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「平和になったら用済み」と追放された聖女は、隣国騎士と幸せを見つける。~なお、あの国は平和になっていなかったようです~  作者: 莉沙子
5章

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43第二王子の決意

「そんな……まさか」


 一通りの説明を聞き終えた後、アルバートは絶句していた。

 顔からは血の気が引いている。表情を取り繕うことも、出来なくなっていた。

 だが、はっきりとした否定はしなかった。


(ひょっとしたら……アルバート殿下も、何かがおかしいと思っていたのかもしれない) 


 だとしても、アルバートはジークハルトと問い詰めることもしなかった。

 出来なかったのだろう。


(彼が、第二王子だから……)


 確かに、アルバートの母は身分の低い男爵家の出身らしいが、アルバート自身は王子の身分と王位継承権第二位の立場が許されている。

 あそこまで、エドウィン相手に卑屈になる必要があるのか、ニナはずっと疑問に思っていた。 


「兄上が、そこまでのことをするはずがない」


 だが、アルバートは、この期に及んでもエドウィンの味方をした。

 ニナは、肩を落とした。ニナとの婚約のためにエドウィンに食って掛かってくれたのは、あくまで自分達の間のことだけだから強気に出れたのだろう。

 本来、アルバートはエドウィンと対立することを苦手に思っているのだ。

 だから、ニナがエドウィンにどう扱われようと、魔獣の討伐が行われる間、表立って庇えなかった。

 強く庇ってくれたのは、魔獣の討伐が終わってからだ。聖女としての役割を終えたニナだからこそなのだろう。


「エドウィン殿下が、功績に執着しているのはアルバート殿下もご存じでしょう?」

「だからと言って、他国に害を成すなんて……!」


 未だに信じられない様子のアルバートに、ニナは言う。


「実際、テオパルド王国には被害が広がって、私を力づくで連れ戻そうとしたんです」

「聖モントローズ王国が常に危うい均衡で成り立つ国だということは、周知の事実です」


 ジークハルトが、続いて口を開いた。


「他国を弱らせた上で聖モントローズ王国の安寧を確保する。それが成されれば、確かに聖モントローズ王国には今まで以上の平和と発展がもたらされ、エドウィン殿下は後世に名を遺す王になります」


 アルバートはうなだれた。どこかで、心あたりはあったのだろう。

 信じたくなくともそう思わせる行動を、エドウィンは今まで取って来た。

 ニナに結婚すら許さず、修道院に閉じ込めようとしたのも、その証拠だった。 


「兄上は……国を継ぐという立場を理解して励んでいた。あの態度もその重圧に応えようとするものだと思うと、理解できた。それでいて、私のことも弟として大事にしてくれた。どこからおかしくなったのか、わからないんだ」


 アルバートは、青白い顔をそのままに、ぽつりぽつりと語り出す。

 それは誰の話なのだろうと、ニナは思う。ニナが知るエドウィンの姿とは全く違う。

 ニナの知らない時間が、確かにあったのだ。


「でも、いつからか、兄上は私を疎んじるようになった。何が気に障ったのか、未だにわからない。私はそれでもかまわなかった。私は所詮、側妃の……妾の子で、国を継ぐのは兄上。兄を支えるのが私の役目で、私が目障りだというのなら、せめて、煩わせまいとそう思っていた」


 アルバートの遠慮は、結果エドウィンを助長させることになったはずだ。

 エドウィンはなおさらアルバートをつまらないもののように扱い、アルバートは口を出せなくなっていたのだろう。


「だとしても、エドウィン殿下の態度は行き過ぎなのではないかと思うんです」


 ニナは、そっと語り始めた。


「一方的に婚約を許さないのも、アルバート殿下を尊重しないのも……。 この話が本当なのだとしたら、民をも軽んじていることになります。苦しむ民を放置して、他国に災いを振りまくことを企むのも」

「そして、ニナに対する態度も」


 暫く様子を見ていたジークハルトが、再び口を挟んだ。


「ニナに、災いの片棒を担がせた。誘拐までして強引に連れ戻そうとして、なにもかも、ニナが一人の人間であるということを置き去りにしていた」 

「確かに、おっしゃることもわかる。でも……」


 アルバートは悲しそうだった。信じたくない思いで事実を覆い隠そうとしているようにも見えた。


「王太子という立場があればの行動でもある。国の主ともなれば、個々の感情や尊厳、多少の傷よりも、大きなものを選ばなければならないものがある時も……」

「民よりも、舞踏会や礼拝をですか?」

「それ、は……!」 


 ニナの言葉に、アルバートはとっさの反論が出来なかった。


「この国では、貴族との協力で民と地を治めている。だから、そのつながりを、蔑ろにするわけにはいかないという兄上の言い分もわかる。ニーナには、気に食わないことだったのかもしれないけれど……」 

   

 アルバートは、やはり兄を憐れむのだ。ニナを憐れみ、エドウィンを憐れむ。


「殿下。殿下は私に結婚を申し込んでくださいましたね。哀れだから、と」


 慈悲深いことは決して悪いことではない。ニナは傷ついたが救われた気持ちも、確かにあったのだ。

 アルバートは、たとえ妾の子であっても国を継ぐための教育を受けたはずだ。ジークハルトがそうであったように。


「殿下の慈悲をありがたいと思いました。でも、悲しかった。哀れを受けるだけの私自身が」  


 ジークハルトは慈悲の正しい使い方を知っていた。

 時に冷たく切り離すことも大切なのだと。憐れむべくして憐れむものを、間違えてはいけないと。

 だが、アルバートはどうだ。

 目の前にいる者ばかりを憐れみ、本来その気持ちを向ける相手を見失っている。   


「殿下、その慈悲はどうか、民へと向けていただけませんか。私でもエドウィン殿下もなく、救いを待つ民へ」


 ニナはアルバートを見据えた。ここでアルバートに動いてもらわなければならない。

 それだけではない。アルバートが、慈悲という殻の中に閉じこもっているように思えてならなかった。

 その中は、穏やかで心地よいのだろう。誰を害すことも、害されることもない。

 でも、卑怯ではないか。



「私達は……怯えて、遠慮して何もできなかった……。しなかった。その結果が今のこの状態なら、取り返しのつかなくなる前に、止めるべきなんじゃないかと思います」

 ニナは、意図せず傷つける側に回ってしまった。その償いを決着をするために戻って来た。

 アルバートもまた、ニナと同じはずなのだ。第二王子が、知らなかったで終わらせるわけにはいかないはずだ。

 ニナに、戻ってこなければよかったのに、と言ってはいけないのだ。


「私は、君を傷つけていたんだね。君だけじゃなく、民をも」 


 アルバートは、弱弱しい笑みを浮かべた。

 一度顔を俯け、次にニナの目を見た時、その頼りなさは影もなくなっていた。

 力強い光を湛えた目に、ニナは息をのんだ。


(こんな顔、するんだ……)


「議会を招集します」


 はっきりとした声で、そう宣言する。


「聖女が国に戻られた。連れて行くといえば、私の招集も受け入れられると思う」 


 ジークハルトとヨハンが、息をつめてアルバートの決断の言葉を待っていた。

 アルバートは二人に頷き、その決意を口にする。


「聖女の力を行使する代わりに、兄上の王位継承権放棄を求めます」

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