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『心理学者の実験記録』

これは、とある心理学者が残した実験記録の一部である。


なお、この文章には読者の心理状態を観察する目的の構成が含まれている。


もし途中で違和感や不快感を覚えた場合、それは正常な反応だ。


安心して読み進めてほしい。


 


では、始めよう。


 


人は、“意識した瞬間”から支配される。


例えば今。


あなたは呼吸を意識した。


瞬きも。


舌の位置も。


スマホを持つ指先の感覚も。


普段なら気にも留めない情報。


だが、一度認識すると脳はそこから離れられなくなる。


これを認知固定という。


そしてもう一つ。


人間は「違和感があります」と事前に伝えられると、無意識に違和感を探し始める。


つまり今のあなたは、この文章のどこかに“異常”があると思いながら読んでいる。


だが安心してほしい。


まだ実験は始まったばかりだ。


 


男は部屋に入った。




白い部屋だった。




机が一つ。




椅子が二つ。




時計。




観葉植物。




カーテン。




そして、

もう一つ。


男は少しだけ視線を動かした。


だが、それ以上気にする様子はない。


まるで最初から、

そこにあることを知っていたみたいに。


 


部屋には誰もいない。


少なくとも、男はそう認識していた。


時計の秒針だけが静かに響いている。


カチ。


カチ。


カチ。


もちろん、実際に音が鳴っているわけではない。


だが人間の脳は、不足した情報を勝手に補完する。


文字を読むだけで音を想像し。


視線という単語だけで背後を気にする。


不安という感情も、それと同じだ。


存在するから怖いのではない。


“存在するかもしれない”


その曖昧さこそが、人間を最も不安にさせる。


 


ところで。


ここまで読んで、一度だけスクロールを止めた人がいる。


あるいは、さっきの空白で少しだけ警戒したかもしれない。


何かが出てくると思った。


何か意味があると思った。


安心してほしい。


それも正常な反応だ。


人は“意味がある”と思わされた瞬間、無意識に答えを探し始める。


つまりあなたは、

文章ではなく。


自分の想像を読んでいた。


 


さて。


ここで実験は終了となる。


この文章に、明確な意味はほとんど存在しない。


怪異も。


伏線も。


答えもない。


だがあなたは意味を探した。


違和感を探した。


そして、“何かいる”と感じた。


つまりあなたが読んでいたのは物語ではない。


自分自身の恐怖だ。


 


人間は、意味のないノイズに意味を見出す。


心理学者は、それを知っている。


 


――『心理学者の実験記録』


被験者番号:


今、この文章を読んでいるあなた。



今回は

あなた自身の感情が物語です。

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