25、紫の守護神
「邪竜退治……?パープル、一体何を……」
レッドはパープルの傍らで彼女を諭すように、根気強く言い含めている。
「どうか疾くお帰りを。今ならまだ間に合う。御身に何かあったら誰しもが再び奮い立つ事など……」
「もう遅いわ」
空を見上げる。パープルが指し示す方向に光が。その部分だけ煌々と明るい『何か』。
「……ッ!」
レッドもそれを視認したのだろう。息を呑む気配。
「ね、逃がしてくれると思う?……ここで迎え撃つ」
パープルは気合を入れるように、下ろしていた長髪を雑にひとつに束ね上げた。
結い上げた髪の隙間から耳が見えた。紫の石がはめられたピアスも。
——あれが、パープルの守護石……?
もう限りなく黒に近い濃い紫色が、競技場の電灯を反射してきらりと光る。
グリーンはその色石を見てふと疑問に思い、横で佇むピンクにこそっと尋ねた。
「ねぇピンクちゃん。パープルの神様って……?」
ピンクも静かに首を横に振る。どうやら知らないらしい。
2人でボソボソと話しているところで、パープルがこちらに向かって手招きをする仕草を見せた。
「ピンク!悪いけど借りるわよ!」
ピンクが「へ?」と戸惑いの声をあげたのを聞いてか聞かずか。
「レナレナ!こっちへいらっしゃい!」
パープルがそう声をあげた瞬間、
「っ……?」
ピンクの背中から『何か』がドロリと溢れ出し、その勢いでピンクの身体が前に傾げる。
「ピンクちゃん!?」
膝をついてしまったピンクを慌ててグリーンが抱き起こす。
「どうしたの、大丈夫!?」
「大、丈夫……、何か、急に身体が重くなって怠いような感じが……」
『ごめんねぇ、あたしの可愛い子。もう1人の可愛い子があたしを呼んでるの』
グリーンはピンクを抱き締めながら——その肩越しに女神を見た。
女神は美しく微笑む。輪郭が光り輝き朧げだけど、陶器のようなつるりとした白い肌。桃色の髪が豊かにたなびく、それはそれは麗しい女神。
その神々しさに、ごくりと喉を鳴らす。
「……っ、レナレナ様……?」
『あたしがピンクのスーツから抜けちゃうから、ケガには気をつけてねぇ』
そう言って『ばいばい』と小さく手を振りながら女神はパープルの所へ飛んでいく。
「……パープルの神様はレナレナ様? 愛の女神の……?」
視線の先にはパープルがレナレナを受け入れるように両手を広げていた。
『紫子〜〜!!』
自身の腕に舞い降りて来た女神を、パープルは眩しいものを見るような目で見つめていた。
「レナレナ、また力を貸してくれる?」
『いいわよぅ、当然だもの。あなたもあたしの可愛い子だから!』
パープルは「ありがとう」と微笑む。少し寂しげに、ピアスに手を当てながら。
「結局、私はレナレナをその姿にさせてあげられなかったわね。ほら見て、10年でこんなに貯まったのよ」
レナレナは、パープルの耳にはめられている黒に近いその色石を見て、困ったように笑う。
『それもあなたの偽らざる気持ち。あなたは情が深い。……愛が深いのよ、だから、』
パープルは「ええそう。だから……」とそっと目を閉じる。女神から与えられる全てを受け入れるように折屈する。
「憎しみも深く——レナレナ、『裏返し』」
パープルの声に呼応するかのように、レナレナが『裏返る』。白かった肌は黒く、桃色の髪と瞳は黒が侵食するように混ざり灰色がかった紫色へ。
——愛憎の女神 レナレナ
「——を、守護の神と定めしゴットネス⭐︎パープル、推して参る」
呆気に取られたようにその場に立ち尽くすヒーローとヴィランを尻目に、愛憎の女神を従えたパープルはぐぐぐ……と伸びをする。
「あぁ、久しぶりね。この感覚。おっとそうだったわ。忘れていた——『天羽々斬』」
パープルの手に、濃紫の刀身の剣が顕現する。
天羽々斬と呼んだその剣をその場で軽く振り回す。ヒュンヒュンと風を切る軽快な音。
「さて。ここからは憎悪増し増しでお送りするわね」
ただ、長い年月をかけて積み重ね、煮詰め、凝縮された何かが、彼女の周囲から滲み出している。
天羽々斬が、月明かりを弾いた。
それはどこまでも冴え渡り、パープルの瞳はその刀身を映し取ったかのように妖しく光る。
「さぁ……」
彼女は昏く笑う。
「じっくりコトコト丁寧に煮込んだ憎悪の味を、たんと召し上がれ」
次話、明日更新予定です




