20 開式
そこはまさに大型テーマパーク。
大きすぎる門をくぐると、広大すぎる庭園が。
初めて見る夢の様な光景に、興奮が収まらない古古伊と落ち着きが無い美華条。
美華条家の執事として、潜入、護衛を務める二人の殺し屋は今や仕事モード。背筋を正し、主人である美華条の三歩後ろを歩く姿は、さながら本職のエリート執事そのもの。
「ちょっと貴方、一応新米執事として同行してるんですから、屋敷内に入ったらちゃんとしてくださいよ」
「分かってますって。って!アレ!本物の噴水とか初めて見ましたよ!!」
呆れ顔の美華条と、凛とした表情を崩さない執事達。
歩く事十分。一行は入り口の前へ。
「ここからはマジでちゃんとして下さいね!」
「分かりましたって」
「上乃上ホントにそーいうの細かく言ってきますの!だからホントに―」
「大丈夫ですって。任せて下さいよ!」
ギイイィィィ―――
二人の執事が門を開けると、そこはまさに百合の花園。
美しく可憐な令嬢たちが、会話に花を咲かせている。
「コラっ!目を奪われないっ!」
そんな美華条の小言で目を覚ます古古伊。
絢爛豪華なシャンデリア、銀に輝くカトラリー、鼻腔を擽る甘い香りは蜜を浴びた一口のドーナツ。
四人は花園の間を抜けると二階へ。階段を上った突き当りの奥から二つ目の部屋、美華条に用意された一室へ入る。
部屋の奥のカーテンを開けると、先ほど一行が通り抜けた大広間が見下ろせる、マジックミラー仕様の窓があった。
「ふぃ~~~~やーーっと着きましたわ~~~」
どすんとベッドへ身を投げる美華条。
「もーー。わーくし、こーゆう空間苦手なんですの。分かりません?息が詰まるというか」
「うるせえぞ。ガタガタ文句垂れんじゃねえ。....ガキ、これ頭に入れとけよ」
異神は古古伊に一つの小冊子を投げつけた。
「なんです?コレ」
「....チッ、ここに居る人間全員の情報だ。最低でも名前年齢趣味出身は覚えろ」
「...え?全部?覚える?......ええ?」
異神は返事代わりに、古古伊を睨みつけると部屋を退出した。
絶望と言わんばかりの古古伊の手から冊子を取ると、代わりに一枚の小さなメモ用紙を渡したもう一人の執事。
「いーよ。そんなの覚えなくて。けど、この子達の名前だけは頭に突っ込んでて」
ニコッと満面の笑み浮かべる執事に、一瞬心を持っていかれそうになるも、一つの問いを投げかける。
「あっ....えと、なんて呼べば....?」
「あー、そいえば名乗ってなかったね。”たーとん”でいーよ」
褐色ギャル系殺し屋から、何とか視線をメモ紙へ移す。
「そこに書いてる子達はね、この会の幹部たちなんよ」
「幹部...へー、そうなんですね、へー、ふーん」
「......あ、ムズイ字多いよね。じゃあ、上から順に教えてくね」
・ 煌和丞 撫子
「これは、ひわなじょう なだこ。まー、ゼッタイ読めんよね」
「なでしこ...じゃないんですか?」
「そ。違うの。和装の美人さんだし、会ったら一発で分かるっしょ」
・ 鏡湖嬢 霧彩
「で、コッチが みなこじょう きりあ。無理よね。コレも」
「はえー、みなこじょう...凄い名前ですね...」
「わかるぅー。アレ、あそこでお菓子をつまんでる露出度が極端に高い子ね」
「わっ、ちょ、えっ、あれ大丈夫なんですか?」
「あはは!童貞丸出しじゃん!だいじょーぶ。あー見えて大事な所は隠れて......あっ、全部出てるわ」
「ほら。痴女嬢の事は放っておいて、シルクさんの説明に移りなさいな」
爆笑するギャル執事を静かにさせ、脱線した話を戻す美華条。
・ 明星 シルク
「あっははは!はーー、で、そう。 みょうじょう しるく。ね」
「この人は流石に読めました」
「お、やるねー。あの、ちびっ子使用人に囲まれてる、ゆるふわガールがそう」
「あれはただのペドフィリア。ろくでなしのお嬢様ですわよ」
・上乃上 迦梨奈
「で、コイツね」
解説する声がワントーン低くなり、表情が真剣になった。
「この子は、 かみのじょう かりな。僅か九歳で総統括官に任命されたお嬢様。世界一の美人で、人類史史上最高の美形とも称されてるの」
「それは確かに分かります」
「うん。あーしも思う。それと、彼女は能力者。花思が開花してるの」
「セラフ?なんですかそれ?」
ここに来て、あまりにも基礎的過ぎる問いに、本日二度目の呆れ顔を見せる美華条。
「ん、おっけ。じゃあ簡単にだけど教えるね」
ま、ちょーかんたんにだけど話すね。
まず、あーしら人間の体内には彗ってゆう種を包んだ臓器があるのね。これはどんな人間にも例外なくあるの。その中の種が開花すると、超能力が使える様になるって訳。
でも、開花出来るのは数千万に一人居るか居ないかってレベルだし、すんごい確率なの。
ち な み に 彗から出てる根は体外に出せたりするの。......こーやってね。コレを根伸って呼んだりしてるよ。これの太さとか長さは人それぞれだから馬鹿にしないよーにね。
「どう?こんな感じでおっけ?」
「なんとなくは...」
「ん、そんぐらいでいいよん。詳しくは咲ちゃんに聞いてねん」
あーだこーだと話していると、ノックも無しに扉が開いた。
異神は戻るや否や、窓際へ。
「始まるぞ。出なくていいのか?」
「あーん?わーくしは開会式には出なくても良いんですの」
「......ふん。阿呆丸出しだな」
ぶっきらぼうな返答を鼻で笑うとこう続ける。
「そんな奴でも幹部になれると言うから程度が知れるな。違うか、美華条」
「うっせ」
こうして”華のお嬢様会”は幕を開けた。




