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悪の組織の幹部に粘着されています、公私ともに!〜敵幹部からの溺愛なんて不要なので倒されて下さい!〜  作者: 今谷香菜


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22、日常-2

注意⚠️本日更新2話目です

 ***


 紫水はストローを咥えながら、「さぁて。どうしたもんかな」と真向かいに座る上司を眺める。


 彼は憂い顔で「はぁ」と熱っぽいため息を漏らしていた。その色気のまたすごいのなんのって。


 この上司は恋を知って以降、色気が留まることを知らないのだ。この喫茶店の女性客の何人かは、彼目当てで通っていることを、翠玉は果たして知っているのだろうか。


「私はやはり竜人として機能不全(ポンコツ)なのでしょうか……」

「いやぁ……」


 翠玉は喫茶店の店員 野々原みどりを自身の番(つがい)だと定めた。


 竜族にとって番とは、世界にたった1人の運命的な相手のはずだ。

 ……にも関わらず、ゴットネス⭐︎グリーンにも惹かれてしまった上司は、どうしても自分のことを許せないらしい。

 それもあって彼は、みどりに積極的なアピールができていないように感じるのだ。


「確かにみどりさんとあ(・)い(・)つ(・)って全然違いますよね。みどりさんはおっとりと癒し系だし。あ(・)い(・)つ(・)は……」


 昨晩の出来事を思い出すと、アメは寒気と頭痛に襲われる。


「ア(・)レ(・)は魔女ですよ、魔女。あんな気持ち悪い人外(しょくしゅ)まで誑かして従えてしまう……なんて淫乱なんでしょうね」


「……」


「神子ってもっとこう……清楚で清らかな女性のことなんじゃないんですかねー」


 グリーンの性別が女性である事を紫水も知ったのだが、それでも『葦原の神子』への憧憬を捨てきれないでいた。


「先代の神子は紫(パープル)で、我が竜王陛下の最愛。我らが至上の君が強く惹かれる……ということはですよ、恐らくものすごく美しくたおやかな女性なんじゃないですかねぇ」


 やっぱり今回の神子はハズレだな、と紫水は舌打ちした。

 ちんちくりんで下品なヤツだし。しかもあんな触手と仲良く戯れるほどの淫乱(ビッチ)ときた。至極残念である。


「翠玉様、お気になさる必要はありませんよ。やはり最初に申し上げた通り、あの女は魅了の魔術が使えるのです。だから触手同様、あなた様も奴の術に侵されているだけです」


「私が……あの触手と同じ……?」


 それはそれでショックを隠せない翠玉であった。


 グリーンの通訳が真実であれば、あの触手も高い知能と高尚さを持ち合わせていそうなものであったが、それでも同列扱いされるのはなんか嫌だった。


 翠玉が微妙な顔をしていたのを見て紫水は苦笑した。


「まぁ僕たちのやるべきことは変わらないはずです。お仕事頑張りましょう、翠玉様」


「そうですね……。何にしろ、彼女の正体を暴かなければ、私は先に進め無いのでしょう」



 ——それはこの『陣地取りゲーム』に勝利した先に。



 決意を新たにしている上司の様子に、紫水は大きく頷きながら、


「ええ、そうでしょうとも。本当に、とっとと先に進まないと行けませんよ。翠玉様、ご存じです?人族には『学生結婚』という言葉があるそうですよ」


「……?」


「何でも在学中に結婚するカップルをそう呼ぶとか。割合は少ないらしいですけどね」


 紫水の言わんとした事にようやく察しがついたらしい。翠玉は「う……」とうめき、視線をずらした。


「早く『バ先の常連客』から脱却して下さいませんと。あ(・)い(・)つ(・)の正体にばかりかまけていると、好青年彼ピッピが……」


「それは分かってますし、私とて内心業腹なのはあなたから見ても分かる通りでしょう。しかし……」


「しかし?何だと言うのですか?」


 紫水に続く言葉を求められ、翠玉は一瞬の逡巡の後、「ふぅ」と息を吐く。


「……言いたくは無いですが、彼女は鈍すぎませんか?何かを褒めても食事に誘っても、あらぬ解釈をされて話が進みませんし、こちらを異性として意識している様子も全くありませんし」


「っあ——……」


 確かに何度かこの彼が撃沈している現場は目撃している。もちろん紫水としても同意見である。つまり彼女は『ニブイ』。


 しかし……


「異性として全く見ていないという程では無いかと。ほら、よく翠玉様の言葉に顔を真っ赤にしていらっしゃる」


「そうですね、勿論それはとても愛らしいし可憐だと思っておりますが」


「……」


 最初は。自分に恋人(パートナー)がいる後ろめたさから翠玉を「あしらって」いるのかとも思ったものだが。


「あの邪気のなさは、恐らく……本当に『分かっていない』のだと思うのですが」


「そう、ですねぇ。まぁ僕もそれは何となく。そうなのかな?と思ったりはしましたけど」


 人族に番という概念は無いにしろ、『一目惚れ』とい

 う言葉は存在する。


 しかしみどりは恐らく翠玉が自分に『一目惚れ』しているとも『好意を抱かれている』とも全然考えていないし、その可能性がある事すら完全に頭から抜けている様子だ。


「やはり先に囲っておいて……」


「ちょ、翠玉様……、あなた様はそういうところは本当に高位貴族様なんですから。堪え性が無いというか」


「何を言っているのですか?私は本件において自分がいかに忍耐強いかを知りましたよ」


「へ?」


 翠玉に促されるようにチラリと窓の外を見れば、仕事が終わったのだろう。みどりが例の青年と連れ立って歩いている後ろ姿が見えた。


 ふとみどりが後ろを振り返る。彼女はこちらに気づいて手をぶんぶんと振り……何かを叫んでいる。


 どうやら「学校行ってきまーす!」とか「またお店来てくださいねー!」とかそんな事を言っているようだ。


 翠玉はそれに手を軽く振り返す。笑顔を貼り付けたまま。


「……今だって相手の男を八つ裂きにしたい気持ちを抑えているというに」


「本当にどうしてくれましょうね?」と笑う翠玉の瞳は冷ややかだ。


 紫水はさり気なく翠玉の周囲から店の備品を遠ざけつつ、


「あー……そうですね、そうでした。僕はあなた様ほど我慢強い竜を他に知りませんでしたね」


「そうでしょう?やはり、私が尊い人族の青年の命を奪ってしまう前に、彼女を攫って囲ってしまうのが双方にとって良案だと思いませんか?」


 翠玉としてはこれはやはり良いアイディアかもしれないな、と考える。


 先程までグリーンの正体さえ暴けば、彼女(グリーン)への熱も興味も冷めるだろうと考えていたが。

 逆にみどりの方を自分の手元に置いておきさえすれば、グリーンに惹かれる感情が無くなる気がしてきた。


「悪くないな」と考えていそうな上司の納得顔に、紫水は焦り始めた。冷や汗も出る。時に翠玉は極端な手段を取ろうとするきらいがある。


「全然良案でない……」と紫水が却下するには翠玉の目に一切の光が無さ過ぎて怖い。


「えーと。せめてキチンと想いを告げてからにしましょうね。ほら、腹立ちますけど奴(グリーン)の言うことも尤もですよ」



 ——手折る花はよく選ばないと


 翠玉の脳裏にグリーンの言葉がよぎる。


「翠玉様はもう花は選んでおりましょうとも。しかし花もあなた様の為に咲きたいと思わなければ美しく咲くこともできず、すぐに枯れてしまうやもしれませんからね」


「こちらの国の花は、我が国のそれとは違い繊細でしょうから」と紫水は窓の方へ目を向ける。


「それにですよ?大体が、人族の彼がみどりさんと交際している実績というか事実があるのはお分かりでしょう?」


「……ええ」


「略奪はおろか、好意にすら気づいて貰えないだなんて。そんなのは竜族の名折れですよ、名折れ」


「……」


「そんな状態で彼女を拐かしてご覧なさい。あなた様の妻になろうとも、いつまでも経っても好青年元彼ピッピの事が忘れられないままですよ。ほら、悲恋は美しいものでしょう?思い出は綺麗なままずっと心に残りますからね!」


 そんな未来を想像したのだろうか。

 翠玉は苦虫を大量に噛み潰したような顔をする。


「それは……とても嫌ですね」


「そうでしょうとも!なので!当初の計画通り!早く口説き落として下さい!」


 翠玉は紫水の言を聞いてやはり、「はぁ」と物憂げにため息をついた。


 紫水としてはため息をつきたいのはこちらの方であると主張したいところではあるが。


 ——全く。みどりさんは本当にそろそろ僕に感謝した方が良いですね。僕は本当に良い仕事をしていますよ


 何と言ってもこの上司兼幼馴染による彼女の誘拐婚を未然に防いでいるのだから。


 ——みどりさんも早く口説き落とされてくれないですかねぇ


 恐らくグリーンの事が無くても、だ。


 翠玉は今まで女性に群がられてばかりの人生であったので、女性の「あしらい方」は熟知していても「口説き方」というものには不慣れなのでは?と紫水は考えている。

 しかも既にパートナーがいる女性である。

 彼女の鈍感力との相乗効果もあり、中々相性が悪そうだ。


 ——まぁ、そこは翠玉様……。そんな事も言ってられませんけど。



 しかし……と紫水は思う。


 グリーンといい彼女といい、この国の女性は目の前の上司を惑わせてばかりだな、と。



 もうずっと遠くに見える小さな背中を見送りながら、紫水はそっとため息をついた。





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