Ⅰ:精霊エリュシオの独白と、鋼の悪夢
――カリナ・ウイングスという少女について――
野営用の戦場天幕――、その中に据えられている寝台ベッド、
そこには一人の少女が寝息を立てている。その枕元には一振りのバスタードソード――、金色に輝く聖剣レギオンブレイドが横たえられていた。
まるで、愛用のぬいぐるみのように。
そのバスタードソードの十字唾の根本には光り輝く聖なるクリスタルが埋め込まれている。そこに宿る一柱の精霊――
その精霊の語る言葉が聞こえてくる。
――――――――――――…………
私の名はエリュシオ、
聖剣レギオンブレイドに宿る一柱の精霊です。
この世界に生まれ落ちてから一千数百年の歳月を生きてきました。
長い歴史の中で現れては消える魔王とその軍勢たちを討ち果たすために、
幾人もの、勇者と呼ばれる気高き者たちの力になるべくともに歩んできました。
ある者は勇気あふれる少年であり、
あるものは気高き青年であり、
あるものは人生に枯れた壮年の男性であり、
小国の王女が復讐に燃えたこともあり、
大軍勢の将軍だった者が私を握ったこともある。
自己犠牲高き戦場医師が私の力をふるったこともあり、
罪深き盗賊がの我欲ために私を手にし、後に正義に目覚める命をかけて戦ったこともある。
私の前を通り過ぎて行った魂の数だけ、魔王が現れ、勇者が倒れて行きました。
人はそれを〝英霊〟と呼ぶんです。
私は精霊として、ささやかな力として、そのいにしえの勇者たちを英霊として現世に召喚することができます。
そして、それを現世の勇者の力として与えることができるのです。
私は今、新たな勇者と共に歩んでいます。
その娘の名前は〝カリナ〟
魔王軍に両親を殺され、6歳で私とめぐり逢い、戦いの運命に巻き込まれたかわいそうな子です。
その後4年にわたり、厳格な軍事国家の下で過酷な訓練を受けさせられ、
それをボロボロの状態で救い出されたのです。
あの子はそれから、聖剣レギオンブレイドを手にした〝勇者〟として、人々を導く運命を背負わされてしまうことになります。
私という存在と出会ったことで――
だからこそです。私はあの子を生涯支えなければならないのです。
私という運命から、逃げずにまっすぐ向き合った勇気ある子だから。
でも――、
1人きりの時はすごく泣き虫なんですよね。愚痴もこぼすし、弱音はすぐに吐く。
他人の目のないところでは私にすぐに甘えてくるんです。
その時のあの子は勇者になんか全く見えないんです。もともと繊細で心の弱い子だったから。
でもそれでいいと思ってます。
思い切り弱音を吐いて、泣き言を言うだけ言った後、あの子は必ずまた立ち上がるんです。
自分が何をするべきか分かっているから。
そして勇気を振り絞ってまた戦場に向かうんです。
勇気と覚悟を持って戦場に立つ時――、人々はあの子を〝勇者〟と呼ぶ。
魔王軍に立ち向かう覚悟ある人々を1つにまとめる〝旗印〟として。
その重さを背負うだけの覚悟を秘めた存在として。
そんなあの子を例えるならば〝うさぎ〟
巣穴の中からおっかなびっくり周りを眺めている。でも覚悟を決めた時ものすごい勢いで走り出すんです。自分の仲間や家族を守るために――
知ってますか? 野ウサギってその後ろ足で、敵を蹴り殺すこともあるんですよ?
あぁ、でも――
今ちょっと、悪夢にうなされてるようですから起こしてきますね。
それではまた――
§ ――――――――
目を明けた瞬間、勇者の少女カリナは息を呑んだ。
冷たい地面。鼻をつく金属の匂い。見たこともない暗がりの中に、仲間の姿はどこにもない。
エルリックも、ミリアも、ソフィアも――、誰一人いない。
自分ひとりであることに戦慄した。
「……ここ、どこ?」
返事はない。
胸の奥が嫌な音を立てる。何が起きたのか、何ひとつ分からない。
「エリュシオ、英霊召喚を!」
すがるように呼びかけた。左腰の剣から返ってきた声から語られた現実は残酷だった。
『不可能です。英霊神命簿への接続がありません』
「そんな……」
最も大切な力である英霊召喚が使えない。
それは、カリナが〝勇者〟である力を奪われたのと同じだった。
仲間もいない。
状況も分からない。
それでも、自分は指揮官なのに。
心が折れそうになる、そのときだった。
【――目を覚ませ、カリナ・ウィングス――】
「誰……?」
【――すまない。私は、失敗した――】
奇妙な声が脳裏に響いた。次の瞬間――
――ヴォオンッ――
音のする方に視線を向ければそこには――
「赤い瞳? サイクロプス?」
巨大な赤い隻眼の1つ目の鋼の巨人がゆっくりと身を起こそうとしていた。
カリナは反射的に聖剣を握りしめたが、その心には底しれぬ絶望が襲いかかろうとしていた。
――そして、情景はそこで途切れた。
少女カリナは、朝の日差しと呼びかけてくる声で、悪夢から目覚める事ができたのである。
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