#6
「私は絹。良かったら貴方の名前を教えて」
「花岡です」
「下の名前は?」
「由貴」
オレンジジュースをぐっと飲み干す。
「早く飲んで、帰った方が良いと思う。嫌味で言ってるんじゃなくて、遅くなれば遅くなるほど廃人が増えるから」
「それなら何で貴方はあそこに居たの? あそこは廃人達の巣窟よ。……無防備でお散歩しに行く場所じゃない」
彼女がたまに揺らすウィスキーの氷が、小気味良い音を立てる。
「捜してる人がいるんだよ」
「あら、廃人で? じゃあ同業者さんかしら」
「よく知ってるんだね」
「えぇ。私もそうだもの」
それは悪い冗談だ。思わず大袈裟に吹き出してしまった。
「君、どう見ても学生でしょ? じゃあ何、フリーランス? 相当な技術者かな」
「どうせ言っても信じて貰えないだろうから……。こんな姿になっちゃったことなんて」
彼女の話についていけない自分がいた。しかし、何故だか惹き付けられる。彼女自身に明確な興味を抱き始めていた。
ただの大人ぶった子どもや、頭のおかしいホラ吹きじゃない。
自分では到底推し測れない何かを感じ、彼女を見つめる。
「信じる。どんな話しても信じるから教えてほしい」
声を潜め、絹の背もたれに手を置く。
彼女は少し考えていたが、やがて小さく微笑んだ。
「フリーよ。全部独学で勉強して来たの。私は今二十八歳……でも身体は十四歳くらいかな。月毎に若返ってしまっている。どう? 驚いたでしょ」
「驚いた」
「当然よ」
彼女は髪を後ろに払う。
「神様の家のこと知ってるでしょ? あれについてどう思ってる?」
彼女の瞳に妖しい色が灯る。由貴は空になったグラスを前に押し出した。
「吐き気がする。本当でも冗談でもね」
席を立って、彼女の分も支払った。彼女は「ありがとう」と微笑み、小さな手をひらひらと泳がせる。
「お友達が廃人になっちゃったのね?」
二人で店を出て、駅の方へ向かう。
「友達……とは少し違う。ただ、気になる人がいなくなった。神様の家が絡んでるのは確かで、何とか捜して見つけてやりたいんだ」
「そう。……お気の毒に」
絹は細い髪を指に巻き付けた。
「でもやめた方が良いわ。解析に失敗したら貴方が廃人になるもの。それにその人のことも忘れるべき。大事な人の壊れた姿を見るのは、辛いでしょ」
少女は真っ白なワンピースを揺らす。会った時からずっと感じていた違和感の正体が分かった。
中身こそ違うのかもしれないが、そういえば久しぶりにこの街で見た……子どもだ。




