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Free City  作者: 七賀ごふん
Rapid

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64/82

#4



事態はもっと大きくなる気がする。役員達の楽しげな会話から、クビになる未来しか見えなかった。

心が削り取られてしまっている。不当解雇されても叫ぶ元気なんてないだろう。いっそさっさと身を引いて、彼らの頭から消え去りたい。逃げたい。

駄目だ。

壊れる。


抉られそうだ。


『聞いて』


激しい頭痛。加えて、どこかから声が聞こえた。

息苦しさに喉元を押さえる。鞄から手を離してしまい、地面に落としてしまった。

苦しい……。

視界にモヤがかかり、みるみる色を失くしていく。周りに人が集まっているように見えたが、確かめる前に崩れ落ちた。

周りが騒がしくなる。たくさんの靴が視界を埋めつくし、肩を揺さぶられた。けど応える力は残ってなくて、瞼を伏せる。

その間も声は聞こえていた。俺がよく知ってる、優しいあの人の声だ。


『聞いて。……由貴君』


沈んでいく。

青い光が波打ち、世界の汚れを洗い流す。

清澄な水の音が唯一の救いだった。心の中の黒々としたものまで攫っていってくれる。最後の高波が引いたとき、一件の民家と男性が立っていた。

間違いなく司だった。ノートパソコンを手に持ち、何か呟いている。

こちらに気付く様子がないため、足音を殺して近付いた。そこでやっと聞こえた。低いがよく通る、力強い声。


『好きな子ができたんだ……』


彼はパソコンの画面に向かって話している。片手でキーボードを打ち、なにか作業していた。何故だか、その画面は見てはいけない気がした。

『純粋で真っ直ぐで、明るく笑う優しい子。っていうと褒めすぎか』

でも、大好きだ。幸せにしたい。けど、ずっと一緒にいられるか自信がない。守ってあげられるか分からない。

もし神様がいるなら、どうか叶えてほしい。自分が彼と同じ道を歩むことを。

司の独白はやがて声ではなく、由貴の脳内に直接響くようになった。


「司さん」


いてもたってもいられず、彼に呼び掛ける。しかし聞こえないようだ。彼に自分は見えてない。現在や未来じゃない。これはきっと過去の姿だと思った。


『……由貴君と一緒にいたいな。どうせ、こんな変な街にいるなら』


彼はパソコンに差していたメモリを抜き取る。その直後に視界は闇に染まり、光も家も、星も彼も消えてしまった。

最後まで残っていたのは、彼が繰り返す声だけ。


『ごめんね……こんな卑怯な真似をして』




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