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◆第20話「カネのもとでの平等という社会」

 熱狂の余韻が残るVIPルーム。最高級の赤ワインが注がれたグラスを傾けながら、メルキアの銀行家ゴードンは、眼下のフロアを見下ろしていた。そこには、昨日の敵も味方もない。公爵も、商人も、農民上がりの成金も、誰もが「買いだ!」「勝った!」と抱き合い、身分の壁を超えて踊り狂っている。


「……美しい光景だと思わんかね、メルカトル」

 ゴードンが、陶酔したように呟いた。

「以前なら、平民が公爵の肩に手を回せば、その場で切り捨てられていた。だが今、彼らは手を取り合っている。……何が彼らを平等にしたと思う?」


 メルカトルは、敬意を込めてグラスを掲げた。

「『欲望』、そして『マネー』です」


「その通りだ」

 ゴードンは満足げに頷いた。

「この国は長く腐っていた。無能な者が『高貴な血筋』というだけで領地を持ち、有能な者が『卑しい生まれ』というだけで泥水をすする。……そんな理不尽な封建社会を、我々が壊したのだよ。剣ではなく、カネによってな」


 ゴードンは、一枚のジャガイモ証券を指先で弾いた。

「金貨は差別をしない。王族の懐にあろうと、乞食のポケットにあろうと、金貨の価値は同じだ。……これこそが真の平等、真の自由ではないか?」


 メルカトルが、薄い笑みを浮かべて同意する。

「ええ。あの『ベア』……藤村蓮は、そこが分かっていなかった。彼は『実体』や『労働』を守ろうとしましたが、それは言い換えれば、古い身分制度や、地を這うような貧しい秩序を固定化することに他なりません」


「そうだ。彼は真面目すぎた。保守的だと言ってもいい。経済とは、もっとダイナミックで、破壊的な『夢』でなくてはならん」

 ゴードンは、窓の外に広がる王都の夜景――バブルの光で不夜城と化した街を見渡した。


「見ろ。今、この瞬間、才覚と運さえあれば、誰でも王になれるチャンスがある。我々がもたらしたのは『混乱』ではない。『機会チャンス』だ。……我々は、この国に資本主義という名の『新しい神』を連れてきた宣教師なのだよ」


「……たとえ、その神が多くの生贄を求めたとしても、ですか?」

「文明の進歩には犠牲が付き物だ。古い殻を破るには、強烈な痛みが必要だからな。バブルは、社会改革のエネルギー源だ」


 ゴードンはグラスを飲み干し、空になった器をテーブルに置いた。

「さあ、祝おうじゃないか。血統の時代の終わりと、黄金の時代の始まりを。……そして、その新時代の頂点に立つのは、王冠を被った王ではなく、計算機を持った我々だ」


 二人は笑い合い、新たなボトルを開けた。彼らの語る「理想」は、ある一面では真実だった。確かに金は平等を加速させる。お金は差別を乗り越える道具になりうる。だが、彼らはあえて無視していた。その「平等な競争」に参加するための切符すら持てない弱者たちが、彼らの足元で無数に踏み潰されているという事実を。


 それは、「お金を稼ぐこと」それ自体が目的となり、お金の本来の目的、すなわち生活の豊かさや人間としての幸福の追求などがおろそかにされてしまうという本末転倒な矛盾を含む、金融資本主義の凱歌でもあった。


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