#11
「由貴君もその敷地から出ることができるよ。ただ他人の家には入れない。私の姉さんの家に入ろうとしても、入れないわ」
「え、絹の家がこの世界にあるの?」
「ええ。だから私もここにいる。姉さんのパートナーだから」
綿は寒そうに自身の腕を押さえた。彼女はノースリーブであまり着込んでない。上着を脱いで「使う?」と渡すと、彼女は笑いながらもそれを受け取った。
「寒くなんてないんだけどね。ここは頭の中の世界だから」
「頭の中? SFみたいだな……ところで絹はいないの?」
「姉さんは、呼べば来るかもしれないけど、基本は来れないかなぁ。貴方のパートナーも、他のカップルも。多分大体がそうよ」
何故?
気になったが、すぐに聞き返せなかった。間が空き過ぎて、今さら聞けなくなる。
どれくらいの時が経ったか分からない。ただ脈絡のない言葉を投げ合っていた。独りじゃないと分かって不安も薄れたからだろう。段々、ここが本当の居場所のような気がしていた。
しかし神様の家とやらは存在しないようだ。こことは次元が違う、と綿は言う。
「さてと。そろそろ戻ろうか。朝になっちゃう」
戻る。現実か、絹の家か……分からないが、綿は上着を返して背を向けた。
「ねぇ。由貴君てさ」
「うん」
「人を殺したいと思ったことある?」
振り向きざま、彼女の黒い瞳が光った。多分、嘘をついてもバレない。
困らないけど、彼女があまりにも真剣な顔をしていたから。
「あまり怖がらせたくないけど」
上着を羽織って静かに頷いた。
「……あるよ。つい最近」
棒読みになってしまったけど、それを聞いた綿はホッとした顔で笑った。
「良かった……」
無垢な少女の顔。邪気なんて一切感じない、とても明るい笑顔だった。
「私だけじゃない……縛られると、皆変わってしまうのね」




