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異端者共の両奇譚  作者: いなり凡サイダー
第一章 異変
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5/6

3.5捜索

何卒宜しくお願い致します。まだ学生なので更新は滅茶苦茶遅いです。

今回はちょっと短いですがよろしくお願いします

「ヒナゲシ!どこに行ったの?!」

 私は時折そう叫びながら廊下を走る。ヒナゲシがいなくなってから1日が経過した。あの後すぐに全員を集めて手分けして校舎内を走り回ったが、未だ見つかる気配は一向にない。

あまりにも見つからないため校舎の外に居る可能性まで考慮して、今日から校外組と校舎組で二手に別れて探すことにした。

私__モモは校舎組となった。ここまで探しても、一向に彼の姿はおろかいた痕跡すら見つからない。しかし、なんせこの学校は見た目よりかなり広いのだ…だから探しきれてないかもしれない。私はどこにいてもヒナゲシが聞いたらわかるように、名前を叫びながら走り続けている。

「おーい!

モモー!そっちはどう?」

廊下の奥の方から声がして、思わずそちらの方向を見た。

少し長髪の灰色の髪が揺れている。

手を振って駆けてきたのは、ペトラだった。


かなり走り回っていたのだろう、肩で息をしている。

「こっちは全然。そっちは何か見つけた?」

取り合えず成果は無いが報告だけはしておいた。もしかしたら手がかりがあるかもしれない…そう期待をこめて聞き返す。

ペトラは乱暴に袖で額の汗を拭い、苦しそうに口を開いた。

「…こっちも…

何もなかった……。」

 どうやら、どこも手がかりは見つからなかったらしい。


本当に、忽然と消えてしまった。

まるで神隠しのように…現れた時と同じように、本当に突然と。


覚えている限りでは、2階、3階は全て回ったはずだ。そして、今探索しているここは1階。

となると、

「あと行ってないのは地下かな。」

「まぁ……

校外組がどうだかはわからないけど、多分残ってるのはそこだけだね。」

 他にも何人かが校内を捜索しているから、まだ居ないかは確定しているわけではないが…恐らくは見つからないと思う。そうすれば、やはり残っているのは地下だけになる。

「取り合えず、全員と合流するか…。」

大きく溜息を吐き、苦々しい声でペトラは言った。

無言で私も頷く。

 なんせ地下は”広い”。

人数がいなければ始まらないから、一旦合流する方向に持っていくのは賛成だった。


                 


「結局、誰も何も見つけられなかったね…」

 思い立ったはいいものの、結局全員と合流できたのはそれから約5時間後。まともな連絡手段もないまま各地を探しに散らばったメンバーを集めるのは大変で、流石の私も全員合流できたときにはぜぇぜぇと息が荒くなっていた。


「で…

”地下”、行くんだっけ?」

紫がかった短い白髪に白いワイシャツを着たラシェが、机に突っ伏してなんともだるそうに答える。いつも着ている分厚いパーカーはどこかに脱いだのか、姿が見当たらなかった。

元々、彼はそこまで消極的な意見を言うようなタイプではないのだが…今日ばかりは、それも当然である。なんせ、かれこれ7時間近くもあたりを駆け回っているのだ。それに…、

「地下は立ち入り禁止だ。どうするつもりだ?」

シリウスが後ろから声をかける。

そう、その通り。私達が行こうとしている”地下”は、教師…上の奴らによって私達にとって ”危険” と判断して立ち入りを禁止されている場所だ。私は勿論、どんなに粗悪な奴らでさえ、足を踏み入れることはない。それに何しろ、行ったことがないので何がどのように危険なのかもさっぱりわからない。対策を練ろうにも、情報が無いのだ。本来であれば、常識的な概念からまず最初にそこを候補から外す。”あそこにわざわざ行くやつがいるわけがない”からだ。

…が、今回は違う。相手はヒナゲシだ。彼はその常識を知らない。

そして…もう残されているのも、そこしかないのだ。


美しく長い白髪は光に照らされて銀色に輝き、その身長も相まって発言に凄味が増す。

皆も、残るはそこしかない…そう、分かっているはずだ。だが、心なしか、皆の心も反対側に傾く。

「嫌だったら来なくていい。

どうせ先生に怒られるのは分かりきってるし」

疲労からだろうか、突き放すような口調になった。

すると、シュリがなにか言いたげにもじもじしている。そちらに視線を向けると、驚いたように肩が跳ね、その後おろおろとしながら話し始めた。

「えっえっと…

せっ先生に、相談…しないの?」

 確かに相談すれば、先生が協力してくれて探すのがもっと楽になる。でも

「だって先生から逃げてる途中にいなくなったんだよ?ヒナゲシがいなくなったってことは先生が動く。でも、その前に上の大人に報告しなきゃいけない。勿論原因は私達が授業をさぼったからだから私たちが悪いけど、もし

”先生のせいでいなくなった”

と上の大人達が判断したらどうする?」

「.......その場合先生が死ぬ可能性がありますね」

 静かにシリウスが頷く。

そう、私達は国の上部に間接的に支配されていると言っても過言ではない。何かするにしろ何もしないにしろ、都度都度上に報告をし許可をとらないと先生も私達も動けないのだ。

私達は未成年だからなにかやらかしても殺されることはないけれど、先生たちは成人だ。

半人外である生徒を失った__逃がしたと上が知れば、たとえ原因が全て私達にあったとしても、その責任を擦り付けられ…将来的に殺される可能性が非常に高い。

しかし、それは逆に言えば先生に気づかれないうちに勝手に解決すれば問題はないということだ。

「あっ…

ご、ごめんなさい…」

シュリの声はか細くなって、今にも泣きそうである。

そんな彼を庇うようにそっとライラが口を開いた。

「でも…どっちみち明後日の授業に出席しなければ、結果的に先生の責任になるよね?」

「そう。つまり今の時刻的に遅いから今日はもう探せない、となると残り時間は一日とちょっと…」

「つまりは、明日中に見つけないと面倒なことになる、ということですね。」

すると、今まで黙っていたオリがそうまとめた。

(まさにその通り!!)

彼女の声には、やはり場を落ち着かせる何かがある。皆の顔が一層険しくなったのと同時に、全員が現状をしっかりと理解して少し連帯感が生まれたのをモモは感じた。

「改めて言うけど、そういうことだから私は地下を探しに行こうと思う。

他に行きたい人はいる?できれば男手も借りたいところなんだけど....。」

 なんせどこにいるのもわからないのは勿論、何があるかもわからないのだ。ヒナゲシがいるにしろいないにしろ、脅威である事実に変わりはない。それに…仮に”奴ら”がいた場合非戦闘特化型の多い女子だと万が一の場合困る。本心として、できれば力があって体力もある男子がいたほうが心強いのだ。


「わかった。

俺は一緒に行くことにする」

少し緊張した面持ちで、キングが声を上げた。

「…俺も行く。」

「…」

「ったく……

わあったよ、行けばいいんだろ」

そんな彼に続くように、ハルとライ、メルトが手を挙げる。

「僕も行くよ」

「ぼっ僕も…僕も行く!」

「私も微力ながら力にさせて頂戴」

遠慮がちに、しかしはっきりとペトラ、シュリ、オリも手を挙げた。

1、2、3…丁度私含め8人である。

「じゃあ残りの子は..」

「私達はもう少し周辺を探すのと、もし見つからなかったときの言い訳でも考えておきましょう」

「シリウス、ありがとう」

「この状況に自身の保全を選んだ身です。礼はいりません。」

 彼はそう言って髪の毛を揺らした。別にこの状況で保身を選ぶのは全く悪いことでもないし、どちらかというと自ら処罰の対象になろうとして出てきた人たちのほうがちょっと変わってるとも言える。だから表面はどこか突き放しているように見えてもヒナゲシのことを心配しているんだろうと私は思うし”元のあの子”じゃなくても心配してくれていることに私は嬉しくなった。

「じゃあ行こうか」

 私は方向を変えて地下の方向に歩き出した。

「そうだな!」

「シリウス、頼んだわよ。

皆もよろしくね…絶対にヒナゲシを見つけるわ。」

キングとオリが残る子達に手を振りながら、私のあとについてくる。それに続いて、男子達もやれやれといった感じで歩き出した。



 少し教室を離れると、すぐに薄い人の気配もしなくなる。

誰も口を開こうとしないまま、靴のコツコツという音だけが廊下に響き渡った。

改めて、今までの流れを思い返して探し忘れた場所が無いか考える。勘違いしがちだが、まだ地下にヒナゲシがいると決まったわけではない。ただ、今の状況では思いつく場所が他にないのも事実だ。

続いてモモは地下について思いを巡らせる。今まで行ったことがない全くの未知の空間、なにがいるかもわからない場所。いや、それ以前の問題だ。本当に、”地下”なんていう場所はあるのだろうか?モモは薄々考え続けていることがあった。初めてここに来た時から、くどいほど言われ続けた規則、”地下に行ってはいけない”。でも、もしかしたら、その地下には何もないのではないか?もしかしたら、私たちは存在もしないものを恐れて、触れないようにしていたのではないか?もしかしたら、戦争なんて元から無かったのではないか?もしかしたら、半人外なんていなかったのではないか?もしかしたら、私達は本当は夢を見ているのではないか?

長い長い、一生覚めることのない、終わりのない夢を?____


それは、モモが気が付けばいつも薄々と感じていることだった。賑やかな会話を聞いている時、ひとりでに窓の外を眺める時間、授業を聞きながら机の木目を数える時…

ふとしたときに、ではない。いつも、それは自分の傍にいた。

そして、それは側で囁くのだ__



ガチャガチャという少し乱暴な金属音が前からして、ハッと我に返る。

前で、ライとキングが入り口にかかった鎖を外していた。まだぼんやりとした頭で窓を見る。

外の景色は、文字通り塗りつぶされたような黒だった。そのまま、近くの壁にかかった時計に目をやる。針はほぼ真上に触れていて、そろそろ長針が追い越しそうだ。

もう深夜に差し掛かっている。思えば、私たちは2日ほど寝ないままヒナゲシを探しているのだ。

ずっと長い間、ぼんやりしていた気がする。だいぶ眠気が強い。


「…ふぅ」

薄く息を吐く。休んでいる暇なんてないのだ。

一度足らず二度までもヒナゲシを見失ってしまってはもうヒナゲシに面目が立たない。


文字通り、死ぬ気で探すしかないのだ。




 少し苦戦しつつも、ようやくドアにかかった鎖が外れたようだ。

中は暗くてよく見えない。事前に持ってきた懐中電灯をつける。懐中電灯が階段を照らした。下に階段が続いてる。

「じゃあ、皆。

 …行くよ」

 自分に言い聞かせるように呟いて階段に足をかけた。私を先頭に2列に並び、そのままゆっくりと足元を照らしながら階段を降りていく。足を踏み外さないように一歩一歩ゆっくりと降りていった。

「こっ怖いよっ…!」

少し後ろからシュリの声がする。

私以外に懐中電灯を持っているのは二人、ペトラとメルト。シュリは懐中電灯を持っていないから、足元が暗くて不安なのかもしれない。

全容はわからないが、かなり広いのだろう…靴の音と声が反響して、雫のようにこだましていく。


 しばらく階段を降りて、やっと確かな地面に足がついた。

 埃っぽい匂いがつんと鼻につく。懐中電灯で前を照らしても何かこれといった物体はなく、しばらく果てしない暗闇が続いていた。地面を照らすと全体的に埃が被っていて黒いはずの床が白くなっている。

「おい、見ろ!!」

黒い容姿が暗闇のせいで溶けこんでいるメルトが不意に叫んだ。彼の指がある方向を指さしている。すぐさま懐中電灯の光を向けると、少し埃を被っていたが他の地面より明らかに埃が少ない場所___足跡があった。

「これっ…

ヒナゲシのじゃないか?!」

キングが驚いたように言った。

「やっぱり地下に来てたんですね...。」

「ってことはヒナゲシは...」

「ここに来たってことだね」

 ハルは確信したように頷いた。

全員が、示し合わせたようにその先を照らす。

「足跡が奥に続いてる…」

 確かに足跡は奥へと続いている。ただ闇が深くて懐中電灯の光だけだと奥があまり見えない。

「一旦追うぞ。」

 キングはそう言った直後に走り出した。

 反射的に、私たちは彼を追うようにして駆け出す。


 彼は止まる気配を見せず、ただひたすらに足跡を追って走り続ける。しかし、突然止まった。だいぶ長い距離を走ったので息がカラカラだ。

「ちょっ…とっ…

いきなり走らないでよっ」

 オリがはぁはぁと息を吐きながら駆け寄っていき彼の肩に手を掛けた。

「なん、だ、

これ...」

 彼の体力は無尽蔵なんだろうか、確かにいつもより呼吸は速いが、息が切れた気配がない。オリに気を止めることが無く、不意に彼は言葉を零した。

「ぇ?」

 驚いた彼女がゆっくりと視線を上げる。

 そこにあったのは無数の鏡だった。

 そのあとから残りの5人が駆けつける。皆同じように左右上下に広がる鏡の光景に圧倒されている。

「な、に…これ....」

 そうシュリが言葉を漏らした。

 道はまだ先に続いている。鏡だらけの空間がアーケードのようにずらりとならんで何故かそれぞれが宙に浮かんでいる。まるでそこに壁があるかのように静止した状態で存在していた。

「足跡は…まだ、奥に続いていますね」

「この鏡は何を写しているんだ?」

 7人が揃ってまるで美術館で展示物を見るように皆鏡の中を覗き込んでいた。

 それぞれには色んなものが映し出されていた。藤の花が天井から垂れ下がっており池が広がっている中心には棺のようなものが浮かんでいる光景や、同じく棺が天井から長さが違う四箇所の紐のような何かでつられている光景であったり…古びた教会、明晰夢の中で出てきそうな家々が立ち並ぶ光景、壊れた機械やコンピューターが立ち並んでいたり、なにかの駅のようなもの、コインロッカーが立ち並ぶ暗い空間であったり、まるで監視カメラのようなものでも…。

まるで、鏡の向こう側には世界が続いているような…それこそ、不気味な絵画を文字通り外側から鑑賞しているような…。

私達と”同じ私達”を映すはずの鏡が全く違う”別の”光景を映し出していることに、どこか不気味なものを感じた。

「なんで、全部写してるものが違うんだろう」

 誰かが同じようなことを呟いた。

「足跡はもっと先に続いてますね...」

 結構歩いたはずだが…それでも、ライトで足跡を照らしていて確かに足跡は更に奥へと続いている。

「追うしかない、か」

「今のところ危険なものはいなさそうですしね」

確かにこれと言って危険なことは起きていない。不気味ではあるが、それと同時に何もないのも事実だ。逆にここまで何もないと、あれほど先生が行くなと念を押していたのが疑問に思えてくる。

しかし、もしかしたら足跡以外にも手がかりがあるかもしれない。モモは、足を進めながらも注意深く周りを観察した。

(にしても…あのヒナゲシがこんな暗いとこ一人で行けるのかな?)

 途中他にも見てない鏡があったが、とりあえず一旦保留にして足跡を追う方を優先する。

 今度は走らず一歩一歩足元を確かめながら進んだ。


「ここで足跡は止まってるね…」

 ふと、ペトラがそう言って立ち止まった。

さっきの場所からはそれほど離れておらず、体感で3分ほど歩いたような感覚だ。

皆、何も言わず自然と上を見上げる。

眼の前には大きな鏡が一つ、その先を塞ぐように居座っていた。額縁は錆びついた金属が鈍く照って、懐中電灯の光を反射している。鏡を越して向こうに行けるだろうかと懐中電灯を向けるも、何故か暗闇に包まれてさっきまで見えていた鏡は全く見えず、地面すら目に映らなかった。

 試しに床に落ちていた木片を先に向かって放り投げる。その欠片は、落ちるでも地面に転がるでもなく、突然ふっと消えた。思わず皆と顔を見合わせる。何故か、井戸の底の深さを調べるために、小石を投げ入れて音を聞いて確かめるという逸話を思い出した。

少なくとも、どうやらこの先は進むことができないようだ。

 仕方がないので、鏡に視線を戻す。今までの鏡とは違って、この鏡だけは何も写していなかった。

「なんにもうつってないね。」

シュリが指でコンコンと鏡を叩く、音的には普通の鏡と大差ない。足跡はこの鏡の前で止まっていた。まるで鏡の中にヒナゲシが入ったようだった。

「この鏡、ちょっと調べてみようか」

 私はそう提案する。皆も無言で頷き、調査が始まった。

 まず、鏡が動くか試してみる。しかし、割る勢いで男子に殴らせてみたけれど鏡は割れもしなければ微動だにすらしない。

 周辺になにかないか探して見たが特になにもなく埃が積もった床に自分たちの足跡が残るだけだった。

 そうして動き回った末万事休すといった状態で鏡の前に座りこんでしばらくじっと鏡を見つめていた。

 すると突然鏡の中から音がし始めた。

 コツコツと何かが歩く音がジワリジワリと近づいてくる。何も映していなかった真っ暗な鏡が音に合わせて水門ができ、波打ってくる。

 そして間髪入れずに全員が鏡の前に各々が持っている武器を構えた。

 だんだんと鏡の黒が薄れ白い世界が見えてくる。そしてぼんやりと人型が映って見えた。

 そしてほとんど色がクリアになっていく地面が黒い線で縁取られた正方形の白いタイルが地平線の果てまで続いて真っ白い世界が映し出される。それと同時に人型が完全に映し出される。

 見た瞬間わかった。ぼんやりと現れたそれと同時に思い出される記憶2日前まで毎日見た顔。

「ヒナゲシ!!」


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