#12
「俺と由貴君って、よくタイミングずれるよね。色んなことでさ……だから多分、相性としては最悪なんだよ」
「は、はぁ」
「でも俺は君といたい。会社は今日にでも辞めな。自分の身を守るのが先決だよ……もうどこも安全じゃない」
彼はエンジンをかけ、眩しそうに外を覗いた。
「今から忙しいなぁ。由貴君の退職願を提出して、家に寄って大事なものだけ纏めて、二人で引越す準備しなきゃいけないんだから」
「ハイッ」
「夜逃げするよ。もう、この街に留まる理由はひとつもないでしょ?」
司は溢れんばかりの笑顔で首を傾げる。しかしあまりに非現実的な提案と計画で、上手く反応できなかった。二人一緒ということは、夜逃げと言うよりむしろ、
「駆け落ちみたい……って、弟さんはどうするんですか!」
「今の話が本当なら俺が離れた方が安全だ。毎日何人も消えてる街だし、俺一人が失踪したところで何も騒がれないよ。もちろん、弟にはちゃんと事情を話す」
だから心配しないで、と彼は言い切った。いやでも……いやいや、心配する。
「俺のせいで司さんを危険なことに巻き込むことはできません……っ」
それは一番避けたいことだ。今は自分よりずっと大切な人だから。
だけど頭をこちらに向けさせられ、軽くデコピンされた。
「俺より危ないのは君でしょ。でも、君のことは絶対に守る。逃避行してでも、名前や姿を偽ってでも。君だけ飛び降りる結末にはさせないから」
そんな……。
結局、不自由じゃないか。自分のせいで彼が不自由になってる。
いや、でも初めは逆だった。彼が不幸になりたいと言うから、心配で離れられなかった。
今は個人の問題に巻き込んで、お互いに離れられない関係になってしまっている。それも結果的には結ばれたことになる、けど。
これでいいんだろうか。
「大丈夫」
俯き加減の頭を、ぽんぽん叩かれた。泣いてると思われたようだ。
「何か、何の根拠もないんだけどね。俺達は絶対に一緒にいられる気がするんだ」
「一緒……」
「あぁ。だから俺は全然不安じゃない。今回は逃げるが勝ち戦法でいこうよ」
メータが動く。エンジンが吹け上がり、振動が伝わった。
どこか楽しげにも見える彼の横顔を眺め、流れゆく景色に目を向ける。
確かに恐ろしいのは、彼と一緒ならどこまでも行ける気がすることだ。
不自由とは思えない。
青い空、建物の列。吊り橋を越えて街を出る。
瞬間、なにか解き放たれた気がした。
必要最低限の荷物を纏めて、助手席に乗り込む。
深夜の山中は星空観測に絶好だった。
多少冷えるが、温かい珈琲と彼の掌があれば楽々乗り越えられる。
今はあまり見たくないノートパソコンを後部座席から引っ張り出し、車のグローブボックスを開いた。
彼は、車の外で空を見上げている。
俺はその姿を視界の端に入れながら、ボックスから取り出したUSBメモリをパソコンに接続した。




