王太子、婚約者を捜索する。
リンドール視点
愛馬に乗り換えて城下を走り抜ける。
ルーベンハルト侯爵家では不思議なほど、オフィーリアの情報というか存在感がない。
この屋敷で過ごした日々を思うと心が痛む。
なぜ姿を消したのか。
相談してくれたらなんでも叶えたのに。
悔しくて唇を噛み、ピリッとした痛みと血の味が口に広がった。
何よりもそれに気付けなかった自分に腹が立つ。
有益な情報はまだ見つかっていない。
王都を出た馬車にも不審な馬車はなかった。
なりふり構わず、広く情報を集めた。
学園でも調べを進めた。
最近は取り巻きもオフィーリアによって遠ざけられていた。
大体半年ほど前かららしい。
男爵令嬢をいじめだしたのもその頃からだ。
その男爵令嬢を探す。
名前は、マリアン・マベリーク。
辺境にある男爵家。
彼女は学園を辞めていた。
その届けはオフィーリアの婚約解消の前日に提出されていた。
時期があまりにも合いすぎている。
引っ掛かりを覚え、マリアンについて調べる。
同時に、王城内も調査する。
王城内に目のない場所はない。
オフィーリアについて何か情報があるかもしれない。
侍女からの報告。婚約解消の時のこと、叛意が無いことを表す等の意味で出されたものにはどれか最低一つ、口をつけることがマナーとなっている。
「あの日、オフィーリア様は何にも手をつけませんでした。オフィーリア様がそのような事をするとは思えません。出来ない理由が何かあったのではないかと存じます」
「私は、手袋が気になりました。あの日は袖の長めのドレスを着ておられました。それですと、手袋は肘あたりまでのものを選ぶのが普通です。ですが、あの日オフィーリア様は長い手袋をお召しになっていた。暖かい日でしたから、わざわざ長いものを選ぶ理由がありません」
腕?
何かが引っ掛かるが分からない。
再度この数日に起きた事件や、提出された報告書を精査する。
マリアンについては、至って普通の生徒だった。
単身領地から出て、学園寮で生活している。
下級貴族のクラスに友人はいるし成績も良い方ではあるが、上位というわけではない。
ただ最近はオフィーリアに振り回されて、大変そうだったと。
放課後も呼び出されていたらしく、寮に帰ってくるのも遅かったらしい。
帰って来ない日もあったと。
休日は城下で仕事をしていたそうだ。
学園は休日の行動までは規制していない。働くのも自由だ。
寮も門限はあるが、厳しいというわけでもない。
オフィーリアとのこと以外は特別目立ったところのない普通の学生。それがマリアンの印象だ。
上位クラスで侯爵令嬢のオフィーリアと下位クラスで男爵令嬢のマリアン、どこに接点があったのかも分からない。
繋がりそうで繋がらない。
オフィーリアの行方も分からない。
情報が少なすぎて、気ばかりが焦る。
聴取を進める中で、庭師に連れられ、弟子の少年がやってきた。
「それで、オフィーリアの姿を見たというのは本当か?」
「えと……はい。貴族のお嬢様だったので、お声掛けするのは失礼かと思ったんですが、あまりにも顔色が悪かったので、お声掛けさせて頂きました」
「顔色が? それはいつのことだ」
「五日ほど前のことです。綺麗なドレス姿なのに、木陰に座っておられました」
婚約解消の日だ。
「オフィーリアは一人だったのか?」
「はい。あ、でも後から侍女の方が男性を連れてこられまして、男性に抱えられて使用人用門の方へと行かれました」
「使用人用門?」
侯爵令嬢と縁のない場所だ。
使用人用門のその時の門番を呼ぶ。
「はい、急病人だということで通しました。身分も確認しましたが、王都に診療所を持つ医師で、認可医師の認証も所持しておりました。何より、急病人の容態がかなり悪いように見受けられたので、急を要すると通しました。急病人である令嬢本人にも主治医であると確認しております」
認可医師の認証。
王都内での開院の許可認証で、診療実績、研究実績、後ろ盾が揃って初めて申請でき、王が許可証を出すという信頼の高い医師の証明だ。
服装の特徴からもオフィーリアに間違いはなさそうだが、庭師見習いの少年と門番の報告でオフィーリアが何かしら患っていたことが分かった。それも、かなり悪そうだ。
すぐに話を聞くべく診療所を訪ねる。
診療所は貴族街寄りの平民街にあった。学園にも近く、患者層も広そうだ。
診療所はひっそりとしていた。
患者の姿も見当たらない。
ベルを鳴らしてもドアを叩いても反応がない。
周囲に話を聞く。
カール医師は診療所を畳んで故郷に帰った。
婚約解消の次の日のことだったらしい。
「カール医師と共に看護師見習いのマリアンという女性も共に帰ったそうです」
「今マリアンと言ったか?」
「はい」
少しずつ繋がっていく。
「殿下、ポストに手紙が入っておりました」
ポストに居なくなった後届いたのだろう手紙が残っていた。
差出人は隣国の人物。
悪いと思いつつ封を切る。
内容はとある病気のことについて。
──石化病。別名精霊の呪い。
現在治療法がない難病。
体の末端から段々と黒く変色。石のように硬くなり、動かなくなる病気。
手をつけない茶会。長い手袋。そして、出都記録にあった腕の変色した死体を運ぶ馬車。
全てが繋がった。
手をつけなかったのではない、病気の進行によりつけられなかったのだ。もう、茶器すら持てなくなっていた。
手袋が長かったのも黒くなった腕を隠すため。
王都を出た馬車の一覧にあった病死した患者を故郷に送るための馬車。記録では腕の変色と硬直を確認とあった。運んでいたのは遺体ではなく、石化病の進んだオフィーリアだった。
そして、カール医師は隣国まで手を伸ばし唯一の治療法である特効薬の材料を探し、他の治療法がないか調べるために手を尽くしている。
なぜ言ってくれないのか。
言える訳がない。
リンドールの身分は王太子。
オフィーリアは自分自身よりもリンドールを優先する。そして、一人で抱え込む。
昔から。
ただ今回は一人ではないようだ。
マリアンはオフィーリアの協力者。最初からずっと。
その中に入れてもらえなかったことが、たまらなく悔しかった。
一人で抱えて、一人で決めて、一人で消えようとした。
そんな選択をさせてしまったのは、他でもない自分だ。
だが、まだだ。
まだ出来ることはある。
まず、リンドールは隣国に使いを出すために王城に戻った。
謎解きになっていますでしょうか。
侯爵令嬢が行方をくらます。大事件です!




