21 色とりどり
「つまらんな」
そう呟きながらも、演説をする上乃上から視線を外さない異神。
「は?ちょっと貴方エリア守りなさいよ」
「いや、ヒールしないと死にますよ?」
「やべべ~敵きちった~~けど、あーしの方が強いんだな~」
そんな彼をよそに、スマホゲーで盛り上がる三人。
自由気ままに過ごす四人とは打って変わって、一階パーティー会場では重苦しい空気が流れていた。
時間通りに始まった会式の儀。透き通るような声に乗せられ、美しい日本語が耳に届けられる。
明日には忘れていそうな内容の演説はおよそ三分、迦梨奈のやわらかな笑顔が、冷たいものに変わる。
「――それと、深那沙様。恐縮ですが前へおいで下さいまし」
上乃上に呼び出されたのは、深谷 深那沙。今年初参加の地方出身の田舎嬢。
当然、彼女は知る由も無い。なぜ自分が呼び出されたのかを。
コツコツとヒールを鳴らし、上乃上の元へ。
衆人観衆が見つめる中、二人は言葉を交わす。
「えっと...?何か...?」
困惑の表情を浮かべる深那沙の額に、そっと静かに手をかざす。
「あ、あの?上乃上さん?これ...は......う゛あ゛......あ゛?...」
間の抜けた声を上げ、深那沙はその場に崩れ落ちた。
大小便を垂れ流す体は、時折ピクピクと痙攣を起こしていた。
会場が静まり返る中、先ほどまでの美しく、明るい声で話を始める。
「皆様。お目汚しを申し訳なく存じます。しかし、こちらのお方は”本来とは異なる道筋”でおいでになった方。そのような方には退会して頂きたく存じます」
公衆の面前で行われた、白昼堂々の殺人。しかしお嬢様方は至って冷静。そんな光景に異神は内心違和感を抱いた。
「たー。見たか?」
「へぇ?ちょいまち。今...あー!死んじゃった!」
ぶつくさと文句を言いながらも、異神の横へ立つ。
「ん~?しゅくせーされちった?」
「みたいだな」
窓際でコソコソと話す二人の元へ、興味本位で駆け寄る古古伊。
「えっ、倒れてるじゃないですか!早く助けないと!」
「すっこんでろクソガキ」
「いや、でも!」
「でも じゃねえ。アレはもう死んでる。何をしても無駄だ」
「し、死んでるって......け警察!警察に連絡しないと...!」
そうして、ポケットから取り出した携帯を、異神が蹴り飛ばした。
「イッ...!な、にするんですか!」
「いいか?先ずは黙れ。次に、場慣れしている大人の言う事を聞け」
古古伊の胸ぐらを掴み、物理的にも黙らせた。
一方、上乃上は会式の儀を終え自室へと戻った。
疲労困憊といった様子で椅子に腰かけると、大きなため息を一つ。するとそこへ一人のメイドが。
「煌和丞様がいらっしゃっています。お会いになりますか?」
「......えぇ。それと、少し二人にして下さる?」
承知いたしました。そう言い残して、使用人たちは部屋を後にした。
入れ替わるように入室したのは、美しい和服に身を包んだ、煌和丞撫子。
「ね、ねぇ?かりなっち?確かにあの子は悪い子だわ。でも、何も殺さなくたっていいのではなくって?」
「.........」
上乃上の前に、そっと紅茶を差し出した。
「かりなっち...大丈夫...?」
「.........」
「返事をして!かりなっち!」
「......大丈夫。わたくしは大丈夫だから。ひーちゃん」
美華条自室。異神、たーとん、美華条の三人は殺人現場の様子見と、情報収集に赴いていた。
一人取り残された古古伊は、ゲームをする気分でも無く、かといって出来る事も無く、部屋の中を行ったり来たり。
コンッ コンッ コンッ コンッ
突如鳴り響いたノックに一瞬心臓が止まりそうになる。
「美...美華条さん...?」
恐る恐る扉を開けると、そこには”肌色の塊”のような女性が。
「ゴキゲンヨー」
「ごごごきげんよ...」
「入るゼー」
女は古古伊の許諾も取らずにずかずかと侵入。
―ん?待てよ。言葉遣いとか、服装、態度もそう。座るとき足開きすぎだし、目つきも異神さんに負けず劣らずの悪さ。この人参加者では無いのか......?
もしこれが野生の痴女なら、大人の人を呼ばないと......
「アンタ、ここで起きてる”事情”について美香から聞いてるかい?」
「事情?いや、多分聞いて無いですね」
「アレだ。不正な手段で入って来た奴らの事さ」
「あぁ、さっきの方ですか」
「そーゆー奴を見かけたらオレか迦梨奈に報告してくれ」
女の話が終わる前に、古古伊が割り込んだ。
「殺すんですか?」
「......嫌かい?」
「嫌とかじゃなくて!ダメでしょ!」
「へぇ...アンタ、名前は?」
「古古伊頼」
「おかしいね。アンタの名前名簿に無いよ」
女は静かに立ち上がると、部屋の扉を開いた。
「オレは鏡湖嬢霧彩。話を聞かせてもらうよ」
「あー、なんかもう運ばれちゃったみたいですわよ」
「チッ、手間を駆けさせやがる」
検死に来た美華条と御一行。
しかし、死体はもう会場から撤去されていた。
「ま、あたりまえだよねー」
「面倒だが探しに行くか...たー、お前はコイツに付いてろ」
そう言い残すと異神は一人立ち去った。
残された二人は、どこからともなく聞こえる奇妙な鼻歌に、目を見合わせた。
ふんふんふ~~ん♪
その鼻歌は徐々に大きくなり、やがて二人の真後ろまで接近していた。
振り返ると、小柄な緑髪の女性と目が合った。
「......ばぁ!!..フヒヒ、ビックリしたぁ!?」
ワンテンポ遅れての、おどかし。
なんなら目も合っている。そんなものに驚く人間はそう居ない。
「ご挨拶が遅れ、大変申し訳存じます。わたく―」
たーとんが冷静に、かつ丁寧なご挨拶をと口を開くが、
「あわわわ!ご丁寧にありがとう存じます!わたくし明星シルクと申します!」
「ちょっと、シルクさん。自己紹介は最後まで聞いてあげて下さいまし」
「わわ~!ごめんなさ~い!」
ぺこぺこと頭を下げて謝ると、赤子の様な可愛い笑顔で一言。
「わたくしね、貴方に御用があるのよ!」
その目はたーとんの方を向いていた。
「わたくしでございますか?」
「そうなの!ねぇ、貴方!ホントは執事じゃないんでしょう?」




