147 王宮での暮らし3
こうなっては仕方ない。令嬢として会うつもりだったが、女神として出迎える必要がある。モニカは自室へと戻り、裁判の時にも着用した女神用の衣装へと着替えることにした。
「やっぱり女の子がいると楽しいですわ」
着替えを手伝ってくれたソフィアは、惚れ惚れとした様子でモニカを見つめる。
なんでも家族が男性ばかりだと、可愛いものが無性に恋しくなるのだとか。娘がいる家庭がうらやましくて、カリストに良い人ができたら絶対に仲良くしたいと考えていたという。
そんな話を聞きながら着替えたせいか、モニカは少し気分が晴れてきた。
(もしかしたら王妃殿下も、そう思ってくれるかしら)
少なくともカリストが帰ったきたことには喜んでいたようだし、王妃との関係が良好であれば、いずれはカリストと国王の間のわだかまりが解けるかもしれない。
「ソフィアは、王妃殿下のこともご存じなのよね? どのような方なのかしら」
王妃は体調を崩しがちだそうで、パーティーなどには滅多に顔を見せない。だからモニカも、王妃を近くで見たのは裁判の時が初めてだった。
カリストの乳母だったソフィアなら、王妃にかなり近い関係だったはず。そう思って聞いてみたが、ソフィアは急に表情を曇らせる。
「申し訳ございません。私は長らく王宮を離れておりましたので、現在の王妃殿下の状況は存じ上げないのです……。モニカ嬢もあまりご無理はなさらないでくださいませ」
「……わかったわ」
無理をしなければ付き合えないような人物には見えなかったけれど。こればかりは直接会って、確認するしかない。
そのころ。神聖宮へと向かう馬車に乗っていた国王と王妃は、死刑台に運ばれるような気持ちで怯えていた。
「あなた……本当に女神様は王宮を奪いにきたわけではないの?」
「ブラウリオの説明では、伯爵家では警備しきれなくなったそうだ。それに神聖宮はもともと女神様のお住まい。我々が拒むことなどできないさ……」
国王は、裁判で奇跡のような光景を目にしたものの、モニカ・レナセールが女神の生まれ変わりであることには、若干の疑いを持っていた。
けれど先日、教皇がモニカを神殿に招き、今後の話し合いをしたという。詳しい決定事項はまだ王宮に届いてはないないが、聖女が守護者の執務室を女神に譲り渡したというニュースは、瞬く間に貴族の間に知れ渡った。
神殿での居場所を確保したということは、教皇もモニカを女神だと認めた証拠。
単に息子の婚約者として扱ってよい相手ではないと、実感していたところだった。
そんな時に、ブラウリオから知らせが入った。女神が国王夫妻との謁見を望んでいると。
挨拶をしたいだけとは聞いているが、何か要求があるのかもしれない。
カリストに対するこれまでの扱いへの謝罪なら、素直にするつもりだ。むしろ、長年に渡り王家を苦しめてきた呪いを解いた女神には、感謝しているくらいだいだ。
ただ、王位を要求された場合は苦しい選択が迫られる。この国はすでにブラウリオを次期国王にするために様々な準備をしてきた。
いまさらカリストに王位を譲るとなると、貴族間でも揉め事が起きる。なにより、呪いが解けたカリストをすんなりと受け入れた妻が、また拒否反応を示すかもしれない。
それくらい妻はブラウリオを溺愛している。
どうかこれ以上の問題は起きないでくれ。国王はそれを願うばかりだった。
モニカが謁見室へと向かうと、すでに準備を終えたカリストが待ち構えていた。カリストも守護者の衣装を身にまとっている。彼はまだ正式な守護者ではないが、その心づもりでこの謁見に挑むようだ。
エスコートされて祭壇の前までくるとカリストはうやうやしく、「お座りください、女神様」とモニカに一つしかない椅子を勧める。
「カリストの椅子も必要では?」
「そのうちな」
カリストは準備するつもりがなさそうに、モニカの隣へに立つ。王子に立たせるのは申し訳ないが、むしろ今のカリストは満足げな表情だ。
(守護者の仕事ができてうれしいのかしら)
「今日はよろしくお願いしますね」
「任せろ。モニカも、女神としての謁見だということを忘れるな。俺の両親だからといって遠慮する必要はない」
「そうさせてもらいますね」
こうなってしまったからには、カリストの両親からの印象を良くしようとは思わない。虐げてきた息子の婚約者が誰であるかを、再確認させるほうがよさそうだ。
そのほうがソフィアが不安そうにしていたことと繋がる気がする。
ソフィアがなぜあんな顔をしたのかはわからないが、王家にはまだモニカが知らない事情がありそうだ。
「国王陛下と王妃殿下のご入室でございます」
ラモンが謁見室の扉を開けると、カリストの両親が入室してきた。
国王は王冠とマントを身に着け王笏を持っており、王妃はティアラにマント。二人ともきっちりと正装をしている。
そしてモニカの近くまで進み出てきた二人は、その場にひざまずいた。
「慈愛の女神モニカ様にご挨拶申し上げます」
(裁判の時とは大違いね……)
あの時はしぶしぶカリストとモニカを認めた雰囲気だったけれど、数日のうちに心境に変化でもあったのだろうか。
「お二人とも顔を上げてください。――ラモン、お二人に椅子を」
用意された椅子に二人が座るのを確認したモニカは、にこりと二人に微笑みかけた。
「本日は急な私の要請に応じてくださり感謝します。ブラウリオ殿下からもご説明があったと思いますが、私の家が民の間で知れ渡ってしまったもので、より安全なこちらへ身を置くことにしました。カリスト殿下のご両親にもご挨拶したくてお呼び立てしました」
謁見の理由を説明すると、カリストの両親は少し表情をやわらげた。モニカも緊張しているが、どうやら国王夫妻も女神との謁見に対して緊張していたようだ。
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