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悪の組織の幹部に粘着されています、公私ともに!〜敵幹部からの溺愛なんて不要なので倒されて下さい!〜  作者: 今谷香菜


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0、プロローグ

  小高い丘の上にあるこの神社は紫子の実家である。

 ここから見下ろす街の景色は彼女のお気に入りだ。


 朝のひやりとした空気は澄んでおり肌にしっとりと馴染み、紫子は隈が出来ているだろう瞼をこすりながら、煙草の煙を一度肺に送る。


「あー。沁みるわあ」


 朝日が眩しい。煙草も美味い。最高か。

 徹夜した甲斐もあって良い物が出来た。これは「あの子達」の助けになるだろう。


「なぁんか良い事ありそー」


 ぼさぼさの髪をかきながらへらっとしていると、左手首の腕時計型の機械がぶるっと震える。


「あん?」


 だるそうにそれを目線の上まで掲げれば通信相手のホログラムが浮かび上がる。

 通信の許可も出してない何故……と訝しげに眉根を寄せていると。


『紫子』


 その声は「奴」のものだ。聞きたくもない「奴」の。

 紫子は咄嗟に電源ボタンを長押しする。今すぐに通信を遮断したい。


 しかしいくら押せども押せども機械はピコピコと音を出すだけで電源を落とす事ができない。


『ははは、止めておけ無駄だ』


 30代位の男だった。白銀の長髪にエメラルドグリーンの瞳の、見目の良い男。どうか間違いであってくれと一瞬祈った紫子だったが、映し出されたニヤケ顔のそいつを見て辟易した。

 やはり「こいつ」か。機械がいうことを聞かないのはこいつの仕業だ。


 ついでに結界外に伝令竜(ファフニール)の気配もする。この男が呼び寄せたものだろう。


 抵抗が無駄だと悟った紫子は「何の用?」と相手を睨め付けた。紫煙を相手の顔(ホログラム)に浴びせかけながら。

 それを映像越しに浴びせられた相手は、怒るでもなく何故か悲しげな表情を作った。


『まだ煙草をやめていないのか、紫子』

「誰かさんの所為でね、ストレス溜まんのよ。やめるどころか増えるばかりよ」

『その身体はおまえだけの物では無いというに……』

「うっせー黙れ。私だけの身体(もん)だわ」


 苛立ちを隠そうとしない紫子は「用件はそれだけ?」と。


「禁煙を勧めに来ただけならあんたらが侵略をやめればその分は本数減るわよ」


 男は組んだ手の上に顎を乗せて「ははは」と笑う。


「我らが侵略を辞めれば他国の者が図に乗って攻め込むであろう?我々の場合……そうだないわばこれは必要悪だ」


 ヤクザの理論かよ、と紫子は目を細める。

 この悪の親玉に何を言っても無駄なのだろう。言って聞いてくれるものならとうの昔にこいつは侵略をやめていたはずだ。

 男は甘さを乗せた声音で『紫子……』と名を呼ぶ。


『そろそろ嫁に来ないか』

「誰が行くかボケ」


 そのつれない返事を聞いた男は、先ほどの甘さそのままの吐息を吐く。『まだしばらくは余の隣が空座か……仕方がないな』と。一生空いてろと紫子は内心舌を出す。


『新しいのを、送り込んだ』

「は?」

『余の血縁……甥だ。なかなか優秀な男だぞ、アレは』

「甥……」


 王の血族だ、紛れもなく濃い。継承権すら持つような。

 紫子の胸は早鐘を打つ。


「どんな、奴、なの……?」


 一体何の能力を持つの?どんな戦法を好んで、何を武器にしてどんな戦い方をするの。残虐性は?異星人の命なんて塵芥と同じだと、もしそんな奴だったら……


 脳裏に「あの子達」が浮かぶ。

 特に歳の離れた姉が遺したあの娘の顔が。


『余以外の男が気になるのか?面白くないな』

「ふざけんな。中途半端に教える位なら全部教えなさいよ」

『紫子、ならば今すぐ嫁に来い。妻になら包み隠さず全てを共有しよう。それに妻の故郷だ、無体な侵略はせぬと約束しよう』


『無体な侵略をしない』ーー侵略を止めるとは言わない男に紫子は笑った。本当に可笑しかった。


「レイプ魔にどんな愛情を注げと?」

『レイプ魔……』


 予想もしなかったパワーワードに相手は愕然としている。

 その表情は少し小気味良い。


「ヒトの故郷(くに)を侵略(おか)してやろうなんて奴、レイプ魔呼びで十分だわ」

『紫子……』

「教える気がないならもういいわ。二度とその面見せんな」


 言いながら紫子は手首のベルトを外す。そしてそれを思いっきり地面に叩きつける。


 映像に乱れが生じる。クリアだった音声にも。


『ゆ……か、こ』


 ひび割れたそれが、やがて完全に作動しなくなるまで踏みつけた。だから聞き間違いだろう。


 ーー『愛している』と聞こえたのは。


 

新連載スタートしました。

宜しくお願いします!

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