3.迷子
やっと投稿できた誰か読んでくれええ面白いことかけるのようにがんばりますので
__ここは?
ふと目線を上げる。視界には真っ白な世界を区切るような線が地平線まで伸びていた。
足元が冷たい。どうやらそれは地面全体に張っている水のようだった。
思わず後ずさり、次に足を踏み入れた時のぐにゃりとした形容しがたい感覚に驚き思わずへたりこむ。
ぱしゃりと軽い音を立てて水面が少し揺らいだ。服も、手も、濡れている感覚は全くない。
その不思議な状態が凄く気持ち悪かった。
ここは一体どこなのだろうか、先程までは訳も分からず奇声を発しながら誰かから必死に逃げていたというのに…気づけばこのありさまだ。一体全体どういうことなんだろう。どう考えても理解しがたい状況なのに、頭は何故か冷静だった。
静かな海のような周りの景色の行きつく先が気になってぐるりと全体を見渡すも、全く風景は変わらない。
ただ、水面の上にぽつぽつと区切られた四角のようなものが無数に、無限に、広がっている。線が無限に交差し直角に交わり続けていると言ってもおかしくはない。
何もないはずなのに、頭がガンガンと痛いような、ふわふわと浮くような、不思議な感覚。
__頭がおかしくなりそうだ。
しばらく辺りを見渡していたが、誰かがいる気配もなく、ただ静かな空間だけが響いている。先程のぐにゃりとした感覚を思い出し恐怖を感じるも、ここで踏み出さないと何も始まらないと決心し、そっと立ち上がって一歩を踏み出した。すると、予想に反してしっかりとした安定感が足元に帰ってくる。そのまま少しずつ歩みを進めるも、反発力は弱く、最初の感覚が夢だったのではないかと感じるほどに歩きやすかった。
基本的に音はしないけれど、歩くとちゃぽちゃぽと子気味の良い水の音が鳴って心なしか楽しい。また、無機質な四角の景色も気づけばころころと変わり始めていた。小さな花畑の真ん中にひっそりと建っている墓、霧が深すぎて行けなかったところ、ハートマークの壊れかけたオブジェ、吊るされた棺桶、大量の富士の花の奥に棺桶…。
本当にここはどこなんだろうか。まるで誰かの夢の中を覗いているような、現実というにはかなり曖昧で気まぐれな世界だ。
一体どのくらい歩いたのかはわからない。でも、結構いい運動にはなっている気がする。
もしかしたら実際には一歩も進んでいないのかもしれないし、はたまた僕の想像するよりも遥かに遠い場所にいるのかもしれないし、そうでもなくもしかしたらここは現実に存在する場所でもないのかもしれないけれど、それでもいいのかもしれない、と思わせるような何かがここにはあった。
それにしても、不思議と空腹を感じない。口の乾きもないし、視界も良好____
『___暗い』
勘違いじゃなかった。
黒い。言葉通り、視界がさっきより暗い。いや、暗くなっている。段々視界が奪われていくような、じわじわと広がる潜在的な恐怖。
何かが
「君、迷子?」
目と鼻の先に誰かの顔がある。誰かがもとからそこにいた、ではなく急に湧いて出てきたというほうが明確かもしれないが…そんなことより
__近すぎて見えないっ…!!
『ひっ…!!』
突如現れた自分以外の人間。本能的に自分の体がのけぞった。喉の奥からくぐもった声が漏れ、そのままの体制でバシャリと派手な音を立てて水面に手をつく。
そこにいたのは、黄髪の少女だった。横髪のクセが強く、目はくっきりとしている。でも、瞳は吸い込まれそうなくらい黒かった。
ぐるぐると渦巻いたその瞳を見つめていると、いつしか自分が飲み込まれてしまいそうで、怖くなって思わず目をそらす。すると、痺れを切らしたのか彼女がまた喋り出した。
「おーい。
…あれ、聞こえてないのかな?」
___聞こえてるけど怖いんだよ!!
静かに心の中で叫ぶ。
「怖い?何が怖いの?」
そう言うと、彼女はにっこりと笑った。口角が上がって、目が細められる動作がやけにゆっくりと目に焼き付けられる。目が、笑っていない。ぞっと背中が震える。
だって…そう呟こうとして初めて、自分はまだ一言も喋っていないことに気が付いた。
なら、どうして…喋ってなんかいないはずなのに、思ったことが伝わったのだろうか。
彼女はその顔のまま、左手を僕の方に伸ばして来る。
普通だったら手を取って立ち上がればいいのだが、僕の頭の中には果てしない「これから何をされるんだろう」という疑問が渦巻いていた。
彼女が僕に向ける目線は明らかに並大抵のものではない。
どこかに案内?…どこに連れていかれるのかわからない。ここから出れる?…確かに彼女は何か知っていそうだけど……いや、もしかしたら、
…もしかしたら、殺されるかもしれない。
一度思い至ってしまえばもうそうとしか思えない。
彼女が僕に向ける刺すような目が…この視線の持つ意味が、”殺意”だったとしたら…?
そうだとしたら…もう、逃げ出そうと思うほかなかった。
後ろを振り返る間もなく、バッと身を翻して逃げ出す。
震える目にちらっと映った彼女の腕には、大量の切り傷があった。痛そうだな、と一瞬思うも、すぐ恐怖が戻ってきて頭を振る。
バシャバシャと派手な音を立てて水面が揺れた。
そう、全力で逃げていたんだ。だって、どうしようもなく怖かったから。
どこに行くか、なんて考えなかった。
とにかくここを離れたい、ここにいてはいけない、怖い、死にたくない…!!!
「どこに行かれるんですか?」
『っ…?!』
突然、がくんと体が止まったかと思えば、左腕を誰かに掴まれた。
青年だ。
すらっとした格好で、青紫色のロングウルフカットの青年。糸目なのか、ぱっと見は目を瞑っているようで、一目見ただけでは何を考えているのかわからない。
彼も、あの少女と同じで、気が付いたらそこにいた。さっきまで周りには彼女しかいなかったはずなのに…
…違う、そんなことを考えてる場合じゃない、とにかく今はここから離れないと…!!
必死に腕を振り解こうとしても、驚くことにびくともしない。
驚愕してもう一度彼を振り返るも、あくまで飄々とした表情でこちらを見据えている。見た目はすごく落ち着いているのにやっていることはただの力技…。ギャップで頭が狂ってしまいそうである。
(僕、学校の中じゃ結構力が強かったはずなのに…)
『っ…』
もう一度全力で振り解こうとしても、やはり彼の手は動かない。それどころか、さっきより力が強まっているように感じる。
視界の端にさっきの少女が映った気がした。
みるみる冷や汗が額を伝う。焦って全身を使って逃げ出そうとするも、結局状況が改善することは無かった。
この青年、目を瞑って微笑んでいるけれど…きっと、その目はさっきの少女と同じなのだろう。
そういえば、彼は何と言っていただろうか?
確か___
__どこに行かれるんですか?
そうだ、きっと彼らは僕を迷子だと思って捕まえているに違いない。
それならとにかく自分が迷子じゃないということを証明せねば…!
僕はなるべく声を張り上げて、きっぱりと言った。
『離してください!僕は迷子なんかじゃありません。ただちょっと迷っただけです!!』
「迷子だね。」
「....迷子じゃないですか。」
___駄目だったー!!
しかしもう他の言い訳も思いつかないわけで…まぁ、もう結局はこの人たちに煮るなり焼くなり好きにしろ状態ってこと…
…非常にまずいかもしれないぞ…???
「大丈夫!僕ね迷子初めて見たから、あとから来る二人にも伝えてみてみんなのところ行こう!」
さっきほど伸ばされた手はぽんと頭の上に置かれよしよしとされた。反射的に体がびくりと震えるも、予想外の感触になんだかむずかゆい気分である。
…まぁ、どうやらまだ僕は殺されることはないらしい。
そもそも出会った時点でいきなり殺されることのほうが稀なのだから、なぜこんなに焦っていたのか滑稽で仕方ないが…
でも、あの時はなぜか直感的に殺されると感じてしまっていた。
「あ、おーい」
突如、後ろから大きな声がする。
「なーに?」
続いて、平坦な声がした。
一瞬だった。
2人。
今の一瞬で、僕の周りを4人が囲むことになった。
全員、気配はしない。水面に映る影も、僕以外が歪んでいる。それがどうにかなりそうなほど異常に怖い。
「おーどした。」
怠そうに首をかしげたのは、僕の前に現れた白髪に青のメッシュが入った髪色の男の人。もちろんのことながら、目は夜闇よりも深い黒だ。
また、背筋が凍るようなおぞましい恐怖が僕を襲う。それをできるだけ視界に入れないように思わず目を瞑ってしゃがみ込んだ。頭上から、話し合う声が続いている。
「なんか見つけたよ。初めての迷子。面白いから教室に持ち帰ってみようよ」
「???えーと。どーゆーこと?」
誰だろう。最初の黄髪の彼女の声に続いて、新しい声が聞こえる。目を瞑っているので姿がわからないけれど、恐らく女子だろう。
「つまり、イレギュラーを発見したので持ち帰ってシンヤに見せたいということです。」
さっき僕の腕を掴んだ__いや、現在進行系で掴まれているのだが__男子の声だ。
「なるほどぉ」
「じゃあ持っていきましょうかね」
「たまには地下探索も発見あるんだね」
「そういうこと言うなって...」
彼らには僕が見えていないのだろうか?
そう思えてしまうほど、話はハイテンポに進んでいく。
___シンヤ?
沢山出てくる聞き覚えのない言葉の中、これだけがやけに鮮明に脳裏に焼き付いている。なぜなら、それは記憶がほとんどない今でも、唯一覚えていた名前だったからだ。
なんでだろう。すごく会いたくない。
昔彼となにかがあったことは明白だ。もしかしたら、もしかしたら…彼に会うことで何か記憶が戻るかもしれない。
ふと、手をぎゅっと握られて立たされた。
最初、僕はそれが手を握られたのだと気づかなかった。
その手は、驚くほど冷たかった。
『うわっ…』
驚いて声が漏れる。
ほんの数秒、ウルフカットの男子と目を合わせた。
さっきは閉じられていた目が、開けられていた。やはり彼の目も塗りつぶしたような黒で、白い円が何重にも重なっている。
長時間見ていると脳みそから侵食されるような、そんな恐怖を感じた。
僕が急に立ち上がった衝撃でぼーっとしていると、メッシュ入りの男子が気まずそうに話しかける。
「そんじゃ。迷子の...。」
なぜか、そこで彼は言葉に詰まった。
(そういえば、まだ名前を言っていなかった…)
急に喉がカラカラと乾く。ごくりと唾を飲み込んで、僕は意を決して口を開いた。
『ヒナゲシ、です。』
「・・・・」
彼は一瞬目を開いて驚いたような顔をした…ように見えた。
それはあまりにも一瞬の表情だった。
心なしか、その表情をどこかで見たことがあるような気がするのは気のせいだろうか。
でも、その思考はすぐに彼の言葉によってかき消された。
「そんじゃ、迷子のヒナゲシさん…僕らと一緒に来ていただきましょうか__
__僕らの住処へ。」
僕は4人組の後ろをつくようにして歩いている。
とりあえず腕は離してもらったがじんわりと痛さは残っていて、さっき長袖をまくって見てみれば手形が真っ青になっていて正直ちょっと気持ち悪い。
今の逃げ出さなければ確実にシンヤと呼ばれる人物(?)に会うことになる。しかしこの空気感で逃げ出せるとは到底思えなかった。
そして恐らくここで逃げ出せば多分確実に自分は死ぬ。
ここの空間を移動しているときに明らかにやばい場所がいくつかあった。
しかしこの前の4人はそんなものは全然気にしないで歩いていた。恐らく彼らは耐性があるかなんらかの力でここの影響を受けないんだろう。
___本当にどこなんだここは。
今わかっているのは、やばい人類に遭遇したことと、怪奇現象が起こる世界が延々とあるだけ、どうやってあそこに戻るのかは全然わからないまま。
恐らくでしかないがここは表のどこかというわけはなく別の世界、または空間、世界線なんだろう。
ぼーっとしながら歩いていると眼の前に階段が現れた。
「階段...?」
「うん、どうぞあがって、別に取って食おうってわけじゃないから」
ツインテールの女子が明るく言う。先程わからなかった声の主はこの子だろう。白髮のきれいな髪をしていた。
そうして言われるがまま踏み外さないように階段を登る。
ゆっくり上がった先にあったのは
___学校?
古びた学校のような建物だった。階段の先は古い教室っぽくなっていて、教室はコンクリートでできているであろうモノだったが、損壊がひどく屋根が陥没していて学校全体が見える。ところどころ陥没していたり教室が半壊していたり教室であろう場所に木が生えているところも見えた。
「おーいどうしたの?早くいこーよー」
気づいたらまた4人の一番うしろにいて黄色の髪の女子に呼びかけをされた。
その後も古びた廊下を歩く、後ろを歩いていて気づいたが4人とも制服のような格好をしているのでもしかしたら彼らはここの学校の生徒なのかもしれない。
ひび割れや水たまり、藻が生い茂っている廊下を歩き、崩れて土砂崩れみたいになった階段を登ってまた少し歩き、ある教室の前にたったとき動きが止まった。
「ここ、ヒナゲシさん入って」
教室のドアにガラスがないから完全に中の様子はわからない。
多少の緊張とともにゆっくり教室の中に入った。
「じゃーん!この子はヒナゲシ中間点で見た迷子ちゃんです。いやー迷子ってほんとにいるんだね~いい収穫じゃない⁉️」
一歩入った先から押し込まれるようにして後ろから黄髪のやつが飛びついてきた。
視界に一瞬人間ではないなにかがたくさん見えた気がしたが本当に一瞬だ。
結局視界に映るのは目の中が渦巻くどす黒い人間たち、それがすべて自分に向けられている。
頭がくらくらした。
意識が瞬間遠くなる。
一瞬であつまった黒くて気持ち悪い何かが僕を呑み込もうとしている。
ちょっとだけ焦った声が聞こえた気がした。
次に目を覚ましたときにいたのはさっきの教室ではなく別の部屋だった。
「っ!!」
「あっ起きた」
そばにいたのは先程のツインテールの少女に似ていたが眼球が真っ黒ではなく瞳孔が大きいだけの白髪の少女だった。不思議と安心させる顔だった。不思議と気持ち悪くもなくスッと溶け込むかんじがする
「急に倒れたからびっくりしましたよ。」
「すみません....」
「いやいやこっちが無理やり連れてきたことですしね。それより体調の方は大丈夫ですか?急に倒れたからびっくりしました。」
確かに無理やりといえば無理やりな気もする。
それより僕には気になったことがある。
「はい、大丈夫です。それよりさっきの人たちは..?」
先程の若干トラウマになりそうな暗くてどろどろした色はなんだったのだろうか. 見ていると気持ち悪くなったあれはグロテスクなモノを見たときと同じ感触だった。
「嗚呼、さっきのね。あれは私のクラスメイトのようなものよ。」
….クラスメイトのようなもの?
「うーんなんていえばいいんだろう... 」
また心を読まれた気がする・・
「まぁあいつらもあなたのことが気になってるのよ。それにほら、外にもいる。あいつら以外にも君は不思議なんだろうね。」
寝かされていた部屋の扉には教室のドアのように外が覗き見できるようになっていた。そこに視線を移す。廊下が暗くてあまり見えなかったが目を凝らしてじっと見る。するとぼんやりと部屋の電気を反射した光がたくさん目の前に広がって一瞬恐怖した。確かに先程から誰かに見られているような心地の悪い感じはしていたが、猫のような光り方をしたなにかが怖かった。
「わあああああっ」
思わず大声を出し、ついでにものすごい勢いで部屋の一番奥まで移動した。
すると、ツインテールの女子がけらけらと笑いながら言った。
どうやら久しぶりの来客に全員興味深々らしい。だから許してやってくれと言っていた。
「しっかし君面白いね。でもごめんね。びっくりさせちゃったかな?まぁ流石に目ににじろじろ見られてたら驚きもするか、」
目に..?
それからよいしょっと彼女は言って立ち上がりさっきのドアの方へ歩いていく、それからドアを開けて『迷子ちゃんビビらせちゃ駄目でしょほら散った散った。』と言い放つ、自分では人の気配なんてわからないが恐らくさっきの目はどこかへ行ったようだ。ちょっとだけ緊張感はほぐれた気がする。
「よしこれで大丈夫だろうけど、こういうイレギュラーに詳しいシンヤっていうやつがいるんだけど生憎今はいなくて、どうしようかなってなってるんだけど...ごめんね色々。」
頭の中に残っていたシンヤという人はあんまり会いたくないというのが直感的にわかっていたので今は会わずにすみそうだったので命拾いはしただろうか。
まぁしかしとにかく会いたくないと体が言っているだけで記憶でどんなことがあったかは全然思い出せない、なぜ自分はそんなにシンヤという人物に接触したがらないんだろうか。
「大丈夫です。具合もだいぶ良くなりました。えーっとこのあと僕はどうすればいいんでしょうか。もう一回さっきのところに戻ったほうがいいですか?」
先程倒れたところに自分から行こうかなと言うのは若干馬鹿の所業な気もするけれど、もしかしたらここがどこなのかわかるような気もして申し出てみた。
「そうねぇ私もよくわからないんだけど、一緒に来る?今行けばきっと怖くないはずだから」
(???怖くないって僕が怖かったのわかったのか?まぁ僕の態度をみればビビり散らかしてるのもわかるか、,,,)
「まぁはいさっきみたいにならなければ多分大丈夫です。」
「そう?わかったじゃあ一緒に行こうか」
そういって彼女は僕に手差し出してきた。僕はそっと手をとる。ゆっくりと立ち上がった。
彼女が前を歩く形で僕は彼女についていった。どうやらそこの部屋はさっきの教室からそこまで離れていないようで軽く数メートルあるけばさっきの教室の前だった。
浅く深呼吸をする。もしまたさっきのような感じだったらどうしようか少し不安になる。けれど彼女を信じようと思った。
そして彼女はゆっくりとドアを開ける。建付けが悪いのか引き戸を開ける時ギギギと音を立てながらそのドアは開いた。
「入ってきていいよ。」
教室の半分ぐらいまで彼女は入り手招きをする。
僕は恐る恐るゆっくり入る。
「あっ」
先ほどとは違い今度は威圧感などはなく目線をぐっとあげる。
(普通の生徒だ‼)
そこにいたのはただの生徒だった。
生徒の一人が立ち上がってこっちに近づいてくる。
黄髪の癖がある女の子...先ほど一緒にいた女子に近い格好をした女子が近づいてきて僕の両手を勢いよく握った。
「さっきはごめんね!倒れたから心配してて元気そうでよかった。」
明るく話す彼女は数刻前にであった彼女にすごく似ていて言動も見た限りでは先ほどの少女のようだった。ただ決定的に違うのはなんと言っても瞳だった。ブラックホールのような目をしているのに今はきれいな黄色で全力で教室の天井のライトを反射している。ただやはり瞳孔が大きかった。不思議に思いつつも聞いてみることにした。
「あっあの..さっきの人ですか?」
「人?」
一瞬それはなんのことかという顔をしていたがすぐハッと気づいた顔をして
「あっああなるほど...うんさっき君を連れてきたのは僕だよ」
「でもなんかちょっと変?」
「なに?どこが変?何にも変わってないよ?どうした迷子君」
「えんなんか目とかがhn...。」
「ねぇだから?なにが変なの」
「いっいえ大丈夫です。」
どうやら目のことは聞かない方がよさそうだ。なにもかわってないという言葉にも少し圧があった。あれを俗にいう地雷というやつなのだろうか。とにかくここでそれを言うと不利になることが確定していたし、こんな知らない場所で今現在最初にであった人とトラブルを起こすわけにはいかない。取り合えずなにもなかったことにしておこう。
「そっか。君面白いね。ところで君は人間?」
人間以外のなにがあるんだろうかと思ったが僕はこの人達からみて猫かなにかにでも見えているんだろうか。
「はい?人間ですけど」
そういった瞬間、今まで無言で僕らを見つめていた人達が急に立ち上がってこちらにくる。僕が慌てていると前方にいた何人かが僕のすぐ近くにやってくる。そのまま手がこちらまで伸びてくる。一瞬怖くて目をつぶったがその手は僕の頬まで伸びてむにっと僕の頬をつまんだむにっとした感覚と冷たい感触が肌に伝わってくる。
「わっ」
「すげー!!」
僕がいきなり触られたことに驚いていると、どうやら僕の頬をつまんだ誰かが声を上げた。
「これが人間か。」
「ちゃんと触るの初めてかも」
「あったかい」
「むにむにしてる」
「かわいい」
「いつも見てるのは冷たいからね」
「ねぇ君どこから来たの?」
「どっち出身?こっちそれとも向こう?」
「友達とか家族とかいるの?」
「迷子ってどこで迷子になったのやっぱり下?」
(これが人間かってこの人たちも人間だよな...?)
一人が触ると我先にといった風にいろんな手が伸びてきた。どの手も冷たくて保冷材のようだった。頭を撫でられたり頬をつんつんしたりといった感じで完全な玩具にいろんなところに気をつかったりひっきりなしな質問攻めにおろおろしてしどろもどろといった感じだ。
それがまた面白いのか男女関係なく自分の周りを囲んでがやがやとしていた。
「ほどほどにしなさいよ」
声の方に目線をやると教室のドア付近に寄りかかっている人が目についた。
ほかの人は興味深々といった感じで近づいてきたのに、あの人だけは教室の奥でじっとこちらを見つめたまま動こうとしていなかった。ただ単に興味がなかっただけなのだろうが、なぜかこちらの気を引く何かがあった。あの人は一体誰なのだろう、よく見れば誰かにに似ている気がした。
「あっあの」
頭をふさふさと撫でていた一人に声をかけてみた。
「どうしたの?」
「あっあそこにいる人って」
「??誰もいないよ?」
そう言って指を指した先には誰もいなかった。煙のようにすっと消えていったようだった。一体さっきのは誰だったのだろうか。思いながらふと目を閉じる。最初は冷たかった手が、しだいにひんやりとしていて心地よくなった。何分かたった頃ヒナゲシは寝た。
*
そして何分、いや何時間だろうか。また目が覚めた。
今度はひんやりと床の冷たさを感じる。耳を済ませれば雨がぽたぽたと垂れている音がする。
また眠ってしまった...
まだ何となく体が重い気がする。そうしてけだるさを抱えつつもゆっくりと目を開ける。
「また寝ちゃったね。迷子くん、体はどう?大丈夫?」
「大っじょうぶ...です。多分」
目を覚ますと数人が自分を囲んで覗き込むように座っていた。
なぜ自分はこんなにも寝てしまうんだろう。まぁ一回目はほぼ気絶か...。
「今ねこれから迷子くんをどうしよっかって話してたんだよ。」
「えっまさか殺されたりします?」
「あはは、さすがにそれはないよ大丈夫!」
いやこの人たちだったらあり得るだろうと思うのだが違うのだろうか。
「えっとそれでどうなりそうですか?」
「うーんそもそもなんだけど君今何処にいるかわかる?」
「わっわかりません...。」
覚えていることといえば先生に授業をさぼってるのがバレて必死に逃げ続けた結果あの変な場所にたどり着いて、そこから外に出られたと思ったら全然知らない世界だったのだ。
(ここが何処だか逆に教えてほしいくらいだよ!!)
「なる、ほど....じゃあまずここの説明をした方がいいね。ここは世界始機構の対になる世界終末機構、通称”裏世界”。世界中、ずっと戦争してる荒廃した世界。世界始機構と限りなく本質が近い世界だよ。自己紹介が遅れたね、私はイトハ。この世界の住人。迷子君君の名前は?」
雨が降りしきる薄暗い教室の中、座っている生徒含め目線が一気に集まる僕はそっと体を起こして彼女の目を見た。
「僕の名前はヒナゲシ。多分僕がいたのはこの世界じゃないと思う。」
「ヒナゲシ?かっこいい名前ね。」
「ありがとうございます。」
「ううん大丈夫。まずまずなんだけど世界始機構で伝わるかな?」
「あっはい。僕がいたのは世界始機構、表世界だと思います。確か現世を支える二つの世界のうちの一つなんですよね?あとは表世界と裏世界は違う世界線とかそういうのは聞きました。」
僕がそう言うとすごいと言っているかのような顔をしていた。
「そうだよ。よく知ってるね。ねぇヒナゲシ、聞きたいことがあるの。こっちの世界のことは向こうでどう言われてる?」
唐突に質問される。ふと目を上げれば彼女の顔は無表情でこちらをじっと見つめていた。
それを聞いた瞬間手に汗が滲む、表世界で聞いた裏世界そこには人外と呼ばれる危険な者たちが存在している。ここの住人であるイトハにこの世界は現世を滅ぼそうとしている危険な者達がいると伝えた方がいいだろうか。しかし、逆にイトハがその世界のバランスを崩そうとしている、表世界の人々に危害を加える側の人間だったら僕はおそらく血祭にされるだろう。そう思うと唇が震えて声が出せなかった。
「いや、、、僕は…聞いてない、です。」
「そっか、ありがとう」
そういったイトハの表情はにこにこしているのに少し悲しそうだった。なにか思うことでもあったのかもしれない。
「それでなんだけどヒナゲシはどうやってこっちの世界に来たの?」
さっきとは打って変わって明るい声で僕に聞く、
「えっえーっと実は僕もあんまりよく覚えてなくて」
僕がそう答えると『うーん』といった形で彼らは顔を見合わせた。勿論イトハも困ったという顔で何かを考えている。
「じゃあヒナゲシ君、君は直前まで何してた?」
髪の色が頭の半分で黒、白と髪の色が別れた挑発の少女が僕に話しかける。目がつり目なわりに妙に落ち着いた感じがしてさっきまで緊張していた体が少し安らいだ。
「えっと、僕は向こうの学校みたいな場所にいて。向こうの生徒さんと一緒に居たんですけど、先生に授業をさぼっているのがバレて先生に追いかけられて、そこから逃げようと必死に走っていたところでみんなと離れて、先ほどいた地下みたいな場所にたどり着いてしまったんです。
はじめはただの地下だったのにある瞬間から景色が白くてどこまでも続いてくような、さっきの変な場所になってて、変わった瞬間のことは覚えてないんです....。」
最後にごめんなさいとだけ伝えて僕は黙り込んだ。
「まあでもこっち来れたってことは向こうに戻ることだってできるはずだし、君がもし帰りたいなら僕たちは全力で助けるよ。でもなぁせっかく面白そうな子だったしヒナゲシだっけ?表世界から来たんだから僕たちにちょっと表のこと教えてよ」
どこからともなく僕を連れてきた黄髪の少女が上から僕を除きこんでいた。しかし先ほどの身がよだつような恐怖感は無く、ただの元気な少女といった感じだ。
「まっまぁいいですけど、実は僕あんまり記憶が無くてちょっとの間の記憶しかなくて....」
「全然大丈夫!!ろくに娯楽も無い世界にすんでるんだもん楽しい話が聞きたいよ〜。
っねみんな」
賛同を集めるように僕を囲っていた数人に話しかける。
「うんまぁこっちのネットは常に変なニュースしかないんだもんね。」
とイトハが言う。
「それだったら俺も聞きたい」
控えめに灰緑の髪色の男子もそれに賛同した。
結果僕を囲っている5人が興味深々そうに話を聞く体制に入った。
「うーんじゃあ一時間だけね」
僕はそう時計を見ながら呟いた。
結局話は4時間にもわたって話していた。時折メンバーが変わりつつであったけれど実に面白そうに聞いてくれるので僕も話していて楽しかった。
そして僕はこの裏世界もそんなに怖くないななんて思い始めていた。(ごめんね表のみんなもうちょっとしたら絶対帰るから。心配かけてるかなごめんね)
複数人を動かすの大変ですよね




