19 華のお嬢様会
「ごっ、ごごごごきげんよよよう!?!?上乃上様!」
ガタガタと震えながらも、挨拶を返す。
一階に立つ上乃上の方が大きく見える程の威圧感に、額と腋窩を濡らしつつも平静を装う。
「....あら、そちらの御方は?」
美しくも鋭い瞳に、古古伊は大慌てで答えを用意した。
「あっ、僕は―」
「こっ、こいつは!こちらは、新入りの使用人なんですの!」
自己紹介をと口を開いたが、美華条が割り込んだ。
怪しくも美しい笑みを浮かべた上乃上。後ろに控えるメイドに目線を送った。
メイドは、懐から取り出した一通の招待状を主人に手渡すと、元の位置へ。
一連の動きを見ていた美華条は、大慌てで一階へ。
「美華条様。懇親会の招待状をお持ち致しました」
「あ、ありがとうございますわ。今年も是非、ぜひ参加させていただきます」
「まぁ、嬉しいお言葉をありがとうございます。では、会場で」
美華条、古古伊へ一礼すると、上乃上は美華条邸を後に。
緊張の糸が切れた美華条は、ドサッとその場にへたり込んだ。
「は゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛~~~!!疲れた~~!!」
「さっきの人....あの人は誰なんです?」
「あー、ざっくり言うと、日本で一番お金を持っている人、ですわね」
「日本一の金持ち....!そんな人がどうしてこんな所に?」
(こんな所....?)
「懇親会と言うのは、日本各地のお嬢様が集まって、親睦を深めるイベントの事なんですの。まぁ、わたくしもお嬢様ですし?誘いが来るのは当然ですの」
そして、サラッと衝撃の一言を。
「あっ、後、貴方にも付いて来てもらいますからね」
「....えぇ?」
美華条は、そそくさと着替えながら、それが決定事項であるかのように話を進める。
「だって、さっき使用人だと言ってしまいましたし」
「そ、そんな....」
「ほら、さっさと準備なさい。会場まで飛行機で半日はかかりますのよ」
「は!?え、いやいや!そんないきなり、いや無理ですよ!」
「気持ちはわかりますわ。ですがもう飛行機も、空港までの送迎車も準備されています。さあさあさあ」
あーだこーだと、騒ぎ立てる古古伊を車に押し込み、車は発進。
嘘みたいなスピード感に、観念した古古伊は、これから自分が向かう催しの情報収集へ舵を切った。
「分かりましたよ....じゃあせめて、懇親会について教えて下さいよ」
「はぁ....まぁ、良いでしょう」
「なんですかその態度は」
美華条は語り始めた。
が、古古伊はよく理解が出来なかった。
難解過ぎる単語の数々、創作話のような世界観、次から次へと現れる人物名。古古伊の脳は開始数分で処理落ち。
「....と、いう訳。日本有数のお嬢様達が集まり戯れる、通称”華のお嬢様会”!!....って聞いてます?」
「うん。」
「嘘つけぇ!!」
古古伊の雑な即答に、品性を忘れてしまう美華条。
「いや、なんとなくは分かりましたよ?でも具体的に何をしてるのかが....」
「はぁ~~ん?何をするかなんて、その場その時によるでしょうが」
ドライブをすること四時間、二人は空港へ。
眼前には、上乃上家プライベートジェットと、二人の執事。
明朗快活な褐色の執事と、目つきの悪いオールバックヘアの執事。
「オイ....テメェか....美華条」
目つきも悪ければ、言葉遣いも態度も悪い執事。
「あらら、お久しぶりですわね」
手をひらひらと、挨拶を交わす。
美華条に噛みつく執事の名は、異神蠢。
殺し屋組織”躯”のNo2にして、花形咲が懇意にしている協力者である。
なぜ、殺し屋が執事の真似事をしているのか?
殺しは無論、変装や潜入においても右に出る者が居ない。故に彼が選出された。
もう一人は、暴走しがちな異神のお目付け役として送り込まれた。
「新年早々バカ面晒しやがって....不愉快なんだよ馬鹿成金がよ....」
異神の止まらない汚言を華麗に無視。二人の執事と古古伊を連れ、機内へ乗り込んだ。
「で?なんなんだよその”華のお嬢様会”ってのは」
上空1万メートル。やはり話題はお嬢様会に。
「はぁ!?今さっき!今!さ っ き !説明したばかりでしてよ!!」
怒りに身を任せ、手元のグラスを投げつけるが、異神はサッと回避。
「まったく....これが最後ですからね?ちゃんと聞いてくださいまし」
始まりは19....8?いや、....少なくとも百年以上の歴史がある由緒ある催事なんですの。
え?なにをするかですって?まぁ、仲良しこよし?とかですかねぇ....真の目的とかありそうですけど、知らぬが花という言葉がありまして、はん?誤用?うるさいっ!
コホン、話が逸れました。本来この催事の参加者は、企画運営者及び総統括管から”直接手渡しで”招待状を受け取らないと参加できませんの。
しかし、野蛮な事に、今ではその権利を武力で勝ち取れるようになりましたの。
その証拠に、前回のお嬢様会では数十名ものお嬢様方が無惨にも殺害され、本来権利を持ち合わせない小市民嬢共が歩き回っていましたのよ。
それも全ては、上乃上迦梨奈が総統括官に任命されてからのお話....
いい迷惑ですわ!ホントに!
「ふーん。そっか。あーしらが呼ばれた理由分かったわ!ありがとね!」
「へ?ま、まぁ、別に?これくらい?余裕ですけどね?」
これまで出会った事の無いタイプの人間に思わず狼狽する美華条。
各々が各々の時間を過ごす中、とうとう眼下に上乃上邸が。
「美華条さん....もしかしてアレですか....?」
「えぇ。ついに見えましたわね」
「ほう....おもしろい」
「えー!やっば!まじコーフンするんですけど!」
眼下に聳える上乃上邸。
家と言うにはあまりに壮大。あまりに荘厳。
それは正に”宮殿”と呼ぶに相応しい代物だった。




