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「平和になったら用済み」と追放された聖女は、隣国騎士と幸せを見つける。~なお、あの国は平和になっていなかったようです~  作者: 莉沙子
5章

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46 告白

「私は、自らの罪を告白するために参りました」


 ヨハンと共に円卓の前に立ったのは、ピウス大司教だった。

 アバナシーレイクから、テオパルド王国の王都まで通常であれば往復二週間。その距離を、僅か十日で駆けた。魔法の素質のない者という荷物を抱えて。

 そして、ピウス大司教を連れ戻ったのだ。

 突然の罪の告白に、その場は水を打ったように静まり返った。

 ピウス大司教の表情は、相変わらず感情に乏しい。

 ただ、冷たく無機質な瞳が、抑揚の乏しい声が、あえて感情を殺しているようにも思える。

 それが、いかにその告白が確固たる決意のものであるかと想像に走らせるのだ。


「なんとまぁ……これは……」


 これほど、この場で人を引き付けるのに効果を発揮するとは思っていなかった。

 同じことを思っていたのだろう、ジークハルトが感嘆の声を漏らした。 


「私は、ヨハネス枢機卿からテオパルド王国にいらっしゃる聖女様を聖モントローズ王国へお連れするよう指示を受けました」

「な……! おい、ピウス大司教! 何を……」

「私は思ったのです」


 狼狽するヨハネス枢機卿をピウス大司教の声が遮る。決して大きな声では無かったのに、円卓の間の隅々にまで広がる。


「聖モントローズ王国には救いを求める民が多い。テオパルド王国よりも国力に乏しく、また長きにわたり苦渋を舐めた聖モントローズ王国の民こそ、真っ先に救われるべきではないかと。それが、テオパルド王国のローズ教会を預かる私の率直な思いでした」


 ピウス大司教は、そこで、顔をゆがめた。自らの罪が、まさにそこにあるかのように。


「そして、既知であったフェリクス司教へ、聖女様の行方を捜すように依頼いたしました。まさか、フェリクス司教が、聖モントローズ王国の現状を憂いて、強引な手に出るとは思わなかったのです」 


 場にどよめきが走る。ピウス大司教は、ヨハネス枢機卿の依頼で、聖女拉致を手配したことを告白したのだ。

 ただし、ニナの誘拐は、フェリクス司教の独断として。

 言ったもの勝ちだ、とニナは思った。

 実際、ピウス大司教が強硬手段をほのめかした証拠は、どこにもないのだ。


「全ては私の与り知らぬことですが、友の罪は私の罪でもあります」


 そうして、自分に悪意があったわけではないことを主張する。


「そして、この場でヨハネス枢機卿よりお預かりしたこの先代聖女様の手記を、お返しに参った所存です」


 ヨハンがテオパルド王国に戻ったのは、ピウス大司教に証言を頼むためだ。

 自分の地位に固執する彼が、罪悪感や奉仕精神で動くはずがない。

 しかし、ここでエドウィンとその支持者が失脚すれば、枢機卿の席が空く。ヨハンはテオパルド王国から枢機卿への支援をすることで、証言を引き出したのだ。

 議会が招集された時点で、天秤は不安定になる。一歩踏み込めば、間違いなく枢機卿への道が開ける。待っていたところで、席はなかなか回ってこない。

 ヨハンは、その点をついたのだ。


「枢機卿は、聖女様をお連れする努力に対し、この秘蔵の手記を私にお譲りくださったのです。けれど、私は役目を果たせず、友を罪へと駆り立ててしまった。この手記を手にすることができないのです」


 ピウス大司教もまた、巧妙だった。あの手記は、枢機卿から与えられたものではなかった。

 悪事に手を染めることへの保険として、口巧に奪ったのだ。


「お前……!」

「ちが……違います! 殿下」


 取引の証拠である手記がこの場に出された以上、エドウィンに勝ち目はなかった。


「ふざけるな! 何もかもでたらめだ! 陰謀だ!」 


 ニナは、すっかり冷静さを失ったエドウィンを見ながらどんどん頭の中が心までが冷えていくのを感じていた。


「アルバートのくせに! 弟のくせに、私に盾突くのか! 異世界の平民の小娘のくせに!」


 エドウィンが、唾を飛ばしながら怒鳴る。聞くに堪えない言葉ばかりだった。


「私が! この国の王だ! お前もそれを支持していたではないか! 私が間違えるはずがない! 私が、第一王子だから──!」

(そっか、この人は……失敗したことがないんだ)


 ニナはこの時初めて気づいた。

 間違いや失敗を犯したことがない人はいない。だが、エドウィンは失敗を犯す前に、誰かが埋め合わせをしていたのだろう。

 まっさらな場所を汚したとしても、汚れに気づかないうちに綺麗にされてしまえば、無かったことになる。

 官吏が、弟が、民が、先回りしていたのだろう。エドウィンが第一王子だから。身分高き尊い方だから。

 間違いを指摘せず、むしろ一歩引いて間違いを被ってさえ見せる。アルバートのように。

 次第に理由が変わっていくことに、誰も気付かなかったのだ。癇癪をおこすから、罪をなすりつけられるから、相手をするのが、怖いから──面倒だから。

 まるで、親に世話をされる子供だった。

 アルバートは、いつからエドウィンが変わってしまったのかと嘆いた。

 違う。エドウィンは、何も変わっていないのだ。変わらないまま、大人になってしまった。


「採決をお願いします!」


 アルバートが声を張り上げた。議長を務める侯爵が頷く。


「これより、聖モントローズ王国第一王子であるエドウィン殿下の王位継承権についての決議を行う」


 待て、という言葉は、黙殺された。  


「王位継承権剥奪に賛成であるものは挙手を」 


 粛々と、採決は進んで行く。

 指先をそろえられた掌が、掲げられる。ゆるぎない大樹のように堂々と。その掌が、枢機卿から、一つ、二つ、三つと続き──。


「そんな……あり得ない」


 自らの運命が決まったことを受け入れられないまま、エドウィンが崩れ落ちた。 

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