#3
仕事は順調。司とも、ぎこちない(自分だけかもしれない)ものの、顔を合わせて上手く付き合っていた。
都市は依然として混沌に包まれていた。静かだが、冷んやりとして粟立つ空気感。夜は外を歩く人間がぐんと減る。外部の人間から見れば明かりのないゴーストタウンに移り変わる。
さらに使えるサーバが制限されたことで、街から不満の声が上がっていた。行方不明者の数、廃人の数も上がりはしても下がりはしない。
正真正銘の危険な街。生きづらい、不自由な街と化していた。
「あぁ、東川さん? 先々月だっけ……突然会社に来なくなっちゃってさ。家にも誰もいないから会社が捜索届けを出したらしいけど、まだ見つかってないんだよ」
蒸し暑い夜、由貴は稔が勤めている会社に訪れた。怪しまれて追い返されると思いきや、昔の同僚だと話すと快く中に通してもらえた。自分以外にも彼を心配して来た訪問者が多かったようだ。
しかし聞かされた真実は胸の奥に重い錨となって沈んだ。稔が音沙汰無しだったのは、何らかのの事件に巻き込まれていたから……もしそうだとしたらやり切れない。
由貴と対面する青年は仕事の資料を纏めながら、小声で囁いた。
「ここだけの話、廃人になっちゃったんじゃないか……って噂してる。ていうのも、彼いなくなる前に“神様の家”のことを調べてたから」
また、あの与太話。しかし青年は大真面目に椅子を引いてこちらへ身体を向けた。
「好きな人と上手くいくように、って。多分辿り着いちゃったんじゃないかな。そんで失敗して、逆鱗に触れちゃったか」
「あの、それは本当に……?」
「いやぁ、俺もふざけた話だと思うけどね。東川さんのことは本当に気の毒だと思ってるけど、居なくなったのは彼だけじゃない。行方不明の方がまだすんなり受け入れられるっていうか……廃人になって、街で行き倒れてる姿とか見たくないからさ」
彼はノートパソコンを閉じた。こちらもこれ以上は何も言えず、お礼を言ってお辞儀した。
「君もエンジニアなんだっけ。気を付けてね。あんまり変なことには首を突っ込まないように」
「神様の家を調べること……ですか?」
「それもあるけど。歯車ってもんがあるじゃない。どこの世界にも」
そう言うと彼は「また」と言って去って行った。鞄を取り、会社を後にする。自分の無力感、危機感の無さに脱帽した。
稔のことで勝手にあたふたしておいて、当の本人のことはそっちのけだった。何でもっと早く気付いてやれなかったんだろう。
いや、気付いていたら何とかしてやれたのか?
正直そうは思えない……稔は司に心酔していたから。




