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イチリン  作者: 火炙
19/21

18 サプライズ

 元旦、新年の挨拶のため、事務所にやって来た古古伊(ここい)。

扉を開け、中へ。


 「........ふわぁ~~....しゃせぇ~」


 眠気交じりのけだるげな声が、古古伊を迎えた入れた。

デスクで居眠りをしていたのは、留守を任されていた内島(うちしま)灰色(はいいろ)。


 「あっ、おはようございます。えっと、花形さんって居ますか?」

 「いな~~~~い」


 「あっ、そうでしたか....」


 初対面の二人。会話が続かないのは当然。

花形が居ないのであれば、出直すのみ。


 「あっ、えっと、じゃあ出直しますね」

 「ふーーん。じゃ、名前だけ教えて」


 「えと、古古伊頼です」

 「ん。ここいっと....ん?古古伊?あっ、君が古古伊か」


 何かを思い出した灰色は、デスクの下から小さな箱と、一つのポチ袋を取り出した。


 「これ、咲から預かってるやつね。はい」


 ポチ袋の表には”お年玉”と、裏面には”古古伊君用”と書かれていた。

もう一方の小箱は、やけに重く、シンプルながらも高級感のあるデザインをしていた。


 「えっと、これは....?」

 「美華条(みかじょう)に渡しといてって」


 「それは....僕がですか....?」

 「んーん。灰君が」


 「あっ、ん?ええ?」

 「だからぁ、灰君だって暇じゃないの。はい、行ってきて」


 灰色は、美華条の情報、住所を伝えた。

ちなみに、古古伊は一度も行くとは言っていない。


 あーだこーだと話をしつつ、話題は昨晩の配信へ。


 「あー、アレね。見てた見てた」


 くりくりと髪をいじりながら答える灰色。


 「アレって....なん....なんなんですか?」


 途中から見始めたせいで、何も理解出来ていない古古伊。


 「何って言われてもー、灰君も途中からだから分かんないー♡」


 きゅるるんと可愛い子ぶってみせる。

が、人が変わったような声色で、緩んだ空気を凍らせた。


 「ただ、こっち側の人たちは皆見てたみたいだよ」

 「....こっち側....?」


 「うん。きょうり――」


 その時、事務所の扉が開き、一人の客が入ってきた。


 「あっ、しゃせー」


 客を迎え入れた灰色は、接客の邪魔だと古古伊を追い出した。

古古伊の方は、行く当てもなく、とりあえず美華条の家へと向かった。





 美華条宅。まさに絵に描いた様な豪邸。

ドアベルを鳴らすと、邸宅の中から、


 「っっっっはぁ!!!!」


 と、甲高い悲鳴が邸宅の外まで聞こえて来た。

しばらくして、中から一人の老紳士が現れると、


 「古古伊様ですね?花形様よりお話は伺っております。お上がり下さいませ。お嬢様の元へご案内致します」

 「えっ、いや、あの....」


 断る隙も与えられず、古古伊は邸宅内へ。

大広間中央のエレベーターで二階へ。歩く事数分、老紳士が一室の扉を開いた。


 「ほわぁっ!?ちょっとじいや!ノックぐらいしなさいよ!」

 「古古伊様、ご足労いただき誠に感謝いたします。こちらが当屋敷の主人”美華条(みかじょう)美香(みか)”様でございます」


 「というか、この人誰なんですの!?」

 「古古伊様。お飲み物をお持ちしますので、くつろいでお待ち下さいませ」


 「あぁ、いえ、お構いなく....」

 「ねぇ、ちょっと?無視しないで下さい?」


 じいやは静かに部屋を出た。

残されたのは、またもや初対面の二人。


 「........えっと、初めまして....ですよね?」

 「はぁ?当たり前でしょ?」


 「あ、ですよね。えと、古古伊(ここい)頼(より)です」

 「あそ、わたくしの事はじいやから聞きましたね?それで、何用なんですの?」


 古古伊は背負っていたリュックの中から小箱を取り出した。


 「はぁっっ!?!?それは!!!」


 瞳を輝かせ、小箱を奪い取る美華条。

ふんすふんすと、大興奮の彼女に古古伊が問いかける。


 「それ、何なんですか?」

 「はぁん?これはね――」


 ここでドアベルが鳴った。

うわ、最悪と美華条が一言。


 「そういえば、さっきもベルが鳴った時変な声出してました....よね?どうしたんですか?」

 「うっ....と、とにかくコレに着替えて下さいまし!!!」


 美華条は何の脈絡もなく、いきなり古古伊に黒のタキシードを押し付けた。

彼女もまた、格式高いドレスを取り出すと、互いに背を向けその場で着替え始める。


 大急ぎで着替える事、およそ五分。

古古伊は、訳も分からず美華条の後を追い、部屋の外へ。


 部屋を出て見えた一階の光景に、古古伊は生唾を飲み込んだ。


 大広間に、数十人のメイドを引き連れた一人の御令嬢。

漆のように黒く美しい髪が、乳白色の美肌を引き立てる。白一色でありながら、見る者に鮮やかさを感じさせるドレスは、彼女の出自の良さを直感させる。


 そして、そして何より、彼女は美しかった。

テレビ、雑誌、アニメ、どこで見た誰よりも彼女は美しかった。

今日、古古伊の中の”キレイな人ランキング”の一位が、入れ替わった。


 そんな彼女の、宝石の様に美しい瞳が二人を捉えた。

ニコッと微笑むと、一言。


 「ご機嫌麗しゅう。美華条様」


 さながら、パールに浮かぶオニキスの様。

 さながら、そよ風に揺蕩う草花の福音。


 視線、声色、彼女の一挙手一投足、その全てに魅了される古古伊と、真っ青な顔で冷や汗を流す美華条。


 とうとう漏れた、美華条の本音。

 古古伊だけが聞き取れた、美華条の本音。


 「遂に出ましたわね....上乃上(かみのじょう)迦梨奈(かりな)....」

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