#4
事態はもっと大きくなる気がする。役員達の楽しげな会話から、クビになる未来しか見えなかった。
心が削り取られてしまっている。不当解雇されても叫ぶ元気なんてないだろう。いっそさっさと身を引いて、彼らの頭から消え去りたい。逃げたい。
駄目だ。
壊れる。
抉られそうだ。
『聞いて』
激しい頭痛。加えて、どこかから声が聞こえた。
息苦しさに喉元を押さえる。鞄から手を離してしまい、地面に落としてしまった。
苦しい……。
視界にモヤがかかり、みるみる色を失くしていく。周りに人が集まっているように見えたが、確かめる前に崩れ落ちた。
周りが騒がしくなる。たくさんの靴が視界を埋めつくし、肩を揺さぶられた。けど応える力は残ってなくて、瞼を伏せる。
その間も声は聞こえていた。俺がよく知ってる、優しいあの人の声だ。
『聞いて。……由貴君』
沈んでいく。
青い光が波打ち、世界の汚れを洗い流す。
清澄な水の音が唯一の救いだった。心の中の黒々としたものまで攫っていってくれる。最後の高波が引いたとき、一件の民家と男性が立っていた。
間違いなく司だった。ノートパソコンを手に持ち、何か呟いている。
こちらに気付く様子がないため、足音を殺して近付いた。そこでやっと聞こえた。低いがよく通る、力強い声。
『好きな子ができたんだ……』
彼はパソコンの画面に向かって話している。片手でキーボードを打ち、なにか作業していた。何故だか、その画面は見てはいけない気がした。
『純粋で真っ直ぐで、明るく笑う優しい子。っていうと褒めすぎか』
でも、大好きだ。幸せにしたい。けど、ずっと一緒にいられるか自信がない。守ってあげられるか分からない。
もし神様がいるなら、どうか叶えてほしい。自分が彼と同じ道を歩むことを。
司の独白はやがて声ではなく、由貴の脳内に直接響くようになった。
「司さん」
いてもたってもいられず、彼に呼び掛ける。しかし聞こえないようだ。彼に自分は見えてない。現在や未来じゃない。これはきっと過去の姿だと思った。
『……由貴君と一緒にいたいな。どうせ、こんな変な街にいるなら』
彼はパソコンに差していたメモリを抜き取る。その直後に視界は闇に染まり、光も家も、星も彼も消えてしまった。
最後まで残っていたのは、彼が繰り返す声だけ。
『ごめんね……こんな卑怯な真似をして』




