146 王宮での暮らし2
「うれしいですわモニカ嬢。それでは女性同士で、お部屋の見学へ参りましょうか」
ソフィアがそう提案するので歩きかけると、カリストが慌てた様子で呼び止めた。
「いや……、案内は俺が」
「いけませんよカリスト殿下。男女の生活階をきっちり分けるとおっしゃったのは殿下ですからね」
「だからその説明を兼ねて」
「ご説明は私がしておきますのでご心配なく」
(そういえば、カリストがうちの両親にそう説明していたわね)
その約束をきっちりと守るために準備をしてくれたようだ。それを案内しながら説明するつもりだったようだが、ソフィアは今から厳守させたいらしい。
息子に悪い噂が立たないよう心配している、親心に見える。
「ふふ。私の生活空間はソフィアに案内をお願いしますね。カリストにはあとで共用部の案内をお願いします」
ここはソフィアの意見に賛同して、モニカは宮殿の中へと足を踏み入れた。
その瞬間、懐かしさがこみ上げてきて、ここに住んでいたころの記憶が蘇ってくる。
魔獣王の置き土産として記憶が戻って時は、淡々と情報を受け取ったような気分だったけれど、実際に当時ものに触れると懐かしい気分にさせられる。
「こちらは、当時とあまり変わっていませんね」
「内装は時代に合わせて変えてきたようだが、基本構造は当時のままだそうだ」
モニカはうなずきながら、前方にある階段まで歩いて手すりをなでた。
(この手すりの艶も、あのころのままね。ルーたちが喜ぶわ)
この手すりが滑り台にちょうど良いと、楽しそうに遊んでいた当時のルーたちを思い出してモニカはほほ笑む。
それからソフィアに向けて振り返った。
「私に詳しい案内は必要ないみたい」
そう伝えると、ソフィアは理解したようにほほ笑む。
「さようでございましたね。改めてご挨拶申し上げますわ。おかえりなさいませモニカ嬢」
ソフィアのその言葉が、心に染み入る。
神殿を訪問した際はひたすら女神扱いに慣れなかったが、女神として再びこの地に戻ってこられた。ここはそれを最も感じられる場所だ。
それから、三階の各部屋の使用用途をソフィアに説明してもらったあと、約束どおり一階の共用部の案内をカリストに頼んだ。
一階には、食堂と談話室、図書室などがある。そしてカリストが最後に案内したのは、やたらと重厚な扉の部屋。謁見室だ。
謁見室の中は、国王の謁見の間のように、長い絨毯の先に数段の階段があり、その上に豪奢な椅子が設けられている。国王の謁見の間と違うところは、そのさらに後ろに祭壇があることだ。
「これから女神として謁見する場合に使うといい」
「私が使うことはあまりないと思うので、カリスト専用になりそうですね」
「そうか? すぐに使うことになると思うが」
正式に誰かが訪問する予定もないはず。モニカは首をかしげたが、翌日、カリストの言葉が本当だったことを思い知らされる。
翌日の夜。夕食を終えてから談話室でくつろいでいると、ラモンが入室してきた。
「モニカ嬢。そろそろ国王陛下と王妃殿下との謁見のお時間でございます。ご準備をいたしましょう」
モニカはにこりとうなずく。先日、カリストの両親に挨拶したいとブラウリオにお願いしたところ、今日の夜なら予定を入れられることになった。本来なら謁見は昼間におこなわれるが、個人的なご挨拶なので国王夫妻もこころよく受けてくれたらしい。
「カリスト。私、これから本宮へ行ってきますね。国王陛下と王妃殿下にご挨拶してきます」
カリストは両親と関わりたくなさそうだったので、モニカは一人で行くつもりだった。けれど「俺も同行する」とカリストは立ち上がった。
「こちらに住むことになったとご報告するだけなので、私一人で大丈夫ですよ?」
「いや。今回は俺が悪かった。ブラウリオたちの体験談を聞かされて考えが変わったよ」
どうやらブラウリオは、リアナが王宮に滞在していた時の気持ちをカリストに話したようだ。
カリストはそれを聞いて、モニカに同じ居心地の悪さを感じさせたくはないと考えてくれたようだ。
「うれしいです。けれど、カリストの気持ちも置き去りにはしないでくださいね」
「むしろ、今回は見ものだろ? あいつらがどんな顔して謁見に来るのか楽しみだ」
相変わらずな考えだとある意味感心していたモニカだが、ふと違和感を抱く。
「謁見に、いらっしゃる……?」
モニカは謁見を願い出たはずなのだが、国王夫妻が謁見に来るとはどういう意味か。
混乱していると、カリストが意味ありげな笑みを浮かべながらモニカの肩に手をおく。
「忘れているようだが、この地上において、モニカより尊い者は存在しない」
(ってことは私、国王ご夫妻を呼び出してしまったの?)
ブラウリオもそんなことは一言も言っていなかったのに、なぜこうなった。
未来の義両親と良い関係を築こうと思っただけなのに、完全に裏目に出ている気がしてならない。
けれどカリストが前向きなので、なんとか乗り切らなければ。
また他作品になりますが、書籍化のお知らせです。
『私を断罪予定の王太子が離婚に応じてくれないので、悪女役らしく追い込もうとしたのに、夫の反応がおかしい』がレジーナブックス様から4月20日に出荷開始される予定です。
(書籍タイトル:『悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい』)
それに伴いまして、アルファポリス様の規約に従い、書籍化部分を取り下げることになります。
4月19日の夜くらいに削除作業を始めますので、読書中の方はそれまでに読了をお勧めします。
書籍化に関する詳しい情報は、予約開始・書影公開など出そろいましたら、活動報告にてお知らせいたします。




