#5
少女は由貴の袖を引いてさっさか歩き出してしまった。
「散歩に来たの? ここ結構危ない所だけど、知ってる?」
「し……知ってるけど、君は? 女の子がひとりで、どう考えても君の方が危険だよ」
「“女の子”? ああ……そっか。そうよね」
彼女は可笑しそうに、口元に手を当てて笑う。やはり、見れば見るほど幼い少女だ。失礼だがまだ成長途中の胸、華奢な首元……中学生ぐらいに見える。
しかし彼女はくすくす笑って明るい大通りまで進み続けた。由貴は何度も手を振り払おうか迷っていたが、手荒な真似もしたくないので黙ってついていくことにした。少女相手なら何があっても一人で対処できる。そう思ってのことだった。
しかし彼女が脚を止めた先で愕然とする。
「何飲む?」
連れられたのはモダンな造りのバー。堂々と入っていき、酒を注文していた。
「大丈夫よ。私大人だから」
店のマスターも驚く様子がなく、酒を作り出している。何だか異様な光景だった。
大体、何で今会ったばかりの少女と飲まなきゃならないのか。それも分からない……が、とりあえず席についた。しかし油断ならないのでアルコールは控える。
「お酒飲めないの? 珈琲にする?」
「いや……珈琲はあんまり。飲めないから」
小声で言うと、彼女は丸い目を大きく見開いて笑った。
「お酒が駄目で珈琲も飲めないの? あはは……赤ちゃんみたい」
細いが、店中によく通る声。まるで酒を何杯も煽った時のように顔が真っ赤になった。なにか言い返したい。いや、それは大人気ない……ここは黙って帰るか。いや、それも大人気ない……?
ショート寸前の頭でぐるぐる考えていたのが分かったのか、少女は目元を拭ってこちらに手を差し出した。
「ごめんなさい、他に言い方があったわ。今回だけ見逃して下さらない? 次失礼なことを言ったら、帰って構わないから」
急にかしこまった態度で謝られると反応に困る。
それと、少女なのに、手の仕草や目線、声音が大人の女性のようで違和感を感じた。単純にマセたタイプかもしれないが、扱いづらいことに変わりはない。
それでも女性を無下に扱ったら駄目、という司の教えがこんな時にぷかぷか浮上する。手は取らないものの、ため息をついて少女の横に腰を下ろした。彼女は初めからウィスキーを飲んでいた。
「どうぞ。ここのオレンジジュース、美味しいわよ」
妙な時間を過ごしている。知らない少女と知らないバー。震えるほど非現実的だ。




