#6
「あ……多分、昨日ここに運ばれたので」
狼狽えながら返すと、彼は驚いた顔で両手を握った。
「運ばれた? こんな時間に起きてきちゃって大丈夫ですかっ?」
「あ、多分重病じゃないんで大丈夫ですよ。明日になったら何でもないって言われて、きっと家に帰らされますから」
「多分」を繰り返しながら笑って答えると、彼はしばらく心配そうに眉を下げていた。自分もまだ現状を飲み込めてない為断言できないことが申し訳ないが、彼の優しさが何だか嬉しくて、近くのソファに腰掛けた。
青年も思いついたように自販機へ向かい、お茶を買って戻ってきた。由貴の真隣に移動し、車椅子のブレーキを掛ける。ホットのペットボトルをひとつ差し出して笑った。
「ずっと寝てたんじゃ喉渇いてるでしょう。どうぞ」
「あ……ありがとうございます」
初めて会ったというのに、親切にしてくれる。
良い人だな。頭を下げ、ペットボトルを受け取ってひと口飲んだ。
胃だけじゃなく心も暖まる。まるでここに司がいるようだ。
青年は物腰柔らかで、フレンドリーに笑いかけてきた。話し相手が欲しかったようだ。
彼はもうここに一ヶ月入院していて、脚を悪くした為治療していると言う。かといってリハビリは予定にないようで、もうすぐ退院するらしい。
そして驚いたのは、彼もエンジニアということ。訊けば誰もが知る大手IT会社のシステム開発に携わっていた人物だった。
ただ、今は退職してしまったと言う。
「いや、運命を感じますね。とか言って、この街じゃ下手したら一番多い職種だけど」
「あはは、本当に。でもちょっと複雑なところです」
「複雑って?」
「お恥ずかしい話、謹慎処分を受けまして。……誤解があると思ってるんですけど、立ち向かう気力もなくて、逃げ出しました。その途中でフッと意識を失って、ここにいる状態です」
適当だが、大まかなあらましを伝えた。他人事なんだから適当に気の毒そうな顔をして流していいのに、青年は険しい顔でただ耳を傾けていた。
否定も肯定もしない。それが今はとても救われた。言葉にしながら、自分の心の整理もできたからだ。戸惑ってるけど、絶望しかないけど、少なくともまだ頭は死んでいない。大切な人に会いたいという気持ちも、まだ生きていた。




