Ⅱ:朝の野営地の戦場侍女と戦士長エルリック
その戦場の朝は光と冷気に満ちていた。
朝の冷え込みは厳しい。
それゆえ薄っすらと朝霧が立ち上っている。
どこまでも広がる一面の草原に大規模な軍勢が野営をしていた。
緑一面の中に、帆布で作られた白い天幕がいくつか建ち並んでいる。
それらの天幕の中で、ひときわ大きく、常時、護衛の歩哨が立っている天幕がある。
その天幕の周辺には護衛の歩哨とともに、軽装鎧を身につけたワンピース作業衣装姿の女性たちがいる。
戦場にて、天幕の中の人物の身の回りの世話をするための戦場侍女である。
その時草原の方から1人の騎士が現れる。
青黒いいぶし銀の全身鎧に、襟元には赤いスカーフを巻いている。
髪の毛は茶髪でやや乱雑に切られている。目線は鋭く、戦場を幾度も駆け抜けてきたであろうことは容易にわかる。
彼が静かに歩みを近づけると、戦場侍女の女性たちは彼の名前を呼んだ。
「エルリック様」
「おはようございます、カリナ様にご用でしょうか?」
彼は魔法剣士騎士団アルカナヴァンガードの戦士長を勤めるエルリックである。
「勤めご苦労、聖剣の巫女様はすでにお目覚めか?」
「いえ、昨夜は遅くまでご公務に奔走してらっしゃいましたので」
「満月が少し傾く頃までお目覚めでいらっしゃいました」
その言葉にエルリックはため息をついた。
「またか……、あのお方に問題ごとがのしかかるのはできるだけ避けたいのだが」
戦場侍女の1人が微笑みを維持したままやんわりと告げる。
「致し方ありません。全ての軍団、全ての種族を一つにまとめられるのは、心優しきカリナ様以外をおいて他にはおられないのですから」
それすなわち、カリナのカリスマ性が全てを支えていると言っているのと同じなのだ。
「ああ、分かっている」
エルリックは頷いた。
「昨夜は、戦場糧食の供給問題に、連日連夜の、魔王軍暗殺部隊の夜襲だったな」
「はい、襲撃の知らせを受けてすぐに飛び出しておられましたから」
そこからは分かる。
襲撃者の特定と、迎撃部隊の選出と出陣、襲撃者の討伐と、負傷者の保護と続く。その全てにおいてカリナという少女に行動と役目が求められるのだ。
「私がこういうことを言うのも失礼ですが、わずか16歳の少女が背負いきれるものでしょうか?」
「大丈夫だ。全て背負わぬように、お支え申し上げるのが我ら側近たちの勤めだ」
「はい――」
「聖剣の巫女様を、無理に起こさずゆっくり休ませてくれ。少しでも疲れを取り払いたい」
「承知いたしました。お目覚めになられたらお知らせ申し上げます」
「うむ」
そう言葉を残して去っていく。
戦場侍女たちはエルリックに軽く会釈をするとそれぞれの役目に戻るのだった。





