#3
隠し事をしてないか司に探られたことがある。本当のことを話せないならせめて嘘はつかないと約束してくれ、と言われた。それについては何も不満はなかったし、極力自分の全てを彼に見せようと胸に誓った。
けど自分より司の方が多くを隠している。穏当な彼は、人には決して見せない一面があって、絶対に踏み込ませない領域がある。それが分かるから少し悲しかった。
恋人の真似事をしているのは分かってる。まだ完全に彼に信用されてないことも重々承知している。
ただ、「愛してる」と言ってもらえたから……もう細かいことはどうでもよくなってしまったんだ。
この街は異常。司も自分も、誰も彼も異常に回って動いている。目には見えない神様がインターネットの中を蠢いて、邪魔な者を淘汰する。そういう空間なんだ。
人生はバッドエンドに向かって走り出している。
「花岡君。君が会社のパソコンを使って政府の極秘情報に不正アクセスをしたことが分かった。処分は今週中に言い渡すから、それまでは自宅待機とする。本当に残念だよ……皆、君には期待していたから」
収容所から戻った三日後、俺は会社の会議室に呼び出され一枚の辞令をつきつけられた。
だだっ広い部屋に、個別で会ったこともない会社の上役達がサイドに座ってこちらを睨んでいた。
何とかその紙を持ち上げたものの、手が震えて上手く文字が読めなかった。一発で意味を理解できたのは出勤停止ぐらいか。
こちらの言い分は受け流され、まともに取り合ってもらえなかった。弁明すら許されない。本来なら大事件。警察が介入しないだけ良かったじゃないか、なんて声が聞こえた。確かに、本当に政府絡みの情報に接触していたならこんな温い空気は有り得ない。……目を付けられた、その本当の理由が違うから、内々だけで済んでいるのだ。
誰もが厄介者を見る目で、謎の言語を並べ立てる。部屋を出る時、数回話したことのある常務が心配そうに何か言ってたけど、内容は覚えてない。放心状態で退社した。
アスファルトを焼く太陽。強い陽射しが全身に刺さる。くらくらして平衡感覚を保つのが精一杯だ。
目眩がする。
誰もが忙しなく行き交う中、自分だけが宛もなく道を歩いた。所在が無い。向かう場所が無い。
鞄に突っ込んだ辞令がぐしゃぐしゃになって、少し外にはみ出している。けどそんなことすらどうでもよかった。
街から弾かれた。……その理由は恐らく二つ。ひとつは、神様の家を検索したこと。そしてもうひとつはこの前の収容所の件。どちらかというとこっちが決定打だろう。
稔に会わせてくれないなら家族に連絡すると話した。その瞬間、担当者の目付きが変わった……から。
謹慎になったことを司に報告しようと思い、慌てて踏み止まる。彼は自分とは違う。まだ仕事中だ。




