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◆第21話「敗戦報告」

 絶望的な敗北をした蓮は、しばらくのあいだ茫然自失だったが、ふらふらと取引所から外へ出た。自分は稀代の愚か者として、経済史の教科書に載るかもしれない。軍に行き、ガレス大佐に事の次第を報告する。ガレス大佐はひとこと、「心配するな、悪いようにはせん」と応えた。それからあとの会話と事務処理について、蓮はよくおぼえていない。ただ機械的にサインをしていくだけだった。それから彼はボルドーとファビアンが待っている秘密の集会所に向かった。


(……合わせる顔がない)蓮の足が止まる。この道の先には、三人が誓いを立てたあの部屋がある。二人は待っているはずだ。勝利の報告を、あるいは最低でも、資金の一部を持って帰ってくることを。

(俺は、あいつらを道連れにした。バブルを止めるどころか、俺の命懸けの買い戻しは買い手にとって最高の燃料になっちまった)


 死にたいと思った。いっそこのまま王都を出て、どこかへ消えてしまえば楽になれる。だが、雨が降り出した冷たい石畳の上で、蓮は歯を食いしばった。逃げるわけにはいかない。責任を取らなければならない。せめて、罵倒され、殴られ、一生をかけて償うことを誓わなければ。


 重い扉を開ける。そこには、昨日と同じように、ボルドーとファビアンが座っていた。酒瓶が転がっている。蓮が入ってくると、二人の視線が彼に突き刺さった。


 蓮は、泥だらけの床に額をこすりつけた。「……すまない。……すまない……!」言葉にならなかった。喉の奥から嗚咽が漏れる。「全部、負けた。金も、ほとんど残らなかった。……俺が、俺が未熟だったせいで……!」


 長い沈黙。雨の音だけが響く。やがて、重い足音が近づいてきた。ボルドーだ。殴られる――蓮は身を固くした。


 だが、降ってきたのは拳ではなかった。分厚い手が、蓮の頭に置かれ、くしゃくしゃと髪を撫でた。


「……顔を上げろ、馬鹿野郎」ボルドーの声は、驚くほど優しかった。蓮がおずおずと顔を上げると、鉄の王は、憑き物が落ちたような顔で笑っていた。「負けたか。完敗か。派手にやられたもんだな」「……怒らないのか? あんたの工場を……」「怒って金が戻るなら、朝まで怒鳴り続けてやるさ。だが、そうじゃねえだろ」


 ファビアンが近づいてきて、蓮に温かいコーヒーを差し出した。「取引所からの中継で聞いていましたよ、市場の様子を。『謎の大口投資家が売り向かい、そして壮絶に散った』とね。……あなたは最後まで、一歩も引かずに戦った。そうでしょう?」「……ああ。でも、結果が出なきゃ意味がない!」


「意味ならあるさ」ボルドーが蓮の隣に座り込んだ。「俺たちは夢を見れた。『もしかしたら、この狂った世界を正せるかもしれない』っていう、一世一代の大博打にな。……負けたのは悔しいが、不思議と清々しい気分だ」


「それに」ファビアンが窓の外、白み始めた空を見た。「私たちが失ったのは『資産』だけです。技術も、職人も、そしてこの命も残っている。……工場が軍に渡ろうと、またゼロから服を縫えばいい。私たちは職人ですから」


 蓮の目から、涙が溢れ出した。「……ありがとう。……本当に、すまない……」


「泣くな。お前はまだ、やることがあるだろう」ボルドーが蓮の背中を叩いた。「バブルは弾けなかった。だが、これだけ高く上がったんだ。落ちる時は、地獄を見るぞ」「……ああ。今回の上昇で、エネルギーは限界まで溜まった。次はもう、調整局面じゃない。……完全崩壊クラッシュだ」


 蓮は涙を拭い、立ち上がった。失ったものは大きい。だが、この二人の信頼という、何にも代えがたい財産が残った。


「ボルドーさん、ファビアンさん。俺は諦めない。……金はなくなったけど、必ず、この国を立て直す方法を見つける。あんたたちの工場も、絶対に守ってみせる」「おう、期待してるぜ。若き『元』億万長者殿」「ふふ。では、まずは今日のパン代を稼ぐところから始めましょうか」

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