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#9
舌の滑りとはいえとんでもないことを言ってしまった。嫌な汗が流れる。警戒どころか怯えさせてしまうかもしれない。
自分の軽はずみな告白にドン引きしていたが、彼は小さく微笑み、「俺も」と言って手を握ってきた。
少しでも分かる、強い握力。離した時に掌が痺れていた。
「あの、お名前教えていただけませんか」
反対側に戻ろうとした彼に呼びかける。廊下の突き当たり、青い光が彼の先で煌々と揺れている。星みたいだ。
「俺は藤。元気でね、由貴さん」
キィキィと車輪が回る音が廊下に響く。
彼の姿が見えなくなった後も、由貴はしばらくその場に立っていた。




