13 夜の始まり
十二月も三十一日。2025年がいよいよ終わろうとしている十八時。
「ついてる?」
「あぁ、もう始まってる」
「よしっ、やるか」
小声で話す三人の青年たちは、互いに息を合わせ、カメラへ向かい元気良く声を張り上げる。
「やってきました!!しょーはる年末特別企画!心霊スポットで幽霊と年越ししてみた!ということで....」
「待って!待って!なんでなん!?なんで幽霊と年越さなアカンねん!」
「「「wwwwwwwww」」」
「という訳で今回は”めなら市”にやってきました!」
「いーーや、えぐいですよ。めならは。今回こそは映せそうじゃないですか?」
「はい!映ります!というか映します!」
「wwww良いんですか?wそんな言い切っちゃって」
「良いんです。皆さんご存じですか?めなら市絢灼町の病院?研究所?の爆発事故を」
「あーありましたね。開発途中の薬剤が漏れ出たとかで町民はおろか、市に住んでる人全員が亡くなったとか....」
「はい....なので映ります。そんな何万人も死んで、全員が成仏出来たと思います?そら数百人ぐらいはまだ彷徨ってるでしょ!と」
「wwwwwコイツやば」
「wwwwwwはい!なんで今回は生放送でやって行きたいと思います!!!」
三人は立ち入り禁止を示す鉄柵をペンチで断ち切ると、カメラを構え和気藹々と内部へ侵入した。
めなら市、そこは現代に存在する地獄。
元は自然豊かな大地に、撫でる様に優しく吹き付ける風が甘美な花の香りを運ぶ美しい土地であった。
何が起きたのか。絢灼メディカルセンター爆発事故。
焦土と化した死の土地には、腐敗と再生を繰り返し、枯死する事すら許されない亡者が跋扈する。
当然、そのような情報は伏せられている。好奇心から危険を犯す者を寄せ付けないために。
そんな枯れた大地に住所を置き、侵入者を拒み、亡者を押さえ込み続ける一人の女が居た。
コンッ コンッ コンッ
「淫莉さーん、来たよー」
「.......ホントに来たのかお前」
一葉がやって来たのは、絢灼小川教会。
『遊びに来い』という言葉を真に受けた一葉は、廃教会に住み着いている千羽の元を訪ねた。
「まァ.....入れや」
不快感と不満感を顔一面に貼り付けながらも迎え入れる。
「何だ。何なんだ。何をしに来たんだよ」
不純な女がぶつけた純粋な疑問。帰って来たのは意外な言葉。
「お礼がしたくて」
「礼だぁ....?」
「この前....助けてくれたやつ、言えて無かったから」
「あぁ、アレか。律儀な奴だな。つーか感謝の気持ちがあンならよ、近づいて来んなよ」
脈絡も無く突き付けられた暴言に一葉は硬直する。
「え........」
「え、じゃねぇよ。お前が居ると厄介事が起きんだろ?面倒で仕方がねぇんだよ!」
遊びに来い、と誘ってくれた初めての人。友達になれると思っていた相手からのまさかの拒絶。コレに耐えられる程一葉は強くない。
「分かった........ごめんなさい。帰ります。コレだけ....」
一葉が差し出した紙袋の中には、花形と二人で作った唐揚げが詰まったパックが二つ。
それを見た千羽は紙袋を払い落とすと背を向ける。
「ゴミは持って帰れよ」
そう吐き捨てると重い扉をガタンッと閉めた。
暗く寒い静かな夜。一葉が得たのは新たな友では無く心の傷。世界にたった一人とり残されたかのような孤独感。冷えた顔にほんのり温かい涙が伝う。
涙を拭うと、汚れた紙袋を広い上げ、教会を後にする。
家路についておよそ五分程、複数人の荒い息遣いと、ドタドタとコンクリートの上を激しく走る音に一葉は顔を上げた。
「あっ!居た!」
そう叫ぶと二人の青年が一葉の方へ駆け寄る。
またか。そう半ば諦めていた一葉の視界を突如として大きな背中が覆う。
「未成年だぞ。コイツ」
千羽の一言にその場の空気が引き締まる。
溢れ出す殺気を前に青年達は必死に弁明を始めた。
「ち、ち、ち、違います!そんなんじゃなくて!」
「そう!そうなんです俺達人を探してて!」
千羽淫莉にとって事情などどうでも良かった。
それは言動にも態度にも嫌という程現れていた。しかし青年達は必死に、とにかく必死に事情を語った。
「........で、って聞いてます!?」
「うっせーな....テメェらが"しょーはる"とかいう配信者グループっつーのは分かった」
「おい、ちょっと待て、ほとんど聞いてないじゃないですか!」
「チッ........何だよ。言えよ」
「だから、友達が消えたんですって!!!」




