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異端者共の両奇譚  作者: いなり凡サイダー
第一章 異変
3/4

2.学校案内

横にある大きな窓から日光が遠慮なく入ってくる。この季節だと逆に暑いくらいだが、まぁ明るいのはいいことだと思う。


ヒナゲシが帰ってきてから数週間。大体の子と仲良くなっていた。勿論私も仲が良いと思っているし、何より今の彼はとても面白い。

 それはさておき、私は今何をしているか、だ…もう一度状況を整理しよう。

私は朝早くから彼…ヒナゲシとペトラの部屋へと向かっている。

 理由は特に複雑なものではない。むしろ、至って単純。そう、『学校案内がしたい!!』からだ。

 昨夜色々と物思いに耽っていた時、私は気がついてしまった。

(そういえばまだヒナゲシに学校紹介してない!!!)

 と!

 そうしてそのまま仮眠をとった後、私は早朝から数人を叩き起こしてヒナゲシが居るであろう部屋へと向かっている。

 今私が歩いている場所からヒナゲシがいるところまではかなりの距離がある。実際、もう5分程は歩いたと思うのに、たどり着く気配がない。

後ろでは私が引き連れた友人たちがけらけらと笑いながら何かを楽しそうに話している。まるでそこも陽だまりのようだ。

 ふと、オリが言い聞かせるように言う。

「モモ、あなたがこんな朝早くからここに入れるのは私のおかげなんだからね?」

確かに、私達がまだ校舎が空いていない時間に男子寮に来れたのは、オリの権力という名の合鍵のおかげ以外の何者でもない。まぁ謝礼の要求というよりかは窘めという意味の方が強いだろうが、そこは素直に感謝しておく(言う気は無いが)。

ただ、無視するのは良くないので半端に肩を竦めるのに留めておいた。


 そうしてもう少し歩き、部屋の前に到着。結局8分ほど歩いただろうか…まぁ女子寮と男子寮は校舎の端から端までの距離があるので仕方がない。

 ドアの前に仁王立ちで立つ。私は力いっぱいドアノブを掴み、バンッと派手な音がなるくらい力いっぱい扉を開けた。

「おっはよぉおおおお!!」

 鼓膜が破れてもおかしくない声量で挨拶をかます。空気がびりびりと振動しているのを感じ…


まてよ。空気がびりびり?まずい、もしかして…

恐る恐るうしろを振り返ると、案の定全員目が限界まで開いて気絶しかけていた。

(あちゃー、ちょっと声がでかすぎたか…?)

「わああ…ごめんねぇ。頑張って起きて!!」

 慌てて全員を起こす。ここで気を失われては大いに困るから。

「それで、ごめんねヒナゲシ。」

部屋の中にも入り、床に転げ落ちているヒナゲシも起こす。

『あ、あぁおはようモモ…今日はやけに朝から元気だね…』

「ありがとう、耳大丈夫そうでよかった。」

 怒っていなさそうでよかった。

まぁどちらかというと本当に体が無事でよかった(当の本人は寝ぼけ眼を擦っている)。次からは気絶しかけない程度にしなければ...。

 同じ部屋にいるペトラもベットから転げ落ちていたので、大丈夫?と声をかけ起こしてあげる。少なくとも部屋の中にあと気絶している人はいなさそうなので、私は後ろを振り返った。

「みんなも大丈夫?」

「いや大丈夫な訳ニャいだろ!」

「鼓膜破れるかと思ったぜ」

「まぁ大丈夫は大丈夫ですけども…」

 うん、かなり言い方がきつい。

 取り合えずみんなに謝っておく。本当に怒っているのか、はたまた寝ぼけているからか、皆いつもより反応が鈍い。

 うーんちょっと許してくれないかなぁ(汗)、まぁいいか。

 仕方がないから気づかないふりをして、まだ気絶しているレトラくんを少し強めに揺さぶって起こした。

「えー、まぁみんな健康そうだからいいか!」

 勢いよく手を叩く。よし、これで要約。ぼんやりとした表情のみんなを横目に、いざ本題に進む。

そのためにも、話の主役となるヒナゲシを探す…と、いつの間にか部屋の椅子にちょこんと腰掛けている。私は彼に目線を合わせるように膝に手を当てて、話しかけた。

「ねぇねぇ、学校探検行こうよ!!」

『…?』

 唐突に言ったからだろうか、帰ってきたのは沈黙。眠いのもあるだろうし、もう一度聞き直してみる。

「おーい、もう一回言うねー。がっこう、たんけん、に、いこー!!」

『ん…??あー… 学校探検か、えと、いいよ?』

 今度は返事がやってきた。

(よかった、聞こえてた。)

 半ばしどろもどろにだったが、確かに了承は頂いた。

「よし、そうと決まれば…」

 ヒナゲシの腕を掴んで部屋の外まで引きずり出す(ガタンと椅子が倒れた音と、えっ僕どうなるのというヒナゲシの声は聞かなかったことにしよう)。

「いざ、学校案内”+探索”に出発だ!!」

天井に拳を突き立て笑顔で言った。

「「「『おーー…?』」」」

「ん?なんか増えてね?」

「なんか増えてね?…っていやいやなにも増えてないから、」

 小さく聞こえた声に反応しながら来た道を戻っていく。



 校舎には、同じく学級委員のオリの権力という名の偉大なる合鍵を使って侵入した。この時間に活動している教師はまだいないはずであり、いわばなんでもし放題である。

どこか浮足立った皆を連れて十数分ほど歩き、ようやく最初の場所についた。

ここが男子寮からは一番近いはずなのだが…想定より時間がかかった。どうやらこの学校は自分たちが思っているより広いのかもしれない。

「遠くね?」

「こんなもんでしょ。多分」

 多数の不満の声。なんだかみんなからの目線も怖い。一体何がいけないんだ...。しかし、私の誘いに乗ってくれた心優しい私の友だ、意外とこんなもん。そう割り切って、明るい声で話し始める。

「はーい、さてさてまずはこちら理科実験室!!

 基本誰も居ないから特別授業で使う以外は全く使わないね…ほぼ空き教室と言っても過言じゃないよ!」

 自分で言っておいてなんだがここはあんまり使わない。私達が使っている教室とは反対に、まるでできたてほやほやの教室のようだった。

「う~わ…いつ来てもシンナー臭ーな…」

「そう?僕は懐かしいけどね~」

『僕も使ったのは1回だけですけど…やっぱりあんまり使わないんですか?』

「そのうち使うでしょ。最後に使ったのっていつだっけ?」 

「ヒナゲシが来てすぐじゃなかった?」

「そうだったけ。じゃあ大分前だなぁ」

「それにしては大分綺麗なんですねぇ…」

「さぁね…なんでホコリとかが全然ないのかはわかんない。誰かが掃除してくれるのかもしれないね」

なんでこんなにきれいなのかは私にもわからない。ひょっとしたら本当に誰かが掃除しているのかもしれないけど、そんなことに興味はない。

「中見てく?」

『いや遠慮しときます』

 まあ即答。聞くまでもなかったか。最後に授業をしたときにはちょうど匂いの強い薬品を使っていたし、この第一科学室(生物室)は展示されているものが内臓だったり目玉だったりとあまり見ていて気持ちの良いものではない。

「了解。じゃあ次行こっか」

 大分シンナー臭の効いた理科室の扉を今度は丁寧に閉めた。

次はどこに行こうか、そう思いながら歩きだす。ここからだと一番近いのは家庭科室だろうか…ならばそこに向かおう。

 しかし一番近いと言ってもまた十数分はかかるはず。ならば、この時間こそ私達がヒナゲシともっと仲良くなる最高のチャンスではないか。

 廊下を一直線に進んでいく。

 息を吸い、今だ!そう思って声をかけようとしたときだった…

『あの…そう言えばなんですけど、この世界?っていうのはどんな場所なんですか…?』

 おお、遂に来たか。

確かに”今”のヒナゲシには記憶がないならば、この世界もあちらとの関わりもこの場所についてもなにも知らないだろう。知りたい!という気持ちがでてくるのは至極当然のことだ。

「そうだよね。ヒナゲシは知らないんだったか…。」

『そうだね…よく考えてみれば聞いたことがなかった気がする』

「そっか。じゃあ一旦この間の教室に行こう。」

 本当にタイミングがちょうどいい。なぜならここから最も近いのがあの教室だからだ。

「よし…じゃあちょっと遠いけど行くぞー!!」

「嘘でしょ…あんた計画立ててるの??」

「元気があっていいねぇ~」

「能天気だな…」

「えへへ」

 誰が能天気だ!!と言いたいところだが、あの話をするのは毎回とても面白い。

ヒナゲシの細い腕を掴んで少し早めの足取りで教室へ向かうことになった。

 どこから電気が供給されているのかはわからないが廊下は明るく、最高で最低な話をするには少し元気づけられるような明るさだった。

                   


                   *


「ふぅ、やっとついたね」

『ねぇ…やっぱこの学校広くない?』

「それな~!!」

「もう私なんて足がくたくたです…」

「最初に言わなかったっけ?ここ生徒の数にたいしてとても校舎が広いんだよね」

そう言いながら教室の引き戸を開ける、少しだけ年季が入っているからなのか木とコンクリートのこすれ合う音がした。

 そしてそのまま誰もいない教室に複数人でぞろぞろと入って行く。教員にバレたら反省文かもしれない。

 一歩踏み入れれば少しの木の香りと窓辺に置かれた花の香りがした。私はあまり花に詳しくないからわからないけれど、いい匂いだ。

「それじゃあ…とっても面白くてとってもクソなお話ししてあげる」

『?』

明らかに胡散臭い顔。

「はぁ?って顔しないでよぉ〜。大丈夫。みんな知ってる話だよ」

そういうと後ろを見る、全員がゆっくりと頷いていた。

「まぁまぁヒナゲシさん、そんな顔なんてしないで座りましょう」

まだ納得いっていないようだが、オリが言ったからだろう…渋々といった顔つきでヒナゲシは椅子に座った。

「それじゃあ説明をしようか」

 私は足を組みながら自信満々の顔つき…そう、まるで悪役のような自信満々の笑みを向けた。

「この場所について、いや、この世界についての説明でもいいかな?」

『はい、お願いします。』

「おっけい、じゃあ説明しよう。

 この世にはたくさんの世界がある。そしてこの世界はその中の一つだ。

 それで…」

『ちょちょちょ待ってください…たくさんの世界?えっとこの世界だけじゃないんですか?ってことは宇宙人とかがいたりとかってするんですか…?』

 しまった、大分工程をすっ飛ばして話していたようだ。

「わかったわかった、落ち着いて。まずそこからだね…


ねぇヒナゲシ?ヒナゲシは幽霊とかあの世…天国とか地獄は存在すると思う?」

『う~~ん…あるんじゃないですか?』

「そうだね。正解。あるんだ。まぁ、伝説と言われている話だし、ここから話すのも実際に確定された話ではないんだけど…まぁ、一回説明するね。

この世には現世と呼ばれる枠組みと幽界と呼ばれる枠組み、つまり二つの枠組みが存在する。ここでまず世界は大きく分かれているんだ。その二つの枠組みの中で、膨大な数の世界が今も生まれている。まぁ、この世界という概念はたくさんある銀河のことだと思って貰って構わない。現世にはないんだけど、”幽界”は俗にいう天界だったり極楽浄土だったり、地獄なんかも存在している。現世にも沢山世界がある分、向こうにも世界はたくさんあるんだよね…

でも、一つだけ。どちらの世界も、無限ではない。これは覚えておいてほしい。

そんでだ、沢山世界はあるって言ったよね。でもありすぎて分からなくなっちゃうから、それらの世界のいくらかをまとめて私たちは”世界線”なんて呼び方をしてる。今いる世界は現世の中にある世界線の中の一つ!あの世の反対、つまり生者、人間の世界線だ。

 だから、間違っても人外なんかがいていい場所ではないよ…。」

 そう、ここは人間以外がいて良い世界じゃない。

”だから姉に会うことは叶わないんだ。”

『なる…ほどです…?』

「ちょっと話が難しかったかなぁ?じゃあ次はここの枠組み、現世の話をしようか。

現世も、頭が痛くなるような数の世界が存在していて、それがまた大量の世界線で区切られている。その中でも、”人間の世界線”という世界線があって…さっきも言ったけれど、これが私達のいる世界線で、その中の無数にある世界の一つに私達は生きている。他の世界だと、他の世界のパラレルワールドしか存在していない世界だったり、はたまた大帝国を作ってもっと大きい世界になって存在していたりもするね。

 あ、それと、また大事なことを1つ。実は、”現世”が今存在できているのは膨大な世界の中でも”現世”の中枢とされる、とある2つの世界による影響なの。その2つの世界の均衡が柱となって現世を支えていて、その2つの世界が無くても、どちらかが欠けてしまっても…”現世”はその瞬間から存在することができなくなってしまうんだ。

 そんな二つの世界なんだけど、実は…その世界の片方がこの世界と言われているの。びっくりしない?しかも、この世界には名前もついてるんだ、”世界始機構”ってね。しかもしかもだよ…そんな”世界始機構”という銀河の中にも、沢山星があるんだ。まぁ惑星の事だね、世界の中にもまた多数の歴史が広がってるわけだ…。

ここまで言ったら分かったかな?驚いたことに、その星々の中でも中心核となり均衡を保っているのがこの星…そしてこの場所なんだ。つまりここは、”現世”の中でも中枢となる世界の中の中心となる場所ってこと。まぁ大事な場所だよね~。

この場所に課せられた役割は非常に単純。

ここは”世界始機構”の名の下、世界を始めなければならない。終わらせてはならない。

二つの世界のパワーバランスが崩れないように均衡状態にしなければならない。

いわば私達はバランサーと言っても過言ではないね。

簡単なように見えるかもしれないけれど、結構気まぐれな天秤で難しいんだよ…」

と、一旦ここで言葉を切る。

「大分長くなったと思うし結構複雑になっちゃってるけど理解できてる?

 これがこの場所についての説明だよ。」

 正直喉と脳みそが疲れてきた。

わかってはいることだけれど、再度整理して話そうとするのはなかなかに労力が必要だ。

 しかしこの長ったらしい話を飽きもせず集中して聞いていられるヒナゲシはすごいな。

『なんとか追いついてます…』

「そっかぁよかった。

 じゃあこの場所についての説明、この学校の説明をしなきゃだね。」

「おっついにかにゃ!もう聞き飽きた…」

「いや流石に速いだろ」

「さっきこの現世を支えている2つの世界があるって言ったよね?」

『言いましたね…それがどうかしたんですか?』

「うん。でも気にならない?もう一つの世界はどんなところなのかって。」

『…!!!!!』

明らかに目の色が変わる。盲点だったらしい。

「お前めっちゃ興味持つなww」

「その期待に応えてあげましょう—— 



——”終末機構”

 ”世界始機構”とは逆に、もう一つの世界はそう呼ばれている。断然、この世界との関係は他の世界に比べてとても深い。共通の役割持ちだし、本質が限りなく近いから…当然といえば当然なんだけど。

この”終末機構”。簡単に言ってしまえばこちらのパラレルワールドみたいな存在で、

さっきも言った通り他より関わり合いが深いからほとんど同じような存在になっている。とは言っても、本質が近いだけでパラレルワールドとは言えない。なんて言えば良いかな…そうだな、いわばその”中間点の世界”かな?とにかく、”世界始機構”と”終末機構”…同じに見えるけれど、全く違うんだ。そして…その世界がどんなところといえば…」

「ゴミの掃き溜め」

「胸糞悪いな。とても人間とは思えない」

「まぁ僕らとはかけ離れた存在だよね」

「…と、言うわけ。テクノロジーや文化関連の進みはほとんど同位体といっても過言じゃないのに、何故かひどく荒廃している。同じ日本の国内なのに、県境を印に戦争おっ始めてるくらいよ。そしたら何が酷いって…もう人間の精神が完全に壊れてる。そんな場所が終末機構、世界を終わらせるための存在。さっき本質が近いって言ったけど、言ってしまえばこっちと真逆とも言えるよね。」

『へぇ…』

「私は無いんだけど…オリ行ったことあったよね?」

 急に話を振るのは些か申し訳ないが、私だけずっと話しているのは癪だろうし仕方ない。

「そうですね…偶然ブッキングしたと言った方が正しいですが…

 まぁ気持ちの良い場所では無かったと覚えております。」

「、というのがあちらです。

 …さて、もうだいたい話し終わったけれど他に聞きたいことはある?」

 質問を投げかける。今の彼に話すのはこれで十分なはず…

『えっと…じゃあ質問なんですけど、さっき「私達はバランサーのような存在」って言ってたじゃないですか。実際には何もしてないように見えるんですけど、一体どうやってこの世界との均衡を保ってるんですか?』

「おっと!」

「あちゃー。聞いちゃう?〜。どうしよう。ねぇ、皆話して良い?」

「まぁ聞いちゃった以上はにゃ、」

「仕方ないよね~」

「ぐぬぬ…しかたない話すかぁ。」

「どうする?モモさん、私が交代してもいいけど…」

「いやいいよ、私ここまで話したから頑張って話してみるよ。」

『無理を言って申し訳ないけれど…気になるのでお願いします』

 ここまで聞かれたならばしかたない。腹を割って話すか。

「ではでは…

さっき、2つの世界が現世を保つのに必要なのはわかったよね。それと世界のことも。

じゃあ、どうして均衡を保つ必要があるのか、どのように保つのかってところなんだけど…

まず、例えとして2つの大きな柱があると仮定して、その上に板が乗っているとするよ。この2つの柱は世界始機構と終末機構のそれぞれ2つの世界、板は現世そのものとする。柱の太さは同一であると考えてもらうと、違ってくるのはこの柱それぞれの長さになるんだ。想像できたかな?

 柱の長さ、これはつまりその世界の力加減。これが強かったり弱かったりすると柱が縮んだり伸びたりする。そうすると自ずとわかるだろうけど上に乗っている現世はその場に留まっていられなくなって落ちてしまう、つまりは…まぁドカンだ。だからパワーバランスを均等に保つ必要がある。

そして、そのパワーバランスとして換算されるのがその世界の”大きさ”と、それが保持する

”喇叭”。

 ”喇叭”って言うのは終焉の天使が持ってる喇叭。もしかしたらヒナゲシも一回ぐらいは聞いたことあるんじゃない?これは宗教によって信じる信じないがあるけど、この世界では限りなく事実とされているよ。一般的な話と同じように、7回吹かれると世界が終わるとされているんだ。まぁラッパだのカッパだの何それって感じなんだろうけど…要は、とても力があるの。だから、これは2つの世界が同時に同じ量を管理しなければならない。そうしないと、パワーバランスを保つことができないからね。」

 そこまでいうと、ヒナゲシの顔に疑問が浮かんだ。

『あれ…?7本? 2で割れませんよね…?』

 流石はヒナゲシ、察しが良い。及第点どころか120点あげたいぐらいだ。

「そう!現世を存在させるためには2つの世界で分けなきゃいけない…ところがどっこーい、天使の喇叭は7つと来た。どう頑張ろうがそれを半分にすることはできない。どこか他の星に預ければいいと思うかもしれないけれど…天使の喇叭は吹かなくてもそれだけで力があるから、そんなイワクツキの物になんかされたら大変だし、そんなどうなるかわからないなんてリスクを取ることはできない。実際、使われたら世界の7分の1くらいは簡単に滅ぼせるだけの力を持ってるらしいよ。まだ前例はないから大丈夫だとは思う…思いたいけど。

まぁ、そんな力を持ってるから簡単に結論を出せるわけもなくて、昔から今まで長い間どちらの世界が7つ目最後の喇叭を持つか争ってるの。

 でもそれじゃあ一向に決まらない。じゃあ今はどうしているのか…と、ここで換算されるのが向こう特有の力、”人外”ね。さっきも言ったけど、ここは人間の世界線だからこちらに人外は存在してはいけない。でも、それはあくまで”こちらの話”。向こうは人間の世界線とは全く別物の世界線を生きている。だから、人外が存在しているし、なんならそれ以上の存在もいたりするよ。

まぁ当たり前だけど人外は人間よりも強い。だから、今のところは人外の存在で世界の割合を破壊できる、と考えて喇叭一個分としてカウントしてるんだ。だから、喇叭の数的にはこちら対あちらが4対3だけど、実質的には4対4の状態ってわけ。勿論かなりイレギュラーだしバランスが難しいけど…」

『えっ?人外…?熊とかライオンとかってことですか?

 一体どういう…』

「あれ?言ってなかったっけ?人外って一重に言っても動物とかそういうのでは無いんだよね、うーんなんだろ…存在してはいけないナニカ、と例えた方が適切かな?勿論喋る熊とかはいるよ。」

『へぇ…』

「そうなんだよね。

 それでだ、さっきも言ったけど人外はこの世界線だと存在してはならないのよね。だから人外の存在をカウントして4対3、と。

でも、向こうは気に食わないんだろうね…うん、単純にこちらより優位になりたいだけかもしれないけど。まぁ、私達だってこちらと真逆の世界だったら当然こちらの世界を羨ましく思うだろうし、仕方ないと言えば仕方ないんだけども。とにかく、向こうは事あるごとにこちらを攻撃してくる。向こうにはこっちを攻撃する手段だったり、こちら側を覗く手段がたくさんあるから、例えばこっちの土地をとったり、無闇矢鱈にこちら側の人間を殺しにやってきたりと…まぁ散々よ。

 それだけで済めばまだいいものの、向こうはそれだけじゃ満足しない。極めつけとして、隙さえあれば喇叭を強奪しようとして来るから、度々土地と喇叭目的の戦争が繰り広げられるんだ。それをバレないようにしているこの世界も大変よね。

 しかも向こうは覗くだけじゃなくて何故か此方側に侵入する手段までもを持っているから…定期的にものすごい量の人が死ぬんだ。攻撃してくるのは、終末機構の”人間”と”人外”。主に戦争に出てくるのは人間で、時々ひょっこり大量殺人をしに現れるのは人外。

 まあたまに人外も戦争の前線にでてきてすごい量の人間が殺されるけどね…。」

『ひぇぇ…なんだか話が大きい…』

「そうだね、世界巻き込んでるから相当大変だよね。

ともかく、あちらはありとあらゆる手段を駆使してこちらを攻撃してくる。でも、当然こっちもやられっぱなしってわけじゃあないのよ。実際、戦争に関しては政府の裏機関がちゃんと対処してる。他の星に存在している人間とも連絡を取り合って協力してるんだ。

そうでもしないと、戦争の舞台に最もよくなるのがここだから、簡単に一般市民は死体と化しちゃう!まあ協力するにも結局は死体は増える一方なんだけど…


さてと、それでは問題です。

戦争だけでこんなギリギリの状態になってるのが現状だって今説明したよね。じゃあ、人外は誰が対処してると思う?」

『…もしかして、

それが…君等?』

「大正解!本当に察しが良いね〜。そう、ここは単なる学校としての施設だけじゃなくて、終末機構からの攻撃からこの世界を守ったり、逆に攻めたりするために存在してるの!わかった?」

『なるほど…』

「よかった!話が複雑だからわかんなかったら後々聞いてよ〜。ゆっくりわかっていけばいいからさ…

皆もごめんね、長くなっちゃって。」

「大丈夫です」

「おっけ~」

「全然いいぞ!」

「あれ?異端者って言わんでいいの?」

…余計なことを

内心舌打ちしそうになったが、そこまでのことでもないと思い直したので大袈裟に反応しておく。

「うぇっ⁉️マジ?言うの?」

『異端者って何ですか?』

流石耳が良い。ヒナゲシはすかさず反応した。

「それはだな〜。」

 流石に言葉に詰まる。

「…え~っ、と「異端者っていうのは人間と人外の間に生まれた人間のこと」

 空を切るように誰かが言った。

「ですよね?モモさん。」

心なしかオリの眼鏡が光って見える。

これは流石に説明を渋っていることがバレているだろう。流石の洞察力に肩を竦める。

「え~~~…言って良いのかなぁ〜。」

「うーん、まぁオリが良いって思ったならいいんじゃない?」

「それもそっか」

もう腹を割るしかないようだ。度々彼らには思わず苦笑させられる。

「異端者。それはズバリ私達のこと。私たちは異端者と呼ばれていて、半ば強制的にこの学校に入れられている。普通に考えてみれば、戦争をする理由の一つと同様である私達は政府達からすれば半分敵みたいなわけだし、仕方がないよね。でも自分の親が誰かなんて全然わかんないし、こっちにとっちゃいい迷惑よ。

 そんな私達がこうしてなんとか生かされているのは、戦闘能力があって役に立つからでしょうね。まぁ出入り自由だし、そこまで生きにくくはないと思うけど…

まぁ、今後もし外に出る気でいるなら、”私たちは世間からは異端者と呼ばれている” そのことを忘れないでね。」

「あとついでに、”世界始機構”、”終末機構”だと長ったらしいから、私達はこの世界のことを表、あの真逆の世界のことを裏と言っているの。

 さっき裏についてさも詳しいかのように語ってたけど、実はわからないことも多くて…巷じゃ向こうの世界には人外だけじゃなくて人間の恐怖、都市伝説なんかが本当に存在しているとも言われているらしいんだ。

ここまで言っといて申し訳ないんだけど、実際ほとんどが伝説の話とされているし…でも、攻撃されているのは事実だし、一部本当の部分もあるよ。世界線の話とかはもはや空想に近いけどね。

もしまた聞きたくなったらそういうのに詳しいハルに聞いてね!」

 ふう…と一息ついて教室にある時計を見る。時計の針は一時間ほど進んでいた。

 (大分長くなっちゃったな。)

なんせ下手したらこの世界の概念を揺るがすような大きな話だし、昔からの歴史を語っているわけだからむしろ小一時間にきれいにまとめて話した私を褒めてほしい。

「さて、重っ苦しい話も終わったことだし、探検・案内の続きをしよう!!」

少し思い腰を上げながら再度拳を上にあげ「おーっ!!」と言った。



                 *



「ねえヒナゲシ、」

『ん~なんですか?』

「次行きたいところとかある?」

 教室の扉をあけて体が半分廊下に出た。

 エアコンがあまり効いていないのか廊下に出るとモワッとした暑さに襲われる。

『うーん…正直ないですね…』

 一応本人の希望は大事にしようと思ったが、数週間たったとは言えほとんど寮から出ていない訳で…そりゃ、希望を聞いても返ってくるわけがなかった。そもそもになにがあるかヒナゲシは知らないんだろう。

「そっかまぁ無い、か…。えっとじゃあ一番賑やかな場所にでも行こうか!」

『にぎやかなバショ??』

 ふぇ?と不思議そうな顔をしているヒナゲシを尻目に仲間とアイコンタクトをとって走り出す。勿論ヒナゲシの腕を引っ張って。

 ちなみに走る意味は特にない。長ったらしい廊下を数人の集団が走る。万が一先生に見つかったら相当怒られるだろうがそんなことはどうだっていい。

 私は全力で走り出した。

『…ままっまま…マッテ!!!』

「まだまだ続くからね!!」

『ウワアアアアアアアアアァァァァァ…』

ヒナゲシの悲鳴がフェードアウトしていく。

 

           


     

「ふぇー思ったより距離あったね。」

 階段を上りきったところで伸びをする。

「疲れました…」

「ハァッハァハァ…(意訳:何してんねんお前)」

「まずまず走る意味無かっただろこれ」

「え?気分?」

「気分で走るなよ…」

 私もだが廊下を全力ダッシュすると案外体力が奪われた。

 長い廊下と階段の駆け上がりでもの凄く消耗したのだ。まあ、仲間と一緒に全力で走るというのはなかなかに面白かったので良しとする。。まるで青春を謳歌している気分だった。

 仲間からのツッコミは無視する方向にして、屋上のドアに手を掛ける。この人数だと踊り場は少し狭かった。

『ここって…屋上ですか?』

「そうだよ。」

『一番騒がしいって…どういう??』

「まあ扉を開ければわかりますよ…」

 オリはそう言って私に扉を開けるように促した。それに勿論っと頷いて


_____バァン!!


思いっきり扉を開けた。

 さすがに勢いよく開けすぎたのだろうか。屋上の空気が一瞬とまり視線が私に向いている。後ろからの目線もあって流石に羞恥心というものを覚えた。

「えー・・・、あっうん、ここが屋上で〜す」

 一瞬凍った空気。なんとか元の温かい雰囲気に戻そうと頑張った。

「あっえっうんそうだにゃ」

「せやね」

「…んーなんかごめんね。」

『あっいえっアっ… 大丈夫です』

「それはよかった」

絶対大丈夫じゃない。

『と、ところでですけどここ広いですね…』

 ヒナゲシが話を別の(本来の)方向に戻してくれる。

さすがに屋上の入口で固まっているのも悪い気がするのでそのまま人があまり溜まっていないところまで全員で移動する。

「えーっとここが我らのたまり場である屋上です」

 レトラが説明してくれた。

「いえーい(?)」

 とりあえず合わせてみる。

 このままいてもしょうがないので、屋上にいたメンバーも一緒に屋上の隅で固まり、自己紹介をしていくことにした。

「ここが一番賑やかって言われてるのは、生徒が一番多く巣食ってるからなんだよ。」

『へぇ…』

「多分ヒナゲシは来たこと無いよね。」

 想定ではまだ訪れていない場所なので来ていないことを願う。

『まだない…はず』

「よかったぁ。もう来てたら一番の目玉である場所、紹介できないところだった〜。」

 ひとまずは安堵。

「ここは見ての通り屋上、広すぎることはないし、特段普通にある感じの屋上ね。」

 正直特に目立つ垢抜けたものは無いが緑のゴム感溢れる床と緑のフェンスで囲まれた屋上は緑が多いせいか自然と安心する。日中である今太陽が全体にあたって少し暑いが、踊り場である場所には影ができていてそこに数人の生徒が見える。

 そう、今回ここにヒナゲシを連れてきたのはここに屯しているたくさんの生徒を紹介するためでもある。寮に入ってから全然外に出て無くて大丈夫かなと心配だったのもあるが、なかなかに交友していたようで一応は安心しているが、どうせならもっと友好関係の幅を広げてほしかった。

『まぁ普通ですね』

「うん、まぁ普通だよね。しか〜し!ここには生徒がいる、そして君はおそらく接触していない、ってことでここに半ば引きこもっているみんなと仲良くなろう!!」

「なるほど…」

「おっいいなそれ!」

『へ?????』

 思わずといった声だった。

(そりゃそうか)

 納得がいく、いきなりダッシュで連れて来られた場所は普通でいきなり仲良くなろうと言われても疑問しかわかないだろうし一周回ってよくわからない状況とも取れる。

「ええっと、私はヒナゲシに交友関係の和を広げてほしいなって思ったから言ってみたんだけど…嫌?」

 首を傾けて多少上目遣いというものを使ってみる。理由はなんとなくヒナゲシはこういうの効きそうだと思ったからだ。

『あっえっいやっ別に嫌じゃないけど…』

「それならよかった。」

 効果のほどはよくわからなかったが、とりあえず了承を得ることができたのでよしとすることにしよう。

「じゃあ向こうに突撃だぁ!」

「おー!」

「頑張れよ!」

 仲間からの後援を受けてヒナゲシと一緒に歩きだす。残りの仲間はなにも言わず送り出してくれた。そっちはそっちで話題に花を咲かせておいておくれ。

 屋上の床は特殊な素材でできているからか、歩いたときの感覚がいつもと少し違って若干の違和感を覚えた。ヒナゲシは私の後についてきてくれている。

喧嘩を売るのは早い者勝ちだ。いつもはなるべく穏便にいこうと努力している私だが、今回ばかりは先手を取らせていただくこととしよう。

「やぁやぁ。元気かい?引きこもり共」

「は?」

「お前も同類だろ」

「ひきこもりじゃありますぇーん」

 別に、は?と言われることに抵抗感はないが引きこもりじゃないは絶対に違うだろう。あと勝手に同類にするんじゃあない。

というか本題自体が違う。私は顎を上げ、後ろを振り返る素振りをした。

「あれ?後ろの子、」「もしかして…」

やっと気が付いたらしい。つくづく察しの悪いやつらだ。

「あっ気づいた〜?引きこもりの皆さんは知らないかもしれないけどぉ〜

数週間前に来たヒナゲシ、で〜す」

 一瞬場の空気が凍った気がする。それは私の煽るような話し方なのか、いやきっとヒナゲシが”帰ってきた”ことに驚いているんだろう。

「ほらヒナゲシ挨拶、挨拶」

『あ、えっとヒナゲシです…』

「ど、どどどどーも…」

「よ!」

「…(口をあんぐり開けているの意)」

「へぇ…」

 皆驚きながらも反応していて若干の不慣れ感が妙に面白い。

『あれ?会ったことある人もいますけど…』

「え?いつ?」

『確か最初の日…』

「マジ??」

「あー…」

ハルが何か知っていそうな素振りをした。

キッと怒りの視線を向ける。

「はいはい言いますよ…

あの日キングを先頭に沢山の人が押し掛けてきたでしょ?

あれ実はほとんどが僕の分身だったんだ。

キングやシロとかは分身じゃなかったけど、それ以外は…

まあ、そういうこと。

というかモモ、お前も行ってなかったろ。これに関してはお前だって人のこと言えないんだからな。」

「うぇ〜」

鋭い釘を刺してきた。まぁ別に追及するつもりはないし、そんなことはどうだっていい。

それよりも、今はやるべきことがあるのだ。

「なぁ、本当に本物なのか?」

口を開こうとすると、少し先ほどより冷ややかな目線でハルが言った。

「何が?」

「何って…それだよ、えっと…」

「ヒナゲシ、ね。」

「…そう。」

周りの空気が少し引き締まる。やはり、薄々と皆気になっていたのだろう。

だって、あんな事件もあったのだから、はいと一回言われただけでは信じられないのも仕方がない。でも、これに関しては紛れもなく”本物”だ。

「勿論。偽物のわけがないでしょう?そりゃ、彼は”あの彼”とは違う。でも、確かに”ヒナゲシ”は帰って来たのよ。

だってその証拠として、ちいが精霊が一緒だって言ってたもの。」

すると、意外な所から声が上がる。

「ワタシも見たけどよぉ、やっぱり本質的な部分っつーのかな…

なんか霊に憑りつかれてる感じで、中身がちげーんだけど…

あーーーー、でもやっぱ本人だわ。」

クロだ。シロの幼馴染で、口が悪い。そして何より特徴的なのが、人を一定の基準で「クロかシロか」見れることだ。

「ほら、言ったでしょう?」

自信満々の顔で奴らを見渡す。ぐうの音も出ないのか、悔しそうな表情の面々だ。

実に愉快である。

「…で、じゃあ俺たちに何をしに来たわけ?

 ”ただの”紹介?」

シアン。いつも冷静で、的確な意見を述べてくる。何よりその刃のような眼光と観察力は油断ならない。きっと、私たちのことを疑っているのだろう。

「こいつがそれだけのことでここに来るわけがない」

きっと、そう思われているに違いない。


でも、今回は本当にそれだけなのだ。それだけ。どんなに裏側を覗かれようと、困ることは無い。私たちは表裏一体なのだ。

ただ、今私達がするべきことは一つだけ。

「そうよ、”ただの”紹介。



 …あんた達のね。」

「言い忘れてたかもだけど、ヒナゲシって今記憶無くしてんの。

 反応でわかったんじゃない?彼、多分お前らのこと覚えてないよ~

 だからさ、もっかい自己紹介してやってくれない?」

「なっ…」

「あっそっかぁ~自分のことを知られたくない人もいる?

安心して、そういう人は後で全員”私が”ヒナゲシに紹介しといてあげる!」

敢えて”私が”の部分を強調して話してみた。私自身は自覚はないのだが、奴らにとっては効果覿面だったようだ。きっと、どんな悪評が吹き込まれるか想像してゾッとしたのだろう。

それなりに自分の行動に自覚があるということだ。つまり、私たちは今弱みを握っているも同然。

そうとなれば当然…

「…ワタシはイチゴウキ。イチと呼んでいいわよ。」

「…アーシはニゴウキ。ニでいいわ。」


「ぼ、僕はシルル。改めてだけどよろしくね…!!」


「僕はレイ。絵を描くのが好き。…良ければ美術室にも来てみてね。」


「僕はシャル。まぁ特に特技はないけれど…と、友達になってくれたら嬉しいな…」


「…俺はシアン。特技はフルートだ。よろしく。」


「………

 僕はハル。これからよろしくね。」


その他、数人の自己紹介が続いた。残りは内容がほとんど変わらなかったので、あまり特筆すべきことは無いだろう。

それなりに人数がいるのでそれぞれ自己紹介をすると結構時間がかかった。それにしても相手がヒナゲシだとわかった瞬間いそいそと口が動きだしたんだから見ていて愉快だ。

「えっと全員自己紹介は終わったかな?」

「多分終わったんじゃないかな…」

「結構人数いるからわかんない…」

そこここで不安げな声が上がる。

「了解、まぁ大丈夫でしょ!ヒナゲシ全員覚えた?」

『た、多分…』

「多分だらけじゃねぇかよ」

すかさずクロが突っ込む。

 確かに先程から多分と言う言葉が無数に飛び交っているが、それは絶対的な確信がなければ出てしまう言葉だと思う。まぁつまりはそんなに気にする必要が無いということだ。

「よし、じゃあこれで仲良くはなれたね。よかった〜。それじゃそろそろ御暇するよ」

「了解。」

「「どこに行くの?」」

この声は…イチとニだ。特に答えてはいけない理由はない。

「学校探検。」

「へぇ…よくあんたら屋上に入ってこれたね」

すぐさま嫌味ったらしくハルが言った。

「いや、私たちはオリの力を借りて鍵を持ってるから…」

ん?                         

「あれ?君達なんで屋上に、」

「げっ…」

 明らかに口が滑ったらしい。視線が泳いでいる。

「まぁ、オリがいないなら怒られることもないし、俺ら実際自由って感じ?」

「いるけど…」

 後ろを指さす。幸いオリは気が付いていないようだが、呼べ....

「あ、学校探検行くの?いってらっしゃ~い!」

「おう!気をつけてな!」

…手のひら返しが凄い。まぁ敵は作りたくないし無理に言いつける必要もないだろう。

「ありがとう!ヒナゲシ、さっきいたところまで戻ろう」

『は、は~い』

 いつの間にか座り込んでいた体を立ち上がらせる。ついでにどっこいしょと言いたいところだったがこのメンツだと絶対にいじられるのでやめておいた。

 溜まっている奴らに手を振りながら先程いたところまで戻る。また少し長い距離を歩いた。

「ただいま〜。」

「おかえりなさい」

 時間がそれなりにかかってしまったが叱責されるようなことにはならなくて安堵した。

「じゃあ続き行こうか!!」

 全員でさっき出て来た扉まで戻る。ドアノブに手をかけると少し建付けが悪い気がした。ドアノブをひねって扉を開ける。中から涼しい風が溢れ出てきてなんだか心地よい。そして私を先頭に階段をゆっくり降りていく。階段を降りきったところで次に案内したいところまでまた歩きだした。





                 *


「はいはいはーい!!お次に訪れたのはなんとぉ数学室でございまーす」

 長い長い廊下を歩き次に訪れたのは数学室と呼んでいる場所、名前の通り数学をする部屋だ。やはりこの部屋も掃除が行き届いている。まるで新築のマンションかなにかのようだった。黒板には筆圧が強かったのか白いチョークの跡が残って見える。それ以外に使っているであろう道具はきれいに棚に仕舞われている。それは教室のドア越しに見てもわかるほどだった。

 ガッと思いっきりドアを開ける行為、物は大事にしろと周りから言われてもこれだけはやめられない。ドアを開けたときの快感さ、これは多分モモ、私しか理解できないんだろう。

 窓からは日光の木漏れ日が覗いている。

 中を見ていても教室は余裕のある大きさで生徒がぎゅうぎゅうになって入るなんてことにはならなさそうだ。最後に自分が使ったのはいつだろうか。最近授業をサボってばかりだからそろそろみんなに追いつけなくなっているだろうなと思う、しかしこの場において死ぬまで退学は許されない、だからどれだけ成績が悪かろうが私がここから離れることはない。つまり負けて死ぬまで出られないんだ、もしくは年老いて使えなくなってゴミ箱行きか、そんなことになる前までに楽しんだもん勝ちだろう。

『こんなところあったんだ…初めて来たよ』

「そうなの?」

「寮からは距離があるし、来なかったのかもしれないね~」

 聞いた話によると、ヒナゲシは寮の汚さに驚いて、気が済むまでずっと掃除をしていたらしい。そしたら外にも出ないか...。

「じゃあここはお初ってことで...」

そう言いながら引き戸を今度はゆっくり開こうとして…

途中に嫌なものを見てしまった。

何か声を出す間もなく、何事もなかったかのようにさっとドアを閉める。

「.........やっべ。」

 その嫌なものの正体とは、ズバリ先生であった。先程は見当たらなかったのに何故いたのかはわからない。扉を開けるまでわからなかった。いつもだったら別にやましいことがあるわけではない…こともないが、適当にあしらって帰ればいいだけの話だ…しかし、今日は違う。私たちが今していることは、明らかな校則違反。即ち…罰則の対象だ。いや、もしかしたら授業時刻より前に入っていたことはバレないかもしれない…でも、彼の手にかかったら芋づる式に暴かれていくことは目に見えている。

——一瞬目があってしまった気がする。お願いだ、気の所為であってくれ。

 なるべく音を立てないようにドアを閉めた。今、日にちを考えていなかったが、今日は月曜日…そう、本来ならば授業時間。今日はいつも通りサボっていたことをきれいに忘れていた。もし見つかればもの凄い勢いで追いかけてきて授業に出席させようとするに違いない。極力近くに出ずにさっそうと逃げるのが吉だろう。

「みんなよく聞け、先生が居る!逃げろ!!」

 後ろを振り返り思いっきり叫んだ。この時点で気づけば良かったかもしれない。大声を出す以前の問題を、先生と思いっきり目を合わせていたという実態を。

 全員が固まって私の後ろの一点をじっと見つめている。嗚呼きっといるんだろうな、私はそう思って背を向けていた方向に目をやった。

___いるっ!

 そこには満面の笑みで、いや目は全く笑っていないが先生がこちらをじっくりと見ている。いつその腕が自分たちの首根っこをめがけて飛んでくるかわからない。未だその怪物と言う名の先生が満面の笑みを向けこちらをじっと見ている。

「に、逃げろぉおおおお!!!!!」

 できるだけ大声で、できるだけ早く私は叫んだ。

 にこにことしている先生とは裏腹に私達は走り出した。

「ヒナゲシ逃げろ!」

 誰かが全力で叫んだ。

ヒナゲシはなにがなんだかよくわからない顔をしているが、足は全力で走る形状に入っている。後ろを振り返る隙なんか無く誰も目視できないまま私は走り続けた。



____結局たどり着いた先は先程いた屋上だった。

 状況はどうすればいいのかわからない状況だった。とりあえず先生は見えない、どうやら見失ったようだ。

 ヒナゲシはいない。どこにいったのかわからない。幸いというべきか不幸中の幸いなのか先生は私達を見失ったようだったし、ヒナゲシ以外は全員いる。

...どこにいったの?

その後、校舎を隈無く探したはずだがヒナゲシはとうとう見つからなかった___。




投稿遅いけど頑張るます面白い作品になりますように

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