#5
死ぬのが怖い。
小学生のとき、死について深く考える時期があった。いわゆる死の洗礼というやつだ。「何故生まれるのか」より「何故死ななきゃならないのか」、そればかり考えて夜も眠れなかった。
大切な人が死んでしまうことが怖い。父、母、妹が、死という漠然な力で葬られてしまうことが恐ろしかった。
自分が死ぬよりも身近な人が死んでしまう方が怖い。ひとりじゃ生きられない。大切な人が自分という人間を象る。支えられて、いや、ほとんど寄り掛かるようにして生きてるんだ。
死んでほしくない。
肉体だけじゃなく、心も。
以前自分が殺そうとした廃人も、きっと大切な人がいた。生まれた時は誰かに泣いて祝福された。
死んだら、誰かが泣いて悲しむ。
冷静に考えればわかること……それがどうも抜け落ちてしまったようだ。この街に来てから……司と出逢ってから、一切の良識がシャットダウンした。
前は嬉しかったら笑った。悲しかったら泣いたんだ。嘘じゃない。ひとりの、どこにでもいる人間だった。
幼稚な発想や甘えた思考、利己的な行動。悪意。それらを自覚したのはこの街に来てから。
本当の“俺”は……。
「あ……」
薄暗い照明がサイドに灯っている。見知らぬ病室のベッドで由貴は目を覚ました。
周りはカーテンで仕切られているが、一番窓際のベッドの為外の景色が窺える。眺めてもどこの病院に居るのか分からないが、とりあえず安堵した。
用意されてるスリッパを履き、部屋の外へ出る。とにかく時間を知りたくて時計を探した。ソファが並ぶロビーまで来て、ようやく大きな掛け時計が目に入った。時刻は二時。深夜で非常灯しか点いてない、静かな空間だった。
昼間に退勤して、家へ帰る前に気分が悪くなった。そして気を失ったことを思い出した。誰かが救急車を呼んでくれたんだろう。この時間までぐっすり眠らせてもらえたことも感謝しないと。
再び病室に戻ろうとすると、キィ、という床が擦れる音が背後で聞こえた。時間が時間なので、どきっとして振り返る。思ったよりずっとシルエットの位置が低い。見れば、車椅子に乗ったひとりの青年がいた。
「こんばんは」
「こっ……こんばんは」
いきなりそんな挨拶をされると思わず、オウム返しのように会釈した。青年は暗がりの中でも朗らかに笑っている。
「初めて見る方ですね」




