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食べて、作って、爆発する。勇者のモンスター活用法が斜め上すぎる。  作者: 結城一
第五章 勇者の寄り道が自由すぎるのだが

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21/25

21 呪いの方だった

「えっ、ちょっ、ヤバい! ヤバいよ、ユーイ!」

 オグは俺に水色の石を放り投げると、そのまま出口に向かって駆け出そうとする。石はずっしりと重く、温かい。

「待て、これはお前が持てよ!」

 俺はすぐに石を投げ返す。どう考えても両手で剣を握る俺より、手ぶらのオグが持つべきだ。

「オグ、絶対に落とすなよ!」

「なんで今、この状況でそれ言うの!?」

「いいから、黙って持ってろ!」

「えぇぇえええ!」

 悲鳴混じりの返事が返る。オグは水を蹴り上げ、重い扉へ向かう。


ゴォォォォン ドン ドォォン


 俺たちのすぐ後ろで壁が内側へと爆ぜる。

 真横から飛んでくる石や破片を避ける。

 支えを失った入り口の天井が、一気に崩れ落ちてくる。

 降り注ぐ巨石を避けながら、俺たちは右へ左へと逃げ惑う。

 オグは落ちてくる大きな破片から破片へと跳ね、一気に天井へ駆け上がっていく。

 天井の奥では、砂埃の隙間から太陽の光が差し込んでいた。


キシャァアアアァァ


「ついてきて!」

 ありえない道を駆けていくオグの肩から、ギィの恐怖の悲鳴らしき鳴き声が聞こえてくる。やつは密着するように体を平らにし、オグに張り付いている。

「走れぇぇぇぇぇ!」

 横でシアンが絶叫するが、言われるまでもない。


ドォォォン!


 オグほど器用には動けない。

 それでも俺とシアンは、何度もみっともなく転びそうになりながら、天井の穴へと駆け出す。

「ユーイ、右足前! 左避ける! 前、傾く! シアン、左! ユーイ、上に跳べ! そこ潜って! ユーイ、そっちじゃない!」

 先に上がったオグが、踏み位置と体の向きを遠慮なく叫ぶ。なぜか俺だけ指示が多い。

 尻の激痛に吐きそうになりながらも、俺は彼の指示通りに体を動かす。


ドォン ガラガラ ガラ


 気づけば俺たちは崩壊していく遺跡から這い出ていた。

 あれだけ砕けた天井や壁石が宙を舞っていたのに、外から見た遺跡は静かだ。

 あのヒル部屋の天井は確かに壊れて落ちてきたが、二層になっている造りらしい。外殻には元々の破損こそあるものの、あの派手な崩壊の爪痕は外からはまったく見えない。

 池の水に飛び込んだ俺たちは、そろって遺跡を見上げる。

 いつ崩れ落ちるのかと身構えていたが、何も起こらない。

「……なんか……拍子抜けする」

 オグの不満そうな呟きに、少し苦笑する。

「まぁ、でも無事に出られたんだ。よかったじゃないか」

「おめぇ、ちゃんとあの石持ってきたか?」

 シアンの問いに、オグは懐から石を引っ張り出す。なぜかオグの手に大量のギィの白い粒々までくっ付いていて、水面にぱらぱらと落ちる。

 あの粒、一体どれだけシャツの中に詰め込まれているんだろう。

「ほら、ちゃんと持ってるよ」

 心なしか、オグは妙に自慢げだ。

 だが、俺もシアンもそれについては何も言わない。

 手の中の石は、まだほんのりと光っている。

「こうして見てると、なん――――」


ピチャピチャン ピチャピチャッ


 三人同時に、顔を見合わせる。

 みんな、同じ表情だ。

「残ったヒルたちが追っかけてきやがったじゃねぇか!」

「おい! 急いで水から上がれ!」

 俺は水中でもつれる足に苦戦しながら、岸へ向かって方向転換する。

 シアンはもう少しで自力で上がれそうだ。やっぱり一番速い。

「ぁあああああああ!」

 オグの悲鳴に、慌てて振り返る。

「噛まれたのか!?」

「お宝落としたぁぁぁあああ!」

「はぁああ!?」

「おめぇ、マジかよ!?」

 シアンまでもが足を止めて振り返っている。

「どうしよう!? 俺、もうヒルなんか嫌だ!」

「オレだって嫌だぞ!」

 二人の喚き声を無視して、俺は剣を抜きながらオグの方へ急いで戻る。

「石はどこだよ!」

「知らないよ! 多分ここら辺!」

 オグが両腕を広げて、足元一帯を示す。

「お前はもう少し『ここら辺』を絞れ!」

 怒鳴った直後、俺のすぐ横を何かが泳ぎ抜ける。

「ぅおっ!」

 反射的に剣を振り下ろす。

 水しぶきと一緒に、斬られたヒルが跳ねた。

「ヌメヌメしてるっ!」

 オグが情けない悲鳴を上げる。

「泣く暇あったら探せ、バカ!」

「探してるよぉ!」

 そう喚きながらも、オグは雑にバシャバシャと水を掻き回すだけだ。全然探せていない。

「ちゃんと水底を探せ、オグ!」

「だって顔噛まれるなんて、絶対にムリ!」

「だったら靴脱いで足で探しやがれ!」

 シアンも怒鳴りながら戻ってきている。

「シアン、オグの向こう側を頼む!」

「くそ、マヌケにもほどがあらぁ!」

 悪態を吐きながらも、シアンの短剣が水面を走る。

 浮かび上がったヒルの胴体から、波紋が広がる。

「ギィ、お前もなんかしろ!」

 オグの肩にへばり付いていたギィが、不満か恐怖か判断の付かない表情で俺を睨みつける。

「あった! 見つかったよ、ユーイ! これ、なんかまだ温かい!」

「へぇ、そりゃよかったな! さっさと陸へ上がれって!」


キシャァァアア!


 ギィの威嚇する声が聞こえてくる。

 数は少ないが、まだ残っているヒルを斬り払いながら、オグを見る。

 喉の奥で変な音が出る。

 オグの手の中にある、それ。

 水色の光は真っ赤な色へと変化し、表面に刻印されている模様まで黄色い炎のように揺らめいて見える。見間違いじゃない。

「オグ、……それ、なんで赤い?」

 彼は頭上に上げていた石を見る。

「え、これって、赤かったっけ?」

「水色だっただろが! 赤ん坊がビビってやがるぞ!」

 オグの肩にいたギィを探すが、見当たらない。


――いた


 オグの手の中の石を見据えたまま、ギィが必死に威嚇している。節くれ立った尻尾を高速でベチベチと左右に振っている。

「ユーイ、なんか足元すり通った!」

 オグの悲鳴で、ギィがオグの服の裾に潜り込む。

「ユーイ! ヒル、頼んだぜ!」

 シアンはオグにたどり着くと、すぐに彼の腕を引っ張って岸の方へ向かう。

 俺は二人の周りでグルグル回り出したヒルを斬っていく。


――なんだ!? ヒルども、あの石を中心に回ってないか!?


 深く踏み込み、横薙ぎに剣を振る。数匹同時に斬れる。

 やはり気のせいじゃない。

 ヒルモンスターは、オグが高く持ち上げている石を中心に、水面を跳ねながら回っている。

 寄ってきているんじゃない。

 あれに、引き寄せられているみたいだ。

「ユーイ、これ、あっつくなってきた! 熱い! あちちちちちちっ!?」

「粒手袋、さっさと着けやがれ!」

 シアンが怒鳴る。オグが遺跡の中で服に詰め込んだ手袋を、シアンが引っ張り出しながらも、オグは熱そうに手を振っている。

 彼が手袋をはめている間、シアンが石を受け取る。だが、すぐに顔色を変える。

「おい、ユーイ! こいつマジであっちぃぞ!?」

 その瞬間。


ドクン


 石が、脈打つ。

 何かを呼んでいるみたいに。


ドクン


 もう一度。


ドックン!


 次の瞬間、ヒルが一斉に逃げ出す。

 遺跡の方へ逃げていくやつ、岸に上がろうとするやつ、混乱して俺の剣に突っ込んでくるやつ。さっきまでまとわりついていた化け物どもが、まるで何かに怯えたみたいに散っていく。

「……あ、もう、熱くねぇや……」

 シアンの呆然とした呟きが聞こえる。

 三人とも無言のまま岸に上がる。

 シアンが地面にそれをそっと置く。

 オグのシャツからギィが這い出してくる。さっきまで激しく威嚇していたのに、今は石に近寄って、恐る恐る匂いを嗅いでいる。

 赤色は落ち着き、石はまた黒っぽい水色に戻っている。刻まれた模様だけが、やけに目につく。

 なんだろう。

 この石を見ていると、妙に落ち着かない。

 どこかで見たことがあるような、嫌な感じがする。

 何かで――――。

「……あ」

 喉の奥が一気に締まる。思い出してしまったのだ。

「俺、この模様、知ってる」

 オグとシアンが同時に顔を上げる。

「宝庫にあったやつだ」

「宝庫?」

 オグが首を傾げる。

 シアンの口元には、にやりと不穏な笑みが浮かぶ。

「へぇ。じゃあ、そいつは結構な国宝級のお宝ってことかぁ?」

「いや」

 即答すると、シアンの笑みが固まる。

「宝庫の中でも、禍級の封印の棚だ」

 一瞬、沈黙。

 オグが目を瞬かせている。やはり理解ができていないらしい。

「……えっと、つまり?」

 シアンがゆっくりと俺を見る。

「つまり、お宝じゃなくて、な」

 石へ視線を落とし、引きつった顔で言う。

「こいつは呪いの方かよ」

「多分な」

 三人で、地面の石を見下ろす。

 さっきまで目を輝かせていたオグが、無言で横に落ちている棒を拾い上げる。

 そして、そっと。

 その石を俺の足元へ押す。

「なんで俺に寄こすんだよ!」

「だってユーイ、詳しいから」

「詳しくない! 大昔に一度見たことがあるだけだ!」

「でも一番強いの、ユーイだし」

「呪いに腕力は関係ないだろ!」

 思わず怒鳴り返した瞬間。


トクンッ


 石が、また脈打った。

 三人とも固まる。

 石の中の光がすっと消える。

 次の瞬間、ギィがけたたましく叫び、弾かれたように飛び退いた。

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