18 サプライズ
元旦、新年の挨拶のため、事務所にやって来た古古伊。
扉を開け、中へ。
「........ふわぁ~~....しゃせぇ~」
眠気交じりのけだるげな声が、古古伊を迎えた入れた。
デスクで居眠りをしていたのは、留守を任されていた内島灰色。
「あっ、おはようございます。えっと、花形さんって居ますか?」
「いな~~~~い」
「あっ、そうでしたか....」
初対面の二人。会話が続かないのは当然。
花形が居ないのであれば、出直すのみ。
「あっ、えっと、じゃあ出直しますね」
「ふーーん。じゃ、名前だけ教えて」
「えと、古古伊頼です」
「ん。ここいっと....ん?古古伊?あっ、君が古古伊か」
何かを思い出した灰色は、デスクの下から小さな箱と、一つのポチ袋を取り出した。
「これ、咲から預かってるやつね。はい」
ポチ袋の表には”お年玉”と、裏面には”古古伊君用”と書かれていた。
もう一方の小箱は、やけに重く、シンプルながらも高級感のあるデザインをしていた。
「えっと、これは....?」
「美華条に渡しといてって」
「それは....僕がですか....?」
「んーん。灰君が」
「あっ、ん?ええ?」
「だからぁ、灰君だって暇じゃないの。はい、行ってきて」
灰色は、美華条の情報、住所を伝えた。
ちなみに、古古伊は一度も行くとは言っていない。
あーだこーだと話をしつつ、話題は昨晩の配信へ。
「あー、アレね。見てた見てた」
くりくりと髪をいじりながら答える灰色。
「アレって....なん....なんなんですか?」
途中から見始めたせいで、何も理解出来ていない古古伊。
「何って言われてもー、灰君も途中からだから分かんないー♡」
きゅるるんと可愛い子ぶってみせる。
が、人が変わったような声色で、緩んだ空気を凍らせた。
「ただ、こっち側の人たちは皆見てたみたいだよ」
「....こっち側....?」
「うん。きょうり――」
その時、事務所の扉が開き、一人の客が入ってきた。
「あっ、しゃせー」
客を迎え入れた灰色は、接客の邪魔だと古古伊を追い出した。
古古伊の方は、行く当てもなく、とりあえず美華条の家へと向かった。
美華条宅。まさに絵に描いた様な豪邸。
ドアベルを鳴らすと、邸宅の中から、
「っっっっはぁ!!!!」
と、甲高い悲鳴が邸宅の外まで聞こえて来た。
しばらくして、中から一人の老紳士が現れると、
「古古伊様ですね?花形様よりお話は伺っております。お上がり下さいませ。お嬢様の元へご案内致します」
「えっ、いや、あの....」
断る隙も与えられず、古古伊は邸宅内へ。
大広間中央のエレベーターで二階へ。歩く事数分、老紳士が一室の扉を開いた。
「ほわぁっ!?ちょっとじいや!ノックぐらいしなさいよ!」
「古古伊様、ご足労いただき誠に感謝いたします。こちらが当屋敷の主人”美華条美香”様でございます」
「というか、この人誰なんですの!?」
「古古伊様。お飲み物をお持ちしますので、くつろいでお待ち下さいませ」
「あぁ、いえ、お構いなく....」
「ねぇ、ちょっと?無視しないで下さい?」
じいやは静かに部屋を出た。
残されたのは、またもや初対面の二人。
「........えっと、初めまして....ですよね?」
「はぁ?当たり前でしょ?」
「あ、ですよね。えと、古古伊頼です」
「あそ、わたくしの事はじいやから聞きましたね?それで、何用なんですの?」
古古伊は背負っていたリュックの中から小箱を取り出した。
「はぁっっ!?!?それは!!!」
瞳を輝かせ、小箱を奪い取る美華条。
ふんすふんすと、大興奮の彼女に古古伊が問いかける。
「それ、何なんですか?」
「はぁん?これはね――」
ここでドアベルが鳴った。
うわ、最悪と美華条が一言。
「そういえば、さっきもベルが鳴った時変な声出してました....よね?どうしたんですか?」
「うっ....と、とにかくコレに着替えて下さいまし!!!」
美華条は何の脈絡もなく、いきなり古古伊に黒のタキシードを押し付けた。
彼女もまた、格式高いドレスを取り出すと、互いに背を向けその場で着替え始める。
大急ぎで着替える事、およそ五分。
古古伊は、訳も分からず美華条の後を追い、部屋の外へ。
部屋を出て見えた一階の光景に、古古伊は生唾を飲み込んだ。
大広間に、数十人のメイドを引き連れた一人の御令嬢。
漆のように黒く美しい髪が、乳白色の美肌を引き立てる。白一色でありながら、見る者に鮮やかさを感じさせるドレスは、彼女の出自の良さを直感させる。
そして、そして何より、彼女は美しかった。
テレビ、雑誌、アニメ、どこで見た誰よりも彼女は美しかった。
今日、古古伊の中の”キレイな人ランキング”の一位が、入れ替わった。
そんな彼女の、宝石の様に美しい瞳が二人を捉えた。
ニコッと微笑むと、一言。
「ご機嫌麗しゅう。美華条様」
さながら、パールに浮かぶオニキスの様。
さながら、そよ風に揺蕩う草花の福音。
視線、声色、彼女の一挙手一投足、その全てに魅了される古古伊と、真っ青な顔で冷や汗を流す美華条。
とうとう漏れた、美華条の本音。
古古伊だけが聞き取れた、美華条の本音。
「遂に出ましたわね....上乃上迦梨奈....」




