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イチリン  作者: 火炙
18/21

17 満月の夜

 星見(ほしみ)夢(ゆめ)....花形(はながた)咲(さき)と並んで最強と謳われる貴方。

彼と舞うには状況が悪すぎるわ。出来ればやりたくないのだけど....


 ふぅん。満月姫ねぇ....アレは結構、というか上澄みレベルで強いね。

本気を出してもちょっと厳しいかなぁ....うん。情報は貰ったし、もう帰ってもらおうかな。


 「意外ね。貴方が来るなんて」

 「意外だよ。君みたいなのがこの世界に居たなんて」


 世間話もそこそこに、星見は姫にスマホを投げ渡した。

画面の中では、姫の連れて来た少年たちがすやすやと眠っていた。


 「これは....配信....?」

 「そ。してもらったんだぁ~」





 「えっ....なに....えっ?」


 屋上に到着した一葉は目を疑った。


 「繰り返します!!満月姫と名乗る女性と、この二人の子供に関する情報をお持ちの方!どのような物でも構わないので情報を下さい!コメント欄でもDMでも構いません!繰り返します!」


 眠りこける二人の少年を配信画面に大きく映し、リスナーに情報提供を呼び掛ける翔太。

今に至るまで配信を止めなかった結果、同接は二万人を突破。

星見の指示の元、二万人分の知識と、新たな視点を活用して少しでも情報を集めて居た。


 「累!Xの方は!?」

 「いや!こっちはまだ何も!」


 「晴喜!インスタの方は」

 「悪い!こっちもなんもない!」





 二人は眠っている........これは星見さんの厄介な花思(セラフ)ね。

でも、彼は動く気は無いみたい。アモロソ、アマビレの二人を回収したら今夜は退きましょう。


 「ねぇ?星見さん?アイね、今夜はお開きにしようと思うの」

 「おー良いね。でもその前に一つ答えてくれるかな?」


 星見の願っても無い提案に、姫は快諾。


 「一葉を襲った君の四人の友達、教えてもらっていいかな?」

 「....いえ。いいえ。それは出来ないわ」


 「”知らない”じゃなくて”出来ない”ねぇ....知ってはいるんだ」

 「....」


 しばらくの静寂の後、満月姫は大きく後ろへ飛んだ。階段の柵を飛び移るように、軽い身のこなしで屋上へ。

一方の星見は、姫とは反対側、建物入り口から外へ出ると、背中に大きな羽を編み、屋上へ飛翔。


 バンッッッ!!


 大きな音を立てて開いた扉から、風のように素早く姫が現れた。

姫は一直線に翔太の元へ。姫の美しく白い足が彼の命を捉える。


 「なっ........」


 姫の接近に気が付いたのは、脚撃が当たる直前だった。

死を覚悟する暇すら無い。音も風も存在しない。美しい死が硬直した体に迫る。


 「だめ!!!!!」


 一葉が翔太の体を突き飛ばした。


 「まずっ――」


 満月姫が初めて見せた焦り。

一度放った蹴りを止める事は出来ず、一葉の顎を砕き、その体を夜空へ吹き飛ばした。


 が、間一髪、上空で一葉をキャッチした星見。

一葉を回収すると同時に反撃。右中指から伸ばした一本の鋭い根が、姫の太腿に穴を空けた。


 本来ならば避けれたはずの攻撃。


 っ!いけない!気を抜いてしまったわ!えぇ!いっそここで――

いえ、ダメよ。最優先はこの二人。熱くなってはいけないわ。


 足に刺さった根を引き抜くと、二人の少年の元へ。

両小脇に抱え込むとその場を後に。しかし、星見は動かない。


 星見は理解していた。満月姫の異常な強さを。

一葉を守りながらでは、まず勝てない。追いたくても追えない。


 一葉に万能薬を垂らした数秒、視界の中から姫が消えていた。

世間が年越しに賑わう中、満月の夜が静かに終わりを迎えた。

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