27、邪竜討伐の裏で
注意⚠️本日更新2話目です
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「んぐぐ。ちょっと、何するの!?」
グリーンは、エメに押し倒されていた。
——なぜこうなった。
パープルの戦いを見届けようとしていた、ほんの少し前までは何事もなかったはずなのに。
背後から突然腕を回され、そのまま拉致されたのだった。この侵略者によって。
逃げようとして何度も交戦したものの、健闘虚しく——現在に至る。
しかも、先程の小競り合いですでに貯めていたポイントを使い果たしてしまった。
つまり。
グリーン、絶体絶命。……押し倒されてなう。
「何って。今宵こそあなたの正体を暴こうと思って」
エメはさも当然とばかりそう言い放ち、グリーンをヘルメット越しに片手で掴む。いわゆるアイアンクロー状態だ。
「わ、私、今はパープルの戦いを見届けなきゃ、なんだけど……!」
「大丈夫ですよ。あなたは心配しているのかもしれませんが、竜族は番にめっぽう弱い。あの方が彼女を傷つけることなどありえないでしょうから、そこは安心して良い」
グリーンはそれを聞いても「そうなんだね、それなら安心だね」という心情には残念ながらなれなかった。
——パープル泣いてたもん、私が側にいなくちゃ。
黒い涙を流して。
普段感情の起伏も、有り様も分かりやすい叔母であったが。しかしグリーンの記憶にある限りあんな風に彼女が泣いている姿は見たことがなかった。
「……ていうかね。あなた達の味方はそれで大丈夫なの?パープルに結構ボロボロにされてたけど」
「我らが竜王陛下は丈夫がとりえですから。殺しても死にそうにありませんし。まぁ大丈夫でしょう」
味方なのに扱い雑過ぎない?とグリーンは呆れた。
彼女の言外の気持ちを正確に読んだのか。「それに」とエメは続けた。
「元より『万一紫が戦いの場に出て来たら手を出すな。疾く速やかに伝達竜で呼び出せ』という厳命がありましたから。これ以上、我らには何も出来ませんしね」
エメはお手上げといわんばかりに、両の手の平を天に向けるジェスチャーをしつつ、「大体……」と若干呆れを含んだ声音で、
「アレを何て形容したら? 犬も食わない、というやつでは?途中で何を見させられているのかと思いましたよ。あの方々は放っておけばよろしいのでは?」
グリーンは両手にぐぐぐ……と力を込めて彼の胸板を押し退けようと試みる。
「放っておくだなんて。そんなことできっこないよ。あなたはそうすればいいけど、私は戻る、から!というか今更なんだけどあの人王様なんだね!?知らなかったよ!」
あの豪奢な作りの輿を見た時に、高位貴族が乗っていると予想はしていたのだがまさか王が乗っていたとは誰が想像できよう?
そんな敵とパープルが戦っているだなんて……とグリーンはひとり焦燥感に駆られる。
何とかエメの下から逃れようとジタバタともがいていると。上から「面白くない」という呟きが降って来た。
「私の方を放っておいて、他の男の元へ行くと?やはりとんだ淫乱だ」
「いや言い方ぁ!あのね別に王様の方はこの際どうでも良くってね……!」
何ゆえ浮気を咎められるような言われ方をされなければならないのか。理不尽である。
「だってあなたが言ったのでしょう?毎晩私の頭の中をあなたでいっぱいにして、そうして私を侵略すると」
「う。言いましたけども……」
「今が絶好の機会では?ほら早く私を誘惑してみて下さいよ。私があなたの魅力にクラクラになっている間にあなたは逃げられるかもしれませんしね?」
何故か揶揄うように言われ、グリーンは思わずムッとしてしまう。
——これは全然そう思ってないやつ。やな感じぃ。
そんな風に言われれば挑むような気持ちになってしまう。これは自他共に認める彼女の悪い癖である。
——でも誘惑って。例えばどうすれば?
先程のような、売り言葉に買い言葉というやり取りなら出来る。
だが、自分から積極的に相手を誘惑するとなると、途端に何をすればいいのか分からなくなる。
——『誘惑』『魅了』『籠絡』……?
頭の中に浮かぶ言葉を並べてみる。
けれど、どれも自分とはあまりにも縁遠いものに思えた。
そもそも、自分から相手を誘うようなやり取りなど、グリーンの頭の辞書には載っていない。
何なら、自分という人間に最も縁のない単語なのではないか、とさえ思う。
グリーンが自分の下でうーんと唸り悩んでいる様子に、エメは嘆息を漏らす。
「私の部下——アメが、実はあなたが魅了の能力者なのでは? と言うのです。果たしてそうなのでしょうか?」
「とてもそうには見えませんがね」と。この小馬鹿にしたような響き。この侵略者は本当にさっきから失礼にも程がある。
グリーンは今度こそカッチーンと来て、
「今っから考えるから!あなたをくらっくらのメロメロにしてやるんだからちょっとそこで大人しく待ってなさいよ!!」
とビシッとエメを指差し、そう宣言したのだった。
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一方その頃、ピンクとアメは交戦真っ最中であった。
「楽しいね、ピンクちゃん!」
「全っ然!」
エメに拉致られたグリーンをサクヤと追おうとしたら、アメに「君達の相手は僕だよー!」とばかりに邪魔された次第である。
アメのミドルキックを避けつつ、視線だけで周囲を探ると、その先にアメの能力で氷漬けにされたサクヤが転がっていた。カチンコチンだ。ぴくりとも動かない。
——あれは……果たして大丈夫なのか?
助けてやりたいのは山々だが、ピンクとてレナレナが不在の状態でこの敵と闘わないとならないので余裕がない。
指輪にパワーが残っているのは感じているが、どうやら彼女の分霊を宿していないと出力が難しいようだ。
故に先ほどから否が応にも肉弾戦となっているのだが、それはそれでしんどい。
そして恐らくアメにもそこらへんの事情が分かっているのだろう。
ピンクに対しては己の肉体のみで戦っている。
こちらに付き合っているつもりなのだろうがしかし。繰り返すようだがこの体力バカ・馬鹿力バカとの肉弾戦は本当にしんどい。
——早めに片をつけないと。時間もそうだが体力がゴリッゴリに削られるな……
ピンクにとってはアメを倒した先のエメとの交戦を見据えなければならない。
しかし幸いなことに、冷静に相手の動きを見てみれば、アメは結構大雑把で単純な動きをしていた。
普段能力任せにしたり、力技で強引に相手をねじ伏せていることが窺える。
アメの大振りのフックを受け流しながら、その勢いを殺さずに腕を捉えて体重をかけて引っ張る。
「え、あ?おっとっと!」
そうして相手のバランスを前倒姿勢のまま崩させてから、頭を脇の下に抱え込み、ギュッと絞め上げた。
「あ!ちょっ、ピンクちゃんギブギブ!」
そのまま落とそうとしている気配を察知したのだろう。アメがピンクの二の腕をパシパシ軽く叩いて降参する。
「ギブだとおっしゃるなら、そろそろグリーンの所に行かせて下さいまし」
脇の下で「えーそれはちょっと」とモゴモゴ言っているアメ。
「もうちょっとだけ僕と遊ばない?ね、第二ラウンドも肉弾戦で良いからさ」
アメはあえてハンデを設けてピンクと長く戦っていたいらしい。
「完全に遊んでますわね。時間稼ぎのつもりでしょうけど……一体何があるんですの?」
「あーいや。大したことじゃないんだよ!エメ様がグリーンにいたくご執心のようだから、単純に2人きりにしてあげようかなぁって」
「は?」
ピンクの声のトーンが極端に下がる。絶対零度だ。
アメはそんな事お構いなしにペラペラと語り続けた。
「いや信じられないことにだよ?エメ様ったらグリーンも恋愛的な意味で気になるらしくって。僕には一体何処が良いんだかさっぱり分からないんだけどさ。あいつの素顔でも見たらエメ様の熱も冷めるんじゃないかなって〜。ま、そんなわけだからさピンクちゃん僕と第二ラウンドを……」
「あなたのお仲間が……グリーンの素顔を見て余計に執着する可能性は?」
「えぇっ!そんなことあるかなぁ……?まぁそうなればそうなったで、かなぁ。ていうかあいつってそんなに美人なの?あはは……は」
ピンクは呼吸を整えがてら、ふぅーっと細く長く息を吐く。
「よっっく分かった、わ!!」
何か深い考えが……このアメとやらには全く無い事が。
そうであればピンクとしては、事態がこれ以上悪くならないように動くべきだ。
「何より怖い思いをしているかもしれない。やっぱり早く行かないと」
「えっっ!ちょっ!!待って待って……ぐぇ」
一段と低くなったピンクの声。そして頚動脈を更にぎりぎりと締め上げる力を強く感じてアメは焦った。
これは本気で落としにかかって来ている。
「ちょ、やめよ?人の恋路を邪魔すると馬が……って言う……よ?」
「こっちにも譲れない恋路があるので、ね!!」
「!? ピンクちゃ……、まさか……!」
アメは驚愕に目を見開く。
「グリーンの事を……?え?百合??百合ってこと??」
「ふんっ!!」
ギリギリギリギリ……!
「っ、……属性、過多……好きィ」
その言葉を最後に残して、そこで彼の意識は完全に途絶えたのだった。
敵の身体がダランと弛緩したのを念入りに確認後、ピンクは「ふー、しんど」と汗を拭う。
そしてひと仕事終えたとばかりにアメをそこらへんの草むらにゴロンと転がしながら、
「ん?」
ふと気づく。
「なんか満ち足りた顔してんな……?」
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