17、触手VS 女戦士
注意⚠️下品です
——数十分の抵抗虚しく。
にゅるにゅるにゅるん……っ!
「うえぇぇ……」
捕まった。見事に2人……いやレッド含め3人とも。
両手両足ともに触手に雁字搦めにされてしまった。
しかも、周囲にはワサワサと茂みのような、森のような触手のジャングルだ。
あちらからも、こちらからも、ぬるりと新たな触手が伸びて、グリーンはレッド・ピンクとも引き離されてしまった。
「き、気持ち悪いぃぃ〜!」
「グリーン!気を確かに持つのですわ!」
遠くで微かに聞こえるピンクの声。
——この触手ジャングルのどこかで、ピンクちゃんも頑張ってるんだ。よし!!
意を決してグリーンは唱えた。
「新緑の刃!」
ザシュ!ザシュシュ!!
葉っぱの形をした鋭い刃が、グリーンを絡め取る触手へ次々と飛び、激しく切り刻んでいく。
ぶつかった触手の表皮が裂け、何本かは刃に両断され、力なく地面へと落ちていく……。
しかし——
切断された触手の断面が、ぐにゃりと蠢いた。
まるで何事もなかったかのように、そこから新たな肉がぼこっと盛り上がり、みるみるうちに伸びていく。
「……えっ!?」
ザシュッ! と再び刃を走らせる。
しかし、やはり切り刻まれた箇所はすぐさま再生してしまうのだ。
何本かを切り落としたところで、拘束を解くには到底足りない。
むしろ切られたから怒ったのだろうか?触手は再び絡みつき、先ほどよりも強くグリーンの身体を締め上げてくる。
「えー、ちょっとこれはやばぁ……あ!待って待ってタンマ!ごめんってば!んんん……!」
ぬるり、と一本の触手がグリーンの内太ももをゆるく這う。首筋をぬろんと舐めるように這うものも。
「ひゃん!ひゃめて!く、くすぐったぁ……」
全身はこの触手が出す粘液でドロドロのべちゃべちゃだ。この粘液で衣服 (だけ)が溶けるとか。そういうシロモノではなかった事だけが不幸中の幸いだ。
しかし。
触手がグリーンのフェースラインに沿って、にゅるにゅると這うように蠢く。
「え?何で吸っ……、ん!ひゃわッ!そんなとこ、あ!吸わ、ないで!」
顎の下、首筋、耳の後ろ。
細い触手が隙間からにゅくにゅくと入り込んで、グリーンのスーツに覆われていない露出した肌に吸い付く。
「ん、ふぅッ!ハァッ、な、何をして……!?」
「体液を摂取しているのですよ」
この熱気に満ちた空間に似つかわしく無い、いっそ憎たらしい位に涼やかな声が聞こえた。声の主は分かり切っているが。
「た、体液……?」
「そう。この生物は自分と異なる生物のうち、異性の体液を摂取する性質があるそうですよ」
「え。じゃあ今血を吸われて……?」
グリーンはエメの解説を聞いて血の気が引いた。ヒルのような吸血動物なのだろうか。
こんなにたくさんの触手に血を吸われたらあっという間にミイラとなってしまいそうだ。
「いえ。恐らくは汗を摂取しているのかと」
「あせ……?」
「ええ。吸血器官は無いはずですから」
その言葉にグリーンが少しホッとして胸を撫で下ろしていると、エメが触手と触手の隙間を掻い潜り、軽やかに飛び移ってこちらに向かって来るのを確認した。
やがてグリーンの拘束されている高さまで辿り着いた。
アイシールド越しに視線が合う。
「壮観ですね」
エメが揶揄するように笑う。
触手に拘束され、ぬるぬるテラテラ状態のグリーン。
さんざん暴れたせいで息も弾み、ふぅはぁと熱い吐息が漏れてしまうし、触手の身体を這うような一挙手一投足には身体をビクつかせる反応で応えることしか出来ないでいた。
そんな様子のグリーンを、だ。
「……」
エメはしばらく無言で見つめた。
そしてぽつりと。
「……助けて差し上げましょうか?」
「は?」
「とてもじゃないが見ていられない」
「あ、あなたがやったことでしょーが!」
グリーンは腹が立ってジタバタ暴れた……所為で触手の拘束がますます強くなった。
ズルズルズル……
「んんん、やぁ、ちょっ、食い込んで……ッ!」
エメが目線を微妙にずらしながら、
「あなた相手だとこれは良くない。何だかいけない事をしている気分になります」
「だ、だれが相手でも!これは、してはいけない事だと思うよ……ッ!」
「ですから……、」
ギャースカ喚くグリーンを無視し、エメはそっとグリーンの顔周りにかかっている触手を払い除けた。
そうしてグリーンの顔を覗き込み、コンコンとフルフェイスヘルメットを軽くノックする。
「ですから。これを外して、私にあなたの素顔を見せて下さい。そうしたらこの触手を退けて、助けて差し上げる」
***
一方のピンクといえば。
「しくったなぁ……」
……触手による亀甲縛りで動きを封じられていた。
先程まではM字開脚で固定しての拘束を試みていたようだが、『それは骨格的に無理ぃ!!』と叫んだら亀甲縛りが採用された次第である。
——もっと普通に拘束してくれんのかね、ふつーに。
スカートはたくしあげられ、豊かな(偽)胸が強調されるこの緊縛方法。
何故……と触手に問いただしたい気持ちでいっぱいだ。
あと時々、触手に首筋を吸われはするが、『んぺっ!ぺぺっ!!』と不味いモノのように吐き出される。
何だろう。害は無いがすごく不愉快な気持ちにさせられる。
——と言ってもなぁ。切っても切ってもすぐ再生するし捕らわれるしでキリがないんだよな……。
何らかの突破口というか打開策は無いものか?亀甲縛りで宙釣りのままピンクが思案していると。
「ピンクちゃん!」
前方の触手の茂みがガサゴソと音を立てて揺れるのと同時に、その間からアメがひょこっと顔を出した。
「げぇ!あ、あなたは……!」
「……っ、こんな格好にさせられて……!」
アメがズカズカと近付いてくる。こちらの心情など無視してズカズカと。
こんな恥辱的な格好を敵に見られるなどとは。
何たる屈辱であろう。我妻家末代までの恥である。
「くっ、殺せ……!」
「!!」
アメはピンクのこのセリフを聞いて、強い衝撃を受けたようだ。
口元に手を当て、「やっぱりピンクちゃんはくっころ系……ッッ!!」と何故かハァハァと鼻息を荒くさせている。
何がこのアメの琴線に触れたのだろう。
「ダメだ、胸がいっぱいだ……」と胸を押さえながらよろめき、触手に寄りかかりながら、ひとしきりゼェハァと荒い呼吸を繰り返していた。
——しばらくして。
アメの心と身体も落ち着いたのだろうか。すくっと急に立ち上がった。
「おわっ!?」
そのあまりの勢いに、ピンクは素で身をのけ反らせて驚いてしまった。
「あ、あぁ……?何かよく分かりませんが発作は治りました?」
こちらのお伺いなぞ無視し、アメは握り拳を作りながら、「くっ……!」と苦悶の表情を浮かべ、顔を背ける。まるで今から仕切り直しとばかりに。
「君は誇り高い戦士である以前に、ひとりの乙女だって言うのに……!」
「は、はぁ……」
散々そこらへんで身悶えて転がっていたのはどこのどいつだったろうか。……もはや何も言うまいが。
「ごめんね」とアメはピンクに向かってそっと呟く。
そうしてまたいつかのように片腕を軽く振り、腕の人化を解く。その片腕を触手に向かって勢い良く振り下ろす。
ザシュザシュザシュ!
アメは周囲の触手を根絶やしにする勢いで切り捨て、ピンクの拘束を解いた。
解放されたピンクの身体は一瞬宙に浮く。
「え? あっ——!」
「おっと」
アメは両手を伸ばし、その身体をふわりと優しく抱き止めた。
抱き止めながら、再生し襲い掛かろうとする触手——その切断面に片手をかざす。
キイィィンンン!!
「!? 氷……ですの?」
「え? あ、そうそう。僕の家系って氷の扱いが上手い人が多いんだよね」
切断面が凍らされた触手は、すすすと奥に引っ込んでしまいそれ以上は襲っては来なかった。
「氷の扱いが上手い人が多い」ということは、長けていなくとも、他の能力も使えると言う事だろうか?
今が、情報収集の絶好のチャンスでは無いだろうか?
ピンクはアメの横顔を凝視した。
「あの、アメさ……」
「ごめん。今から下降りるからさ。舌噛まないようにね」
「え?」
そう言ってアメはピンクの膝裏に手を差し入れて、ヒョイっと持ち上げる。
「!!??」
いわゆるお姫様抱っこ状態だ。
ピンクが抗議する間もなく。背面からトンッとその場を蹴り、そのまま背面飛行で落ちるようにして2人は飛び立った。
落ちながらアメは「ふふふ」と上機嫌な猫が喉を鳴らすように笑う。
笑いながら、
「ピンクちゃんて案外、身体固いんだね。そんな意外なところも、とってもチャーミングだよ。あとさ、今気づいたんだけど。ピンクちゃんて、結構骨太というか……ガッシリしているっていうか、筋肉がついてるよね。あ!違うんだよ?それでも僕の種族の女性よりかは遥かに華奢でスレンダーだし。僕は女性らしいと思うよ!ほら健全な肉体には健全な魂が宿るって言葉もあるじゃない?なんて言うのかな、ストイックに身体を鍛えているのが伺えてさ、僕としては……」
ピンクは敵にお姫様抱っこされた状態でそれらを耳元で囁かれ続けられた。
その間敵のアメといえばうっすら顔を上気させながら、目を潤ませてこちらを見つめてくるのである。
「……」
この時はもう既に、彼(女)の尊厳が瀕死状態だったのだ。……色々と我慢の限界であったことは否めない。
大体『ピンクちゃん身体固い〜云々』は、触手がM字開脚を試みているシーンを指しての発言だろう。
それはつまり。
ピンクが触手に捕まった冒頭部分からこの敵は物陰に潜んで一部始終を目撃していたという事に他ならない。
故に地上に着いて、アメに「怪我はない?」と顔を覗き込まれた瞬間。
「シンプルにパンチ!!!」
ドコォォォン!
——ピンクはアメの横っ面を思いっきり殴打した。




