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イチリン  作者: 火炙
22/22

21 色とりどり

 「つまらんな」


 そう呟きながらも、演説をする上乃上(かみのじょう)から視線を外さない異神(いがみ)。


 「は?ちょっと貴方エリア守りなさいよ」

 「いや、ヒールしないと死にますよ?」

 「やべべ~敵きちった~~けど、あーしの方が強いんだな~」


 そんな彼をよそに、スマホゲーで盛り上がる三人。

自由気ままに過ごす四人とは打って変わって、一階パーティー会場では重苦しい空気が流れていた。


 時間通りに始まった会式の儀。透き通るような声に乗せられ、美しい日本語が耳に届けられる。

明日には忘れていそうな内容の演説はおよそ三分、迦梨奈(かりな)のやわらかな笑顔が、冷たいものに変わる。


 「――それと、深那沙様。恐縮ですが前へおいで下さいまし」


 上乃上に呼び出されたのは、深谷(ふかや) 深那沙(みなさ)。今年初参加の地方出身の田舎嬢。

当然、彼女は知る由も無い。なぜ自分が呼び出されたのかを。


 コツコツとヒールを鳴らし、上乃上の元へ。

衆人観衆が見つめる中、二人は言葉を交わす。


 「えっと...?何か...?」


 困惑の表情を浮かべる深那沙の額に、そっと静かに手をかざす。


 「あ、あの?上乃上さん?これ...は......う゛あ゛......あ゛?...」


 間の抜けた声を上げ、深那沙はその場に崩れ落ちた。

大小便を垂れ流す体は、時折ピクピクと痙攣を起こしていた。


 会場が静まり返る中、先ほどまでの美しく、明るい声で話を始める。


 「皆様。お目汚しを申し訳なく存じます。しかし、こちらのお方は”本来とは異なる道筋”でおいでになった方。そのような方には退会して頂きたく存じます」


 公衆の面前で行われた、白昼堂々の殺人。しかしお嬢様方は至って冷静。そんな光景に異神は内心違和感を抱いた。


 「たー。見たか?」

 「へぇ?ちょいまち。今...あー!死んじゃった!」


 ぶつくさと文句を言いながらも、異神の横へ立つ。


 「ん~?しゅくせーされちった?」

 「みたいだな」


 窓際でコソコソと話す二人の元へ、興味本位で駆け寄る古古伊(ここい)。


 「えっ、倒れてるじゃないですか!早く助けないと!」

 「すっこんでろクソガキ」


 「いや、でも!」

 「でも じゃねえ。アレはもう死んでる。何をしても無駄だ」


 「し、死んでるって......け警察!警察に連絡しないと...!」


 そうして、ポケットから取り出した携帯を、異神が蹴り飛ばした。


 「イッ...!な、にするんですか!」

 「いいか?先ずは黙れ。次に、場慣れしている大人の言う事を聞け」


 古古伊の胸ぐらを掴み、物理的にも黙らせた。






 一方、上乃上は会式の儀を終え自室へと戻った。

疲労困憊といった様子で椅子に腰かけると、大きなため息を一つ。するとそこへ一人のメイドが。


 「煌和丞様がいらっしゃっています。お会いになりますか?」

 「......えぇ。それと、少し二人にして下さる?」


 承知いたしました。そう言い残して、使用人たちは部屋を後にした。

入れ替わるように入室したのは、美しい和服に身を包んだ、煌和丞(ひわなじょう)撫子(なだこ)。


 「ね、ねぇ?かりなっち?確かにあの子は悪い子だわ。でも、何も殺さなくたっていいのではなくって?」

 「.........」


 上乃上の前に、そっと紅茶を差し出した。


 「かりなっち...大丈夫...?」

 「.........」


 「返事をして!かりなっち!」

 「......大丈夫。わたくしは大丈夫だから。ひーちゃん」






 美華条自室。異神、たーとん、美華条の三人は殺人現場の様子見と、情報収集に赴いていた。

一人取り残された古古伊は、ゲームをする気分でも無く、かといって出来る事も無く、部屋の中を行ったり来たり。


 コンッ コンッ コンッ コンッ


 突如鳴り響いたノックに一瞬心臓が止まりそうになる。


 「美...美華条さん...?」


 恐る恐る扉を開けると、そこには”肌色の塊”のような女性が。


 「ゴキゲンヨー」

 「ごごごきげんよ...」


 「入るゼー」


  女は古古伊の許諾も取らずにずかずかと侵入。


 ―ん?待てよ。言葉遣いとか、服装、態度もそう。座るとき足開きすぎだし、目つきも異神さんに負けず劣らずの悪さ。この人参加者では無いのか......?

もしこれが野生の痴女なら、大人の人を呼ばないと......


 「アンタ、ここで起きてる”事情”について美香から聞いてるかい?」

 「事情?いや、多分聞いて無いですね」


 「アレだ。不正な手段で入って来た奴らの事さ」

 「あぁ、さっきの方ですか」


 「そーゆー奴を見かけたらオレか迦梨奈に報告してくれ」


 女の話が終わる前に、古古伊が割り込んだ。


 「殺すんですか?」

 「......嫌かい?」


 「嫌とかじゃなくて!ダメでしょ!」

 「へぇ...アンタ、名前は?」


 「古古伊頼」

 「おかしいね。アンタの名前名簿に無いよ」


 女は静かに立ち上がると、部屋の扉を開いた。


 「オレは鏡湖嬢(みなこじょう)霧彩(きりあ)。話を聞かせてもらうよ」






 「あー、なんかもう運ばれちゃったみたいですわよ」

 「チッ、手間を駆けさせやがる」


 検死に来た美華条と御一行。

しかし、死体はもう会場から撤去されていた。


 「ま、あたりまえだよねー」

 「面倒だが探しに行くか...たー、お前はコイツに付いてろ」


 そう言い残すと異神は一人立ち去った。

残された二人は、どこからともなく聞こえる奇妙な鼻歌に、目を見合わせた。


 ふんふんふ~~ん♪


 その鼻歌は徐々に大きくなり、やがて二人の真後ろまで接近していた。

振り返ると、小柄な緑髪の女性と目が合った。


 「......ばぁ!!..フヒヒ、ビックリしたぁ!?」


 ワンテンポ遅れての、おどかし。

なんなら目も合っている。そんなものに驚く人間はそう居ない。


 「ご挨拶が遅れ、大変申し訳存じます。わたく―」


 たーとんが冷静に、かつ丁寧なご挨拶をと口を開くが、


 「あわわわ!ご丁寧にありがとう存じます!わたくし明星(みょうじょう)シルクと申します!」

 「ちょっと、シルクさん。自己紹介は最後まで聞いてあげて下さいまし」


 「わわ~!ごめんなさ~い!」


 ぺこぺこと頭を下げて謝ると、赤子の様な可愛い笑顔で一言。


 「わたくしね、貴方に御用があるのよ!」


 その目はたーとんの方を向いていた。


 「わたくしでございますか?」

 「そうなの!ねぇ、貴方!ホントは執事じゃないんでしょう?」

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