18、触手+女戦士 =∞
触手のジャングル外——外野がワーキャーうるさいのを受けて。
「あぁ、他の方々は解放されたようですね」
エメは何とも無いような事のように軽く言う。
その言葉を受けてグリーンが少しばかり期待した……のを彼は察知したのだろう。
「恐らくあなたは中々離してもらえないと思いますよ。この触手はあなたを気に入ったようだから……」
「ええっ!?」
「先程言った通り。この触手は自分とは異なる生物の『異性』の体液を摂取する性質があるんです。……この意味がお分かりになりますか?」
グリーンは「はて?」と首をこてんと傾げる。
傾げた瞬間にできた隙間から触手がぬるぬるっと入り込む。
「!? ひゃあん!」
「……」
正直、問答どころでは無い。
グリーンの嬌声にも似た声に、エメは「ん゛んッ!」とわざとらしい咳払いをする。
グリーンを拘束している触手の一本を掴み、目の前に掲げる。
「持参したこれは雄なんですよ」
「オス……?」
「そう、つまり。……あなたは女性でしょう?」
「……」
グリーンは押し黙る。
即座に否定する事も無く、何と答えようかしばし迷ってしまった。
——というかもうコレ。バレても良いのかも……?
グリーンは思う。そもそも男性だと偽装していたのは、野卑で下品な宇宙人が現れた場合の対処だったはずだ。性的な暴力を免れる為の。
しかし現状、この侵略者達から男性だと思われていた時でさえ、結構散々というかひどい目に遭っているのが実情だ。
投げられたり首絞められたり噛まれたり触手に絡まされたり……。
逆に女性である事が分かりさえすれば、この侵略者はあまり無体なことをしないのかもしれない。ピンクに対するアメの態度がそうであったように。
——なんか女の武器を使うようでズルい気もしちゃうんだけど。
しかしそんな事言ってられやしないのだ。
自衛であれ国防であれ、使えるモノ・利用できるモノは何でも使う。神の御力だって借りてこの場に立っているのだ。女の武器のひとつふたつくらい惜しんでどうするというのだ。
グリーンは強く決意を固め顔をあげる。エメに真っ直ぐ向き合うように。
「それがなに? 私が女だからってそれが何なの?」
「……っ、やはり……!」
エメは少しだけ驚いた様子を見せたものの、ほぼ確信めいた仮説であったろう。事実を噛み締めるように手をぐっと握り込んでいた。
「あなたは女性でしたか。そして『葦原の神子』……」
「告白したんだから、触手退けてくれない?」
「まだです。解放は私に素顔を見せたらという約束でしたよ」
「ええ?!そ、それはダメ!!」
性別だけならまだしも、流石に素顔を敵に晒す訳にはいかない。危険行為過ぎる。特定されたら公私共に粘着されてしまうではないか。
グリーンが首を激しく振って拒否するのを見、エメは「ふむ」と一考する様子を見せた。
そして胸元からハーフグローブを取り出し、ギュッと自分の手に装着しながら、ザクザクとグリーンの方へ近付いて来る。
「よく考えたらあなたは両腕が拘束されているのだし。私が外すのをお手伝いしましょう」
「いやいやいや!ダメって言ってるでしょー!!」
エメがグリーンの横に手をつく。ぎしりと触手が軋む音。
フルフェイスヘルメットに手をかけられ、ガシッと頭部を掴まれる感覚。
「私はね。あなたの正体が純粋に、とても知りたいのですよ。……『ゴットネス⭐︎グリーン』、『葦原の神子』。……他にあなたには何て呼称があるのでしょう?」
「〜〜ッ! あなたは、私をこれからもずっと『グリーン』と呼べばいい! ただそれだけで良いんだよ! 知る必要なんてない、私達の間にそれ以上の呼び名は必要無いんだからっ!!」
そうグリーンが叫んで訴えたところで。いや訴えた所為なのか?エメは「へぇ」と。酷薄な笑みを浮かべる。
「確かに我々は敵対している。でもね、私はもう一つの可能性をあなたに見出しているんですよ」
「……可能性?」
「そう。これは私が竜族として機能不全な所為で起きている事象なのか、それとも……本能が正しく私にそれを告げようとしているのか」
「……?」
「前者だったら私のただの不具合ですから。まぁいささかショックとはいえ、それならそれでよろしいのですが。後者であったなら話は別になる。その可能性がある限り私はあなたに無体が出来ないでいるのです」
グリーンは今度こそ首をひねる。
無体な事は今までも散々されていますけれども??と。言い返したい気持ちでいっぱいだ。
彼女の不満を感じ取ったのだろう。エメは苦笑する。
「申し訳ありませんが、あなたの素性を確認させて下さい。もしそちらの可能性の方に当たった場合、私はあなたに土下座をしてでも許しを乞わなければ」
「な、なん、で……!?」
——許しを??なぜ急にそんな話に??
意味もわからずその言葉にぎょっとしてエメをまじまじと見つめ返したグリーンだったが、しかし自分がピンチな事に変わりはなかった。
エメの、ヘルメットにかけられた手に力が入るのを感じたからだ。
「……ッ、待っ——!」
ぐい〜〜ッッ!!
グリーンの静止を振り切り、エメは強行突破だ。グリーンの頭が引っ張られた。……しかしヘルメットは抜けない。
グググ……ッ!!
「痛い!痛たたた!!」
グイ———ン!!!
「〜〜ッッッ!!!」
——この時の事を後にグリーンはこう語った。
『猫の胴体って、びよーんって意外と伸びるじゃない? 私、人間の首も同じだけポテンシャル秘めてるってこと、あの時初めて知ったんだよね』……と。




