36魔力だまり
「それは、所謂『魔力だまり』という場所だろうな」
盗賊達を拘束し、ニナ達は一度王都に戻ることになった。
経緯を聞いたヨハンは、ニナが遭遇した現象について心当たりがあるようだった。
「ニナは、魔力について、最初に受けた説明があると思うんだが、覚えてる?」
「人の体に宿りて巡り、大地を奔りて海を満たす?」
「そう。その言葉の通り、魔力は人の体に宿るだけじゃなく、自然に宿って、この世界を循環している」
魔法や魔力について学ぶ時、最初に教えられる概念だった。
「循環する中で、地形や気候、人の動きなんかの影響を受けて、魔力が滞る場所がある。それが、魔力だまり」
ヨハンはくるくると指先を回した。
「魔力だまりの中では、魔力が活性化して、魔法の威力が高まると言われている。研究の結果、魔力だまりという名前がつけられたのは比較的最近なんだけど、昔は魔力が活性化しやすい場所を神聖化して教会や療養所を建てることが多かったから」
「でも、あの教会は、もう使われてないみたいだったけど」
「魔力だまりは不安定なんだ。条件が変わると場所が変わる。魔力の循環にあわせて動くんだ」
ヨハンは、ジークハルトへ話を向けた。
「ジークは感じなかった? 魔力だまりの効果。魔力が底上げされた感じがするだろ?」
「少し……ただ、正直、堪能する余裕はなかったので」
ジークは情けなそうな表情だった。
「ただでさえ、相性が悪い。活性化されたところで、私が押されがちになるのは明らかでしたから」
盗賊の男は、優位に立っていることに興奮し、どんどん魔法を展開していたが、実際は魔力だまりの影響もあったのだろうか。
「あの場を切り抜けられたのは、ニナのおかげですよ」
「どういたしまして」
ジークハルトの甘い微笑み。ニナも照れながら笑い返した。
「それじゃあ、本題になるけど──司教が連行された」
やはり、と思う。
「ニナが拾ったのは、薔薇の彫刻がされた銅円。司教の身分証明書だね」
「確か、この国にいる司教は……数人でしたよね」
「昨日緊急の調査をして、確認した。身分証明書を紛失したのは、フェリクス司教だね。実際、ニナが証言した時間に不在証明が取れている。盗賊たちは相手を確認していなかったが、体の特徴から間違いないと思う。」
「声をきけば、わかると思う。どんな人? フェリクス司教って、ちょっと頼りない感じはしたんだけど」
「その通りだね。小技を使いながら昇進していった。大司教を目指してこそこそとまた企んでいたみたいだ。あまり評判がよくない」
そして、とヨハンは声を潜めた。触れてはならない場所に触れるように。
「フェリクス司教を子飼いにしていたのは──ピウス大司教。この国のローズ教の頂点に立つ人だ」
ニナは自分の記憶を探るが、思い出せなかった。
聖モントローズ王国では、ローズ教の枢機卿や大司教と面会をしたが、せいぜい王国内でのことだ。他国の大司教については、名前を聞く程度だった。
「実際、フェリクス司教はピウス大司教に頼まれたのだと言い張っている」
「自供したのですか?」
ジークハルトの問いに、ヨハンは悔しそうな表情を見せた。
「少しの取引もあったけど。おかげで裁判へは引っ張れない。ニナ、聖モントローズ王国にいた時、彼と面識は?」
ニナは少し考え、首を横に振った。
「私が紹介されて面識があったのは枢機卿と聖モントローズ王国内にいる大司教まで。ひょっとしたら、教会の礼拝やどこかで同じ空間にいたかもしれないけど、紹介されたことはないと思う」
ベールで遮られた視界では、目の端にいた程度では覚えられない。
「王太子命で大司教を招聘している」
ヨハンの対応は迅速だった。
「多分だけれど、大司教であれば、詳しいことを知っているんじゃないかな。何故聖モントローズ王国が今更ニナを呼び戻そうとしているか」




