#7
決して穏やかな気持ちでいられない。
しかし絹の言葉は聴く者を黙らせる、見えない力があった。決して高圧的な嫌なものではない。とても自然に、心の繊細なところに澄み渡る声を持っている。
「君……じゃなくて、……貴方は……何を知ってるんですか?」
「何にも。結局、肝心なことは何も分からなかった。成功したけど、酷い罰だけ与えられた」
「成功っ?」
「私は神様の家に侵入したの」
な……。
言葉を失って彼女をまじまじと見た。
また悪い冗談、と笑い飛ばすことはできなかった。一瞬……本当に一瞬だけ、彼女の横顔が大人の女性に見えたからだ。
幻覚かもしれない。疲れてるか、若しくは逆に興奮してるんだと自身に言い聞かせた。しかし詳しいことを訊く前に高いヒールの音が背後から聞こえた。
「絹、こんなところにいた。もう、何で電話に出ないの!」
「綿。ごめんね」
腰に手を当て、絹に文句を言うミニスカートの女性。髪は薄いベージュ系……どことなく、絹に似ている。
「由貴君、私の妹よ」
「え……えっ!」
絹の言葉に驚愕し、もう一度見返す。すると綿と呼ばれた女性は呆れ顔でため息をついた。
「信じるわけないんだから、その紹介やめなって。頭おかしい人扱いされるだけでしょ? 学習しないなあ」
「そうね。でも、由貴君は神様の家に興味があるみたいだから」
「へぇ……」
彼女はずい、と身を乗り出して由貴の顔を見つめた。
「野次馬根性じゃないの?」
「ち、違います」
揃いに揃って何とも失礼……いや、マイペースな姉妹だ。
これ以上振り回されたら適わない。鞄を抱え直すと、絹はケースの中から名刺を一枚取り出した。
「もし気が向いたら、またお話しましょう。でも私達今月でこの街を出るつもりだから……多分、ここではもう会えないと思う」
一応名刺を受け取る。
「私達は死ぬまで一緒だろうけど……由貴君の大事な人が見つかるように祈ってる。じゃあ、さよなら」
絹は今まで見た中で一番優しく笑った。そして綿の手を取り去って行った。
解放されてホッとした気持ちと、もう少し詳しく話してみたい気持ちが対立していた。彼女……絹は、神様の家の正体を知っているのかもしれない。念押しして警告してきたのは、迂闊に手を出してはいけない存在、パンドラの箱だから。
分かってる。今やこれだけ街を騒がせているんだ。そしてそれは原因不明の奇病などではなく、人為的なものの可能性もある。麻薬なんて一番考えられる線だ。……とすると、やはり敵はパソコンの向こう側にいる。




