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余命一年の悪役令嬢は、愛する人に嫌われるために画策します  作者: 衛星 奏志


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6/12

王太子、婚約者に逃げられる。

リンドール視点

 婚約解消を告げた翌朝、彼女──オフィーリア・ルーベンハルトは消えた。


 王太子リンドールと婚約者オフィーリアの定例のお茶会。オフィーリアから告げられたのは、男爵令嬢を虐めた事実を認める言葉と婚約解消。


 去っていくオフィーリアは振り返らなかった。


 その背中は強い意志と拒絶があった。


 なぜ。


 良い関係を築けていると思っていた。


 勘違いだった?


 共に学び、支え合い、並んで進む未来を疑っていなかった。


 二日後の学園。


 オフィーリアは登校しなかった。


 胸騒ぎがして、学園終了後ルーベンハルト侯爵邸に向かう。


 侯爵邸に着くと、中へと通された。


 オフィーリアに会いたい旨先触れを出していた。だが、対応したのはオフィーリアの父である侯爵。


 屋敷内も騒がしく、落ち着きがない。


 いつもなら出迎えるオフィーリアの姿も見当たらない。


 何もかもがいつも通りではない状況に違和感を持つ。


「オフィーリアに話があって会いに来たのだが」

「そ、それが、オフィーリアが……」


 歯切れが悪いうえ、汗が吹き出ている。


「オフィーリアがどうした。はっきり申せ」

「は、オ、オフィーリアの姿が屋敷のどこにもないのです」

「いつからだ」

「……ません」

「はっきり言え」

「分かりません。いつから居ないのか分からないのです」

「……なぜだ」

「なぜと言われましても、屋敷中の誰も知らない……と」


 そんなことがあり得るのか。


 侯爵家の令嬢で王太子の婚約者の行方がわからなくなるなんてことが。


「専属の侍女やメイドがいるだろう? その者たちが知っているだろう」

「いえ、その、数ヶ月ほど前にオフィーリアが連れてきた侍女が身の回りの世話全てを一人でしておりまして」

「では、その侍女を呼んでくれ」

「そ、それが、その侍女も姿が見えません」

「は? その侍女の身元は? 身分は?」

「わ、分かりません」

「分からないとはどう言う事だ。仮にも侯爵家の侍女。オフィーリアの身辺を任せるのだから身元の確認はしているのだろう?」

「は、ほ、報告は受けておりました。ですが、身元の確認は……オフィーリアに任せていれば大丈夫だろうと……」


 怒りで目の前が真っ赤に染まった。


「この屋敷の人間全てを集めろ」


 奥歯をグッと噛み締めてそれだけを伝えて部屋を出る。


 今は先にやることがある。


 侍従に陛下への報告を含めて急ぎ伝令を出させる。


 拐かしの可能性と、捜索、検問の強化も必要だ。


 侯爵夫妻と兄、双子の弟、集まった使用人に話を聞いた。


 末の妹は臥せっているようだ。


 オフィーリアが最後に目撃されたのは婚約解消のあの日、馬車で帰宅したところまでだった。


 門番が馬車の中にいた姿を目撃している。


 その後からは目撃されていない。


 二日間姿がないのにも関わらず、家族を含め誰も気に掛けないなど異常だ。


 オフィーリアの部屋に入るとガランとしていた。


 侯爵夫妻が唖然としている。


 机の上には家族に宛てた手紙が一通置かれていた。


 内容は別れの言葉。


 責めるでもなく、不満を言うでもなく。


 ただ一言。


 ──さようなら、と。


 文机の引出し。


 書棚。


 チェスト。


 全て空っぽだった。


 まるで、元から何も無かったように。


 クローゼットの中には、ドレスや装飾品が並んでいる。


 どれもこれもリンドールから贈られたもの。


 季節の折に。エスコートの贈り物に。記念日に。


 残っていたのは贈り物だけで、その他は何もない。


 プレゼント一つ一つに思い出が残っている。


 その思い出と共に自分も置いて行かれたのか。


 悔しさが込み上げる。


 装飾品は綺麗に並べられている。


 だが、指輪が不自然に一つ抜けている。


 ここには、何があったのか。


 他よりも跡が少し小さい。


 思い浮かんだのはある指輪のこと。


 子供の頃に公務で訪れた鉱山のある町で見つけた指輪。


 リンドールの瞳の色と同じ色の小さな宝石と寄り添うように小さな花の装飾が付いていた。


 高いものではない。


 しかし宝石と飾りが、婚約したばかりのオフィーリアの慎ましさに似ていて。


 プレゼントとして購入したが、恥ずかしくてなかなか渡せないでいた。


 ある日、庭の片隅で泣いているオフィーリアを見つけた。


 王太子妃教育が始まったばかり。楽しそうに学んでいる様に見えたが、辛いのかもしれない。


「どうしたの?」


 そう声を掛ける。


 オフィーリアは涙を拭い立ち上がると、綺麗なカーテシーを見せた。


 顔は緊張していたが、笑顔だった。


「ごきげんよう、でんか。おみぐるしいところをお見せしてもうしわけありません」


 何もかもを飲み込んで微笑む。


 強くもあり、弱くもあるオフィーリア。


 そんなオフィーリアの本当の笑顔が見たくて、指輪を取り出した。


「オフィーリア。君にプレゼントがあるんだ。気に入ってくれるといいのだけど」

「まあ、わたくしに? なんでしょうか」


 目を輝かせたオフィーリアがとても可愛くて。


 指輪を見せると。


「ゆびわ……でんかのひとみのいろ。わたくしがいただいてもよろしいのでしょうか」


 不安げに揺れる瞳。


「もちろんだよ。オフィーリアは僕の婚約者だからね。えっと、あの……フィーって呼んでもいい?」

「わたくしのことを?」

「うん、ダメかな?」

「いいえ、いいえっ! ダメなんかじゃありません。うれしい。はじめてです。そんな風によばれたの」

「僕のこともリドと呼んでくれる?」

「はい、リドさま」


 オフィーリアは宝物のように指輪を手で包む。


 瞳はまだ涙に濡れていたが、作られていない笑みが浮かんでいた。


 指に嵌めるにはまだ大きかったあの時の指輪。


 ──あの指輪だけが、ない。


 オフィーリアと共にあるだろう指輪。空になったその場所を指で撫でる。


 顔を上げ、踵を返す。


「王都内をくまなく探せ。この二日間で不審な馬車が王都から出ていないかも記録を洗い出せ。急げ」

「はっ」


 もう二日。事は急を要する。


 青褪めている侯爵家の面々を睥睨する。


「あなた方は私の婚約者をなんだと思っている。もしオフィーリアになにかあってみろ、全員断頭台送りにしてやるからな」


 もうこの屋敷ではオフィーリアに関する有益な話は聞けない。


「このまま城下へ行く。私が直接指揮を取る」


 指示を飛ばし、オフィーリアの痕跡のないこの場所を後にした。


続きまして、王太子のターンです。

王太子の頑張りを見てあげてください。

よろしくお願いします。

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