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余命一年の悪役令嬢は、愛する人に嫌われるために画策します  作者: 衛星 奏志


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9/12

王太子、試練を受ける。

リンドール視点

 王都の外れ、森の中にある小さな教会。


 古いがきちんと手入れされていて、花で溢れていた。


 その花の庭の一角に、聖女と共に立っていた。


 テーブルの上には色とりどりのお菓子と飲み物。


 ──リーン。


 聖女がベルを鳴らす。


 不思議に響くとても美しい音。


 一つ。


 一つ。


 鳴らす度に周囲の音が消えて行く。


 そして、ふわっと目の前を光の玉が横切った。


 気付けば、周囲にはいくつもの光が浮遊していて、お菓子の方へと集まっていく。


 声が。小さな声が段々増えて、たくさんの声になっていく。


 妖精達は聖女の名を呼び、聖女は妖精と親しげに会話する。


「このお兄さんを妖精の森に連れて行ってあげてくれる?」

『このひと、だぁれ?』

『みたことない』

『ソフィアさまは、つれてっていいってー?』

『ソフィアさまがいいっていうならいーよ』

『ソフィアさま、きょうはおいそがし?』

『ソフィアさま、こない?』


 妖精達の口から次々と王妃の名が出てくる。


「ソフィア様が連れて行ってあげて欲しいって言ってたよ。はい、これ。ソフィア様から。お兄さんをお願いしますって」


 聖女が差し出したのは棘がある小さな粒。


『わーい!コンペートー』


 色とりどりの粒を妖精達は抱えて舞う。


『つれてってあげるー』

『ソフィアさまのおねがいなら、しかたないねー』

『こっちー』

『こっちだよー』


 聖女を見ると、力強く頷く。


 たくさんの光が進んでいく先へと進んでいく。


 突然景色が変わる。


 森の中に居たはずなのにまばたき一瞬の間に真っ白な空間の中にいた。


 たくさんいた光の玉も。


 無邪気な声も。


 何もかもが消え、耳に痛いほどの静寂に包まれる。


『国王陛下万歳!』

『陛下。リンドール陛下』


 花びらが降り注ぐ中、街道を馬車は進む。


 沿道にはたくさんの国民が。


 皆歓声を上げ、拍手や手を振って笑顔を見せている。


 祝いに沸き、誰も彼もが喜び、たくさんの笑みで溢れ返っている。


 玉座の間、上から見下ろすと臣下達がずらりと礼を取っている。


 王となるべく生まれ、王となるべく生きていた。


 誰もが尊敬の眼差しで見上げ、王の言葉を真剣な顔で聞いている。


 言葉が終わると拍手し、満足そうに最敬礼を向ける。


 民を、


 国を、


 豊かにし、慕われる。


 側近、臣下、次代の王となる王子に王女。たくさんの人々に囲まれて、愛する国を、国民を導き、幸せな国にする。


 そして、玉座を下りる時、全てをやりきり、信頼できる息子へと責務を譲る。


 子や孫。愛する人達に囲まれて、過ごす日々。


 満足なはずの人生。


 憂うことなど一つもない人生。


 ──ただ一つ、隣にいる顔のない誰か。




 ザッと情景が変わる。


 王宮の庭。


 小さな啜り泣く声が聞こえる。


 垣根の奥。


 小さな体が身を屈め、丸くなっている。


 手の中にあるはずの指輪はどこにも無い。


 ルーベンハルト侯爵邸。


 小さな背中を追っていく。


 屋敷に入り、部屋まで進む。


 その間、声を掛ける者は誰もいない。


 おかえりの声も。


 名を呼ぶ者も。


『お母様』


 勇気を出して掛けた声も。


 双子の弟達の声に掻き消される。


 誕生日。


 用意されたプレゼントは弟達によりビリビリに破かれた。


 次の時も、兄の学園行事と重なりオフィーリアは後回し。


 その次も。


 その次も。


 軋む心を抑えて、笑顔を貼り付ける。


 大丈夫。


 大丈夫と言い聞かせて。


 抱き締めたくても触れることすら出来ない。


 ──リド様。


 そう呼ぶ彼女の声はいつも穏やかだった。


 花が綻ぶ様な笑顔は可愛くて美しかった。


 手に触れると、頬を染めて困った様に、しかし嫌がってはいない様に笑う。


 愛しくて。


 愛らしくて。


 飲み込んだ涙を拭ってあげたくて。


 ──選べ。


 耳元で声がする。


 目の前には“過去”と“未来”。


 ──どちらかを選べ。


 民を守り、国を守り、暮らしを守る。


 生まれてから一瞬だって責務を忘れたことはない。


 人生の殆どを王になる為に生きてきた。


 存在意義と言っても過言ではない。


 簡単に捨てられるものではない。


 だが、オフィーリアもまた、長い時を共に過ごしてきた。支えであり、代わりのいない大切な存在。


 ──幸せは、なるものではなく、選んで掴むものですよ。


 ソフィアの言葉が浮かぶ。


 ならば、掴むのはこちらの方。


 目の前に現れた、王冠と黒く染まった手。


 躊躇うことなく、望むものをしっかりと掴んだ。


 瞬間、水面の泡のように空間が弾けた。


 そこは最初の森。


『かえってきたー』

『トーリカ、ソフィアさま、あのひともどってこれたよー』

『よかったねー』

『よかったー』


「無事戻られましたね」

「あ……」


 不思議な感じに周りを見渡す。


 侍従や、護衛がホッとした表情をしている。


「あっ! 妖精の鱗粉は?」

「殿下の手の中に」


 手を見ると、手の中に小瓶があった。


 目の高さまで持ち上げると、瓶の中にキラキラと光り渦巻く粉が入っている。


「これが……ソフィア王妃陛下、聖女トーリカ殿。ご協力感謝いたします」


 地面に片膝を付き頭を下げる。


「いいえ、殿下が自分の手で選んだ結果です。私たちは道を示しただけ。さあ、すぐにオフィーリア様のところへ」

「お礼は改めてお伺いいたします」

「ええ、オフィーリア様と共にお見えになるのを心からお待ちしております」


 再度深く礼をして、促される様にその場を後にする。



 辺境へと馬を走らせる。


 妖精の森では時間の流れが異なるらしく、一週間が経過していた。


 ランディは先にカール医師のところに行ってくれているらしい。


 数日走り通してマベリーク男爵領邸に着いた。


 待っていたカールに妖精の鱗粉を渡す。

 まだ若い医師だ。隣にはランディもいる。


 そして、背後には祈る様にこちらを見つめる小柄な女性がいる。

 恐らく彼女がマリアンなのだろう。


「すぐに薬の調合を始めます」


 バタバタと去っていく二人を見送った後、マリアンに声を掛ける。


「貴女がマリアン・マベリーク嬢か?」

「ご、ご挨拶申し上げます。私、マベリーク男爵家の長女マリアンと申します」


 たどたどしいカーテシーで答える。


「オフィーリアが世話を掛けた。……フィーには会えるだろうか」

「あっ、はい。こちらにどうぞ」


 案内されて廊下を歩く。


 ドッドッと心臓が大きく跳ねる。


 オフィーリアに会っても良いのだろうか。


 彼女を一人にし、悲しませただろう自分が会っても大丈夫なのだろうか。


 不安が心をよぎる。


 だけど──


「こちらの部屋になります」


 そう言うと、マリアンはその場を離れ、一人扉の前に立つ。


 一度深呼吸をして、心を落ち着かせてからノックをする。


 返事はない。


 そっと扉を開いて中を覗く。


 壁に並んだ窓から、一面の青色が目に飛び込んできた。


 そして、その手前のベッドには見慣れた、でも懐かしい姿があった。

ようやく会いに行けましたね。

もしや、リンドールは愛が重いやつか。

ちなみに妖精さんがソフィア王妃を大好きな理由は、妖精さんの好きなものをたくさん作ってあげたからです。

お菓子、飲み物、お家、小物、などなど前世の記憶を駆使して色々作りました。お花も植えました。

可愛い物好きが高じてやったことだけど、国が大いに栄えたのですごい功績の一つになりました。

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