメ』。こちらは『アメ』と申します。以後お見知りおきを」
エメと名乗った男は軽く会釈をしてもう一人の仲間を紹介した。
紹介された男はこちらも優雅にお辞儀をして礼を取る。
「エメさんとアメさん、な。今日はミス・ゾーラカーラは来ないのか?」
グリーンが敵の雰囲気に圧倒されているのを尻目に、レッドは馴染み深い怪人女性の名前を挙げた。
そのあっけらかんとした図太い態度は流石である。
「ゾーラカーラ女史からこちらのエリアの引き継ぎを受けましたので。今晩から私達が相手ですよ」
「何だ男が相手か。つまらんな〜、彼女美人だったのに。頭ヘビだったけど」
レッドの本気で不貞腐れた態度に、一歩後ろで控えていたアメが声を出して笑った。
「ゾーラカーラに言っておくよ。僕同期だからさ。あの子の結婚式にも参加する予定だし」
「コトブキか!それはめでたいな。ヨロシク伝えておいてくれ」
「オッケー、いいよ伝えておく」
笑いを噛み締めながら手を振って応えるアメ。
彼は薄紫がかったベージュの髪に、仮面の下の瞳は薄い紫のように見える。あのマスクに認識阻害が為されてなければ、だけれども。
人懐こいするアメの様子に不覚にも和む。だがそんなグリーンの気の緩みを察したのだろう。ドスッと頭に手刀が飛ぶ。
「バカ。相手は敵だぞ」
コソコソと小声で注意するピンク。
「痛てて……分かっている!でもさ、ピンクちゃんこそ良いのかなぁ?」
グリーンは舌を出しながら、ピンクについているふたつの果実を人差し指でツンツンした。
偽物とは言え、豊かで柔らかそうなモノが彼についている異常な光景――これを見ると、つい意地悪な気持ちが沸いてしまうのだ。
「そんな口調は女の子らしくないんだぞ?ボスにチクっちゃおうかな〜?」
「くっ……!後で覚えておきやがれ、ですわよ!」
ピンクは顔を真っ赤にして吐き捨てるように言った。今度は取って付けたような女の子言葉も忘れない。
リーダーのレッドとボスからの指令というか課題。
上司から与えられた言い付けを生真面目に守り、こなそうとする幼馴染の努力は涙を誘うものがある。
こんな姿、彼のご両親にはとてもじゃないが見せられない。
「俺達は熱き良き戦いをしたものだ」とひとり前任者の怪人女性との思い出に浸るレッド。
後ろで同僚の女の子にセクハラをするグリーン。その恥辱に顔を真っ赤にして耐えている(ように見える)様子のピンク――そんな我ら『ゴットネス☆ファイブ』の面々を見て。
「ゾーラカーラ女史はこんな……こんな低俗なヒーロー達に手こずっていたのですか。彼女は仕事ができる女性だと聞いていたのですが」
――エメは深く深くため息を吐いたのだった。




