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「平和になったら用済み」と追放された聖女は、隣国騎士と幸せを見つける。~なお、あの国は平和になっていなかったようです~  作者: 莉沙子
5章

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41聖モントローズ王国へ

「聖モントローズ王国に行くだって?」

「えぇ。だから、ヨハンにも考えを……」

「じゃあ、俺も行く!」


 ジークハルトはニナとフリッツを伴って、ヨハンの元を訪れた。

 聖モントローズ王国に戻り、黒い霧の魔獣を討伐すると決めたのだが、具体的な方法は何も思いついていなかった。

 まさか、要求の通り、聖女を返還するわけにもいかない。正式な国交を結んでいない以上、騎士を派遣するにも時間はかかる。

 ヨハンにも何か方法を考えてもらおうと思ったのだが、話を聞くや否や、ヨハンは浮足立っていた。


「ヨハン……あなたは、また、一方的に。討伐になるんですよ。長期にわたってあなたが国を出るわけには」

「聖地に行けばいいんだ」


 ヨハンは、そう断言する。 


「ど、どういうこと?」


 ヨハンの頭の中には、すでに解決への道筋が出来ているようだった。ニナは前のめりになって、続きを催促した。 


「聖地は巨大な魔力だまり。魔力はそこに引き付けられ、同時に魔力を底上げする。黒い霧の魔獣が聖モントローズ王国に集まってるなら、聖地で底上げした聖魔力で広範囲に展開すればいい。逃げられないほどに」


 ニナとジークハルトは顔を見合わせた。理に適っている。それなら、聖地にたどり着けさえすれば、最小限の人数で事態を治めることができる。

 テオパルド王国の魔獣は、その後再び遠征の予定を組めばいい。


「聖地なんて一生かかって拝めるものじゃない! おまけに巨大な魔力だまり? 絶対に俺が行かないと!」

「研究報告書を作りに行くんじゃないんですよ。それに、聖地に行くことが目的なら秘密裏に侵入することになるんです。私とフリッツとニナを中心に、あと数人で……」


 本来の目的を見失っていそうなヨハンを、ジークハルトが窘めた。


「なら、フリッツを置いて行こう! 大きいし声もでかくて目立つから」

「ヨハン様!? 俺をジーク様から引き離す気ですか?」

「それでもいいかもしれないですね」

「ジーク様まで!」


 味方を失ったフリッツは、顔を青くしていた。


「ヨハンの言うことも最もですから。それに、風魔法使いの同行は願ってもない。短期間で往復できるなら、ヨハンの不在の負担も少なくて済むでしょう」


 ジークハルトが納得してしまえば、フリッツに寄る辺は無かった。渋々といった様子で頷く。


「それで、潜入する伝手はあるのか? 策もなしに聖地には行けないだろう?」


 ヨハンの疑問はもっともだった。それに関しては、ニナに一つだけ考えがあった。


「第二王子のアルバート様なら、手を貸してくれるかもしれない」


 唯一、あの国でニナに優しくしてくれた人だ。

 ただでさえ、聖モントローズ王国は再びの被害で混乱している。力を貸すと言えば、話を聞いてくれるだろう。


「今はちょうど、ローズ教の降臨節だから。きっと居城にいるはず」


 降臨節は、ローズ教の典礼期間の一つだ。始祖神が降臨とされる日までの二週間、教会や居城で祈りの日々を送るのだ。


「戻っていれば、城に旗が立つから、行けばわかると思う」

「なるほど。第二王子の居城は?」

「北西の湖畔の町、アバナシーレイク」


 それは、北の隣国オリオール公国にほど近い街だ。テオパルド王国とも国境を接している。


「なら、オリオール経由で入りましょう。オリオールとテオパルドは友好的な関係にありますから。オリオールの商人としての身分証明書を発行してもらえれば、疑われることなく入国できると思います」


 ジークハルトはフリッツに外交官を呼ぶように指示した。一礼したフリッツが部屋を辞したのを確認し、ジークハルトはニナへ向き直る。 


「あの国にも、ニナにも味方がいたんですね」


 心から安心したような顔だった。


「と、いうか……その……」 


 その顔を見ると、いずれ明るみになる事実を隠しておけなくなった。 

 思いが通じ合ったばかりなのに、火種を生むようなことを言いたくなかったのだが、どうしようもなかった。


「プロポーズ、してもらった」

「は?」


 ジークハルトの間の抜けた顔。

 ニナは、新鮮な驚きとともに、その顔をじっと見つめてしまった。

 次第に、その顔が強張っていくのを見て、ニナは慌てて続けた。


「結局、エドウィン殿下に反対されて婚約は成立しなかったんだけど、そのまま、修道院に放り込まれたし」

「それは、ニナがアルバード殿下を愛していたと?」

「そうじゃなくって」


 ニナは困って眉を下げた。


「ただ……私がかわいそうだと思って申し込んだんだから」       


 誰かを愛する気持ちを知った今だからこそ思う。

 あの告白は、ニナの自尊心をひどく傷つけるものだったのだと。

 ニナは誰かを愛する気持ちを知ったのだ


「哀れですね」

 

 ジークハルトが、短く言い放つ。

 ニナは、自然と頭が下がってしまう。やっぱり、ジークハルトから見ても哀れだったのだ。他ならぬ彼に言われたのだから、余計に惨めになった。

 だが、続いた言葉に、ニナはやはりジークハルトを好きになってよかったと思うのだった。


「本当にあの国の男達は見る目がない。本当に哀れです」


 ジークハルトはニナではなく、アルバートが哀れだと言ったのだ。 

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