14 メディカルセンター
淫莉さん。この人の事が良く分からない。さっきあれだけ酷い事しておいて今はコレだもん。
素直にありがとうとは言いたくない。でも助かったのも事実だし....
....いや、やっぱりやだ。だって花さんが作ってくれた料理を台無しにした人だもん。
「お願いしますって!」
「....」
「なあっ!!」
「........」
「巫女さん!!!!!」
「だあぁぁぁぁ!!!!うるせえ!!!!!!!!!」
千羽の溜まりに溜まったストレスが爆発した。
必死になる青年たちを黙らせると、視線を一葉の方へ。
「........で、さっきからなんなんだよ。お前は」
しかし、一葉は答えない。それどころか目すら合わせようとしない。
プクっと頬を膨らませ、顔を明後日の方へ向けてしまった。
「チッ....拗ねんなよ面倒臭ぇな....」
千羽は一葉が大切そうに抱える紙袋を奪い取ると、パックを開け中身を掴み、口内に放り込む。
「あっ」
「良いんじゃねえの?あァ....イケるわ。はいはい美味い美味い」
育ちの悪さを見せ付けつつ、拗ねた一葉の機嫌を直しにかかった。
しかし、そんな舐め腐った態度で一葉の機嫌が直るわけがない。
一葉は汚い大人の醜い姿を前に、もう一度フンっと顔を逸らして見せる。
「だあぁぁぁ!!!分かった!謝りゃ良いんだろ!?悪かった悪かった!アタシが悪かったです!」
....やっぱりこの人は分かってない。食べたとか美味しいとかそんなことじゃない。
でも謝ってくれた。だから、『その人たちの友達を見つけてあげたら許してあげる』って言ったら渋々了承してくれた。
すごく嫌そうだったけど、それぐらいはしてもらわないと....
消息を絶ったのは、配信者グループ”しょーはる”のメンバー晴喜。
二人の証言では絢灼メディカルセンター付近を探索中に姿が見えなくなった。連絡は取れず、探しても見つからず、困り果てて人を探していた所に一葉が現れた。との事。
大して話を聞いなかった千羽だが、メディカルセンターと言う言葉に反応を示し、露骨に機嫌を悪くした。
「だいたい良いだろ別によォ....心霊配信で人が消えたとか最高のネタじゃねぇか....
つーか、入るなって鉄柵立ててんのに何で入んだよ....マジお前らとか助ける価値ゼロだからな?」
先頭を歩く千羽はグチグチと文句を垂れながらも、枯死動人達に見つからぬよう、時に息を潜め、時に迂回をし、舞台は絢灼メディカルセンターへ。
その外見は廃墟そのもので、カビと埃と伸びた蔦に覆われた姿は独特の魅力を放っていた。
建物内は確かに汚れていた。外壁同様、蔦が絡みつき、カビや血液が付着しているが、一葉が想像していた程汚くはなく、むしろ外装と比較するとどこか綺麗にも感じていた。
スマホのライトが無ければ何も見えないような暗闇の中、千羽の顔色が芳しくない事に一葉は気が付いていた。
千羽への怒りはあれど、倒れられても困るこの状況。声を掛ける他に選択肢が存在しなかった。
「淫莉さん?」
「....」
「だいじょうぶ?」
「うるせぇ」
「....」
「....オイ。晴喜じゃねぇ奴ら。ここで起きた事故の犠牲者数は知ってるか?」
突然の問いに晴喜じゃない方の二人は困惑しつつも答えを返す。
「確か....全員でしたよね」
「うん。俺もそう聞いてる」
「全員じゃねぇんだ。正確にはな」
そもそも前提の知識が無い一葉を置き去りに三人は話を続ける。
「一人生き残った奴が居んだよ」
「え....?そんな話し」
この町には頭のイカレた奴が居る。そいつは爆発事故で全てを失った。家族も親友も可愛い弟分も頼れる姉貴分も帰る家も愛する町も。なにもかも全てだ。
だがそいつの手元には一つだけ残ったものがあった。何かわかるか?分かんねぇだろうよ。なんせ一番要らねぇもんだからな。
....命だよ。そいつは運悪く生き残っちまったんだ。死ねば良かった。死んでりゃ良かった。
そいつは愛する人々を弔うこともせず、報復をすることもせず、町を美化することもせず、いつまでもいつまでもソコに居続ける。どうしようもねぇ馬鹿な奴なんだ。
そいつの父親は小せぇ教会の牧師をやっていてな、その影響で娘も毎日毎日教会に通っていた。
何をする訳でもなく。そこに来る人々と話し、触れ合い、仲良くなる。誰かの役に立てる訳でも無い癖に積極的に悩みを聞いては親父にやお袋に相談する馬鹿な奴だった。
それでも楽しかった。幸せだった。無くなるなんて思ってなかった。
そいつは今でもソコにいる。
出れねぇんだ。そいつの目に映る景色は周りの連中と同じもの。それでも。それでも。そいつは動けないんだ。なまじ時間を掛けちまった。なまじ年を食っちまった。ソコを離れる機会も立ち直る時間もあった。頼れる大人も居た。それでもなんだ........
....危ねぇ....このままじゃ首を括っちまう....
ここに来ると何時もこうだ。だいたいこのクソガキ共が....
「....さん!?」
「....」
「巫女さん!?」
「....あ?なんだよ」
我に返った千羽の視界にはきゃんきゃん喚く二人の姿が。
カメラ担当は震えながらも周囲を撮影し、その他二人はボーッとする千羽に呼びかけていた。
「さっき変な音聞こえたの!」
「そう!あっち!あっちからなんか聞こえんだって!」
どうせ気のせいだろう。誰か居たとしてもゾンビか何か。そう考える千羽と怖がる一葉。
そんな二人の足元に一つの影が伸びてきた。
風に揺れるドレスと異様に丸い頭部。
二人はこの影に見覚えがあった。




